図書紹介
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「戦わない経営」 White Flag Management
(浜口隆則著、ビジネスバンク発行、2007年02月07日、2版、62ページ、プレゼント本)

金子 雄二 ((有)フローラワールド):5月号

今回紹介する本は非常にユニークである。題名もユニークであるが、価格のないプレゼント本である。この本が出版された経緯が冒頭に紹介されてある。会社創業10周年にあたる2006年12月24日クリスマスの日に、お客様に感謝を込めて「ありがとう」という思いで贈ったそうである。この本の内容は、著者である浜口氏((株)ビジネスバンク、社長)の経営に関する筋の通った方針を一冊の本にまとめたものだ。筆者は、最初にプレゼントされた松山真之助氏(webook編集長)の紹介でこの本を知った。早速、申し込みをしたが既に在庫が無く、増版中とのことで実際に手にしたのは2月の上旬であった。そしてこの本を読んで内容に感動して、先輩、友人等の関係者にプレゼントすべく有料で10冊申し込んだ。1週間後にプレゼント本とご担当の名刺が添えてあり、こちらが依頼した請求書は入っていなかった。何かの間違いではないかと思いメールをしたが、あくまでプレゼントであり無料とのことで有難く頂くことになった。この一連のやり取りで、「戦わない経営」の基本がこのプレゼントの精神にあると納得し、贈呈された10冊を積極的に再プレゼントし、プロジェクトマネジメント(PM)関係者にも伝えたいと思ってここで取り上げた訳である。

この本の中で、クレド(CREDO)の話しが2つ出てくる。クレドは、以前ここで紹介した「仕事で一番大切なこと」(林田正光著、2005年3月号)に書かれてある。念のため先方に確認したら、リッツ・カールトンのクレドと全く同じ考え方であり、こちらも20数項目あって毎朝のブリーフィングで社員がクレドの身近な話を発表しているそうである。この本では「仕事とは喜ばれること」(our team CREDO 13)が紹介れている。お客様に喜ばれる仕事をするには、何をしなければならないか。会社中心でなく顧客優先である。このクレドの底流には、経営としてスタッフが幸せでなければ、お客様を幸せにすることが出来ないというポリシーが流れている。同時に、お客様が幸せになれば、スタッフも更に幸せになる。Win&Winの関係を顧客、会社、社員が共に成り立つ経営を考えている。このあたりが「戦わない経営」の原点かも知れないが、詳細は以下のお楽しみである。この原稿を書いている過程で先方に確認したと書いたが、その中で、この本が5月上旬から有料(1,260円税込み)でアマゾンや書店で発売されるとの話があった。多分、この本の評判が広がって出版社が目を付けたのかも知れない。評判の「戦わない経営」の考え方が、我々の分野でも「戦わないPM」として使えるかどうか考えてみるのも面白いと思っている。

「戦わない経営」とは    ―― 経営とは、市場原理に従った企業競争では? ――
この「戦わない経営」という言葉を聞いて、一瞬「これって何?」という印象であった。40年以上もサラリーマン生活を送り、企業の生き残り競争の中で育った筆者には考えられなかった。しかし、この本を読んで感動し納得した。この考え方を実行している著者(浜口隆則氏)とその会社に興味を持ったが、これは後で触れるとする。先ず、「戦わない経営」について、その原点が書いてある。キーワードは、小さな会社、生き残り、雑草、不戦勝である。この考え方は、目からウロコが落ちる発想である。確かに、大草原でなくても、木や草の生えている所で、雑草はたくましく生き残っている。これはごく自然なことで、よく耕された農耕地では、雑草は駆除される運命にある。そうしないと農作物が逆に生き残れないからだ。だから雑草が駆除されない場所で生きることを考えれば、戦わずして勝てる。所謂、不戦勝(勝ち残れること)になる。小さな会社や新しい会社が既存の畑に進出しても、余程の特異性や資本力がなければ生き残れない。要するに「戦う必要のない場(分野)」が結果として「戦わない経営」に繋がる。だか、話はそれ程単純ではない。この考えの基本には、人生・仕事・経営は「幸せ」に直結するという理念が貫かれている。即ち、幸福追求型の経営である。だから「経営は、関わるすべての人が幸せにする仕組み」であると定義としている。そして、先のクレドで「仕事で遊ぶ」(our team CREDO 12)と、遊ぶように楽しい仕事で毎日を過ごす。これは夢物語ではなく、現実にある話である。

この考えを実行している著者とは、どんな人物であろうか。巻末のプロフィールと関連ホームページから少し調べてみた。20代で起業家を支援する企業(潟rジネスバンク)を創業し、起業家専門会計事務所、ベンチャーキャピタル会社、起業家教育事業など複数の会社のビジネスオーナーである。同時に、起業のアーリーステージの事業に投資する投資家(エンジェル)でもある。ここまでの紹介では、よくある若手ベンチャー企業家の成功者の一人の話である。しかし、ここに大きな違いをホームページ「企業と幸せ) 」に披露している。それによると「幸せ社長を一人でも多く増やす」を目指し、自分のことで終わらせない自分のミッションを明確化した。そして自分の体験から「成功する起業の条件」を理解し、実践してもらいたいと関連する教育事業を起業化した。この一つが「幸せ社長スクール」である。それによると起業した会社で10年以内に失敗するのは、9割である。だから起業家には、もっと成功の条件を知ってもらう必要性を痛感して事業化したという。この「幸せ社長」に関しても、ただ企業として成功する理念だけではなく、具体的な条件を定義している。一般的な幸せの条件(3つの自由)を起業家にあてはめて、行動の自由(好きな仕事を楽しんでやる)、経済的自由(優れたビジネスシステムを持っている)、社会的ストレスからの自由(関わる人達に認められる関係を築いている)を確立することを前提としている。このプロセスを学ぶのが「幸せ社長」である。

「戦わない経営」のミッション  ―― 自分にとっての居場所が分かりますか? ――
著者は、数千社の起業の現実を見てきた「起業の専門家である」と紹介し、その経験から「戦わない経営」のミッションを考えたと書いている。そのたくさんの失敗している中で、簡単に成功してしまう人がいる。その人は、自分の居場所を以前から知っているかのように活動しているという。その人は、自分が生れてきた意味を知っているかのように「場所」と「役割」を演じる。これは起業の業種分野と業態ということであろうか。いずれにしても、その居場所は社会から与えられた運命的なものである。その場所は、自分らしく振舞える場所であり、「戦う必要のない場所」である。だからその居場所を全うする責任と使命がある。これがミッションであると著者は宣言している。更にこれは自分だけでなく、居場所の分かった人が「ここが私の居場所だ」と宣言しようと呼び掛けている。それは自分にとって大切な場所だけでなく、社会にとっても大切な場所であるからだ。先にこの居場所を求めて起業する会社の9割は失敗すること書いたが、残りの1割が成功を収めるのだから、簡単にその運命的な居場所を探せる訳ではない。このことについて、小さな会社が簡単に一番になれるコツを紹介している。それには2つあるという。最初は、ポジショニング(自分の存在する場所)を徹底的に考えて「誰もいない場所」に自分を置くことである。誰もいないから「敵」もいない。新規の場所であるのか、ニッチであるのかは、その人が「戦う必要のない場所」の居場所と考えた所である。次が、その居場所で「一番である」と宣言する。誰もいない場所で「一番だ」と宣言すると知らない人は、それを一番であると認知する。同時にこの一番は、業界最初、どこにもないもの(サービス)、一生懸命仕事することかもしれない。こうして小さな会社が小さな場所で自分の居場所を確立する。

この居場所探しを「幸せ社長スクール」や「スターブランド」や「起業サポートファーストライフ」等で、事業として取り組んでいる。「スターブランド」について中味がイメージ出来ないので少し触れておこう。サブタイトルは「小さな会社のブランド戦略」である。所謂、企業宣伝をサポートするプログラムである。これを「スターブランド計画」と称して小さな会社やお店向けに開発した「ブランドづくり」である。 CIやロゴ、印刷物などのブラッシュアップといった、いわゆる「部分的なブランド戦略」ではない。小さな会社やお店のスタッフ力の強化、ビジョンの表現など、もっと経営的な「全体戦略」としてのブランディングになっているのが特徴であると紹介している。小さな会社は独自の宣伝やブランドづくりは難しい。そこで業界や地域で独自のブランドをつくった実績あるビジネスオーナーから話を聞くセミナーや、ワークショップに参加して自分で体得するプログラムである。更に、ブランドづくりは専門的ノウハウを必要とされるので専門家の紹介やコンサルティングをしている。因みに、このスターブランド社の代表も著者が兼ねている。「起業サポートファーストライフ」であるが、サブタイトルは「初めて出会う、私だけの人生」とある。これは起業に関するコンサルテーション全般を事業としている。「起業はライフスタイル」だから「自分らしく生きる人生」「起業で本当に必要としているもの、それは社長自身の生き方である」等々経営を超えた生き方のコンサルティングでもあるようだ。

「戦わない経営」のゴール    ―― 日本の開業率を10%に引き上げます! ――
著者の会社(潟rジネスバンク)のホームページに「私たちのゴール ――日本の開業率を10%引き上げます!――Since1997」と書いてある。これは著者(会社代表者)のことばであり。社是であるという。10年前に著者が創業の意気込みを表したものだが、ホームページにもある通り日本の社会ではベンチャー企業が育つ社会環境に乏しい。アメリカのようにベンチャー企業が育まれる状況は、経済的、技術的、制度的、社会的等々に自由闊達ではない。筆者も外資系ITベンチャー企業に身を置いた人間としてよく理解できる。だから「戦わない経営」のゴールが、開業率を引き上げると宣言する発想と勇気に敬意を表したい。そこで「起業家を支援する企業が、起業家に支援されて成長してきた」と書いている通り、「戦わない経営」に至るプロセスが結果として起業家(顧客)に支えられて独自の居場所となった。これらは最初に居場所を見極めて、日本の開業率のアップを目標に、そこに特化して努力を続けたから果たせたのだ。従って、現在注目を集めている「オープンオフィス」の事業には、将来の夢を実現化するノウハウが込められている。この「オープンオフィス」は、その言葉の意味が表すように起業家が居場所を具体化させる場(事務所)の提供である。通常起業する場合、事務所の確保は初期段階で必要とされるものである。

この「オープンオフィス」には、ハード面ソフト面の新しい考え方(起業家ニーズを満たすもの)が、過去の自分たちの経験を生かしたものが網羅されている。興味のある方は、ホームページをアクセスすれば一目瞭然である。しかし、特異なソフト面でのサービスがあるので、少し触れておきたい。色々あるが、独立起業サポート(法人登録から助成金申請手続き)や経営相談(会計・経営コンサルタントの全般的相談)からネットワーク設定(初回)及びPC環境サポート等を無料でやるという。他に異業種交流会や会報誌「瓦版」(会員のコミュニケーションツールの毎月発行)やらスタッフの人的サポート、福利厚生サービス等もメニュー化されたいる。普通の賃貸オフィスにないシステムと宣伝しているものが多々ある。これらの詳細は、この書籍紹介の枠を超えるので差し控えたい。いずれにしてもベンチャー企業やSOHO事業家を支援するものである。ここに至る数々の活動実績から、財団法人21世紀ニュービジネス協議会「ニュービジネス大賞」を受賞(1999年5月)している。これは著者の経営的な居場所が、社会的な居場所として、顧客から更に第三者からも評価されていることを物語っている。この本の最後に「ありがとう、なんて素敵なことばだろう。この言葉があるから、私たちは頑張れるし、温かい気持ちになれる。人に感謝できるようなってから、とても幸せになった気がする。ありがとう。これからも、たくさんの人からそう言われるように、たくさんの人に、そう言えるように、生きていく。」と結んで、社員ひとり一人の「ありがとう」のメッセージが手書きで書かれてあった。(以上)
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