図書紹介
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死ぬまでに達成すべき 「25の目標」
(中島秀隆+中西全二著、PHP研究所、2007年01月05日発行、1版、333ページ、3,500円+税)

金子 雄二 ((有)フローラワールド):4月号

今回の本については、色々なことを紹介しなければならい。先ず、この本は著者から贈呈されたもので、直筆で丁寧なお礼状が添えてあった。それによると以前紹介した「プロジェクトマネジメント『危機からの脱出マニュアル』」(2006年11月号)のことが書かれてあった。そういえば、その本の訳者が中島氏であった。確かに、前文で筆者との関係を触れたが、決してそうした下心があってのことではない。その時、紹介の本と同名の講座のことを書いたが、それから数ヶ月後にこの本を出されたことになる。次に本と同じ内容の研修プログラムが公開されている。ホームページによると、PMの理論を「明るく、楽しく、元気よく」学べ、想定プロジェクトを実務に即した形で体験できるとある。そのプロジェクトは「社内に託児所を作る」「東京湾にカジノを開く」「ビートルズを復活させる」など、楽しく夢のあるものを題材にして、理論と実践を学ぶのだそうだ。人気ある研修プログラムなので、その公開講座はで通算100回を越えているという。更に、著者はこの研修を企画・実施する会社(プランネット(株))の社長で、(株)ロゴ(小説「ゴール」エリヤフ・ゴールドラット博士のTOC(Theory of Constraints)理論によるPMコンサルテーション会社)の会長もされている。その傍ら、今回紹介のようなPMに関する本を多数書かれている。そしてPMAJの大御所として、毎年PMシンポで講演とベンダーブースに出展されている。

恐縮ながら、筆者の個人的なことを少し書かせて頂きたい。前々回に田坂先生の「これから何が起こるのか」を紹介した。そこでWeb2.0革命が資本主義の全てを変えるとあった。それは、「衆知創発」「主客融合」「感性共有」の革命であると書いている。まさしく、それを証明するかのようなことがあった。詳しくは「100人100冊100%」という本(100冊倶楽部mosoプロジェクト著、サンケイ総合印刷、2月8日発行)の巻頭文に書かれてあるが、Web上の知らない人が、それぞれ1冊の書評を2ページに纏め、1万円の基金を出して自主製作本を出版した。これは先のWebで無ければ実現しないことで、お互いの感性を共有したものだ。この本は、夕刊「フジ」(3月9日付け)でも取り上げられ、編集人の石黒謙吾氏(「盲導犬クイールの一生」の著者)が「自分の書いたものが本になる、というプロが忘れかけている本作りを楽しむ感覚がここにある」と語ったことを紹介している。そして先生はこの本の出版パーティの記念講演で、「Web2.0革命の実践例がここにある。更にこの流れは加速される」と話された。筆者もその内の一人として時代の流れを肌で感じた。

人生はプロジェクトか?   ―― プロジェクトマネジメントとの対比 ――
この本は、人生をプロジェクトに見立てた「自分の目標を実現させる」ことを主眼に書かれてある。だから本書には、数多くの演習問題や例題があり「自分で考え、自分で決める」、そして「実行することが大切である」と書いている。筆者は、その問題を自分で解きながら著者の顔を思い浮かべて、実はプロジェクトマネジメント(PM)の学習・実践そのものであると感じた。従ってこの本には、自分自身の目標達成のノウハウが書いてあるだけでなく、PMのプロセス演習も学べる仕掛けになっている。そういった観点から読んでみると面白い。先ず、人生はプロジェクトなのかという問題から考えている。プロジェクトの定義は、PMBOKにある通り「独自の成果物またはサービスを創出するための有期的活動」で、目標達成に向けた問題解決の活動である。著者は、具体的に「通常の業務におさまらない目標を達成するために、期間を限定して行なう一連の作業である。それはスコープ・品質、時間、資源の三つの要素のバランスを取りながら行なう」と書いている。これを人生と対比して、スコープ・品質=何を、どこまでやるか、時間=人生、現在80年、資金=普通のサラリーマンが一生稼げる金額、3億円を前提とした。時間と資金は、それぞれ個人差があり一概に決められないが、一応の目安である。問題は「何を、どこまでやるか」である。それを明確にするのが本書の狙いであるが、これも限られた目安で実現可能な範囲を想定して「25の目標」としている。なぜ「25」なのかは、次の項目で触れている。

ここまではプロジェクトを人生と置き換えて考える前提を明らかにした。プロジェクトを実施した経験のある方はお分かりの通り、事前計画や前提条件はスンナリ決まるが、問題はプロジェクト実行中に起きる。だから実行中に起きるであろう問題点を想定して、事前に対処策(危機管理)を考えて準備して置くのが普通である。所が、想定外の問題が起きるのも極一般的なことである。それをマネジメントするのが、PMマネジャーの腕の見せ所であるが、人生の場合はどうなるのであろうか。本書では、期間、役割分担、文句をいう相手の3点に絞って書いている。役割分担であるが、自分がオーナーで自分が計画して、自分一人で実行するので、全く自己完結型のプロジェクトである。だから文句をいう相手は、自分自身に対してである。自分の人生プロジェクトの結果責任は自分自身がとる。オーナーとして、実行者として当然のことであるが、その自覚、覚悟が大切なのである。最後の期間であるが、目標ごとに決められるので、着々と実行するだけだから問題はない。あるとすれは、ある日突然にタイムアウトとなることが想定されるが、それはそれで人生プロジェクトの終焉であり、その時点が完了である。ここで一番重要な問題点は、「何を、どこまでやるか」である。プロジェクトの場合は、顧客や会社や上司(PMマネジャー)からオーダーされたからやるメカニズムがある。しかし、人生プロジェクトは、自分自身の意識(意欲)に掛かっている点にある。その意識を系統的に育成させるのがこの本である。

人生プロジェクトの目標とは?    ―― なぜ、25の目標か ――
「あなたの人生目標とは何ですか」と聞かれて、直ぐに答えられる人が何人いるだろうか。普段からそれ程気にしなくても生活に支障ない問題であるが、目標のある人と無い人では、結果が大きく違ってくる。それは偉大な人や成功した人をみると、多くの人は人生の目標を持って生きてきたと語っている。このことは人生に限らず、何かを成し遂げるには、目標が必要であることは、PMに携わる人間として充分理解している。そこで目標を語る前に、目標の達成イコール成功をシッカリ把握しておく必要がある。著者は、成功とは「@設定した目標を達成する。Aチャンスに対して準備ができている。B一つの挫折から次の挫折へと、やる気を失わず移行する」と定義している。ここで興味があるのは、Aのチャンスに準備できている点である。チャンスはいつ巡ってくるか分からない。そのチャンスをチャンスとして捉えることが出来るのは、自分の目標が常にハッキリしていることと、その目標に向かって普段から努力していることである。目標は成功への道標である。更に、Bの挫折について、挫けないことと書いている。成功するには、目標に向かって時間を掛けて進んでいくことである。そこには挫折(失敗)もあるが、目標を失わないことである。多くの成功者は、「失敗しても諦めなかったから、今日の結果がある」と語っている。目標がいかに大事な人生プロジェクトの支えとなっているかが分かる。結果でなく行動である。

目標の大切さは分かった。ならば、いかに目標を作成するのかと最も基本的な質問に著者は丁寧に答えている。先ず、なりたい自分(狭義のビジョン)を明確にする。何でもいいが、例えば、お金持ちなって外国で暮らしたいというのはどうか。そこで次に価値観を明確にする必要があるという。それは、なりたい自分の意思決定に重要な影響を与える判断基準となるからである。お金持ちとはどの程度で、外国とはどこで、どう暮らすのか等々の価値判断イコール価値観である。なりたい自分は、この価値観を反映したもので、最終的な「人生の目標」である。先の例から、X千万円の資産と毎月yy万円の収入が得られ、オーストラリアで夫婦共に暮らしたいを目標とした場合を考えて見よう。実際には、いつまでにどう実現するかのアクションプランが必要である。実現の可能性が無いものは、単なる願望で目標とは言わない。目標は常に実現可能なもので、チャレンジするから実現される。著者は、その目標を25として薦めている。なぜ25なのか。それは人生80年のポートポリオとして、考えられる「7つのエリア」をカバーすることを前提としてからである。@家庭、A仕事、B社会・友人、C健康・スポーツ、D教養・成長・変化、E趣味、F経済に分類される中に具体的な項目を書き目標とするのだが、各項目が年代と共に変化して複数となり25とした。この本に学生から60代の女性まで10名の事例が挙げられているが、参考になる。著者からの更なるおまけは、これらの目標が達成された目標を「人生の101のリスト」に書き込もうと提案している。このリストには、達成されなくてもベストを尽くしてチャレンジした目標や、更に目標に挙げていなくても、自分の人生で記憶に残る出来ごとも書き入れる。こうした実績と感動から次なる目標の糧にする方法を提案している。

人生プロジェクトの達成とは?  ―― 人生プロジェクトの実行 ――
今までは、人生プロジェクトの目標設定について縷々述べてきたが、いよいよ実行である。プロジェクトは実行されて、完了(達成)しなければ意味がない。計画だけのプロジェクトなら絵に書いた餅である。この計画の実行が最も重要な部分である。まさに人生プロジェクトの実行にPMの手法が有効であると著者が力説している。人生をプロジェクトに置き換えて25の目標をたてた。本書では、その実行を「標準10のステップ」のPMとして書いている。このステップ1(目標を明確にする)からステップ5(スケジュールを作成する)、ステップ8(リスクを考慮する)等々の説明は、PMに携わる者にとって詳細は不要である。しかし、PM経験の無い人にとっては、PMの仕事の進め方やPM技法の理解方法として、身近で分かり易い擬似体験が簡単に出来るので有効である。このステップの説明の中で、理論的には誰しも必要と理解しているが、実際に余り行なわれていないものがある。それは、最後のステップ10(振り返りをする)である。プロジェクトが終了したら、必ずその結果が良くも悪くも纏めなければならない。そのプロジェクトの振り返りで、上手くいったことと良かったことは、定着させる。逆に上手くいかなかったことと悪かったことは、改善する。そしてそれをデータベース化して、教訓の共有化をして、次のプロジェクトに活用しなければならない。どこの会社でも、どんなプロジェクトでも結果報告はそれなりに纏められている。しかし現実は、理想通りに纏められているケースが少ないと聞いている。理由はいろいろあるだろうが、この機会に教育ベースから振り返りの必要性をもっと理解して、多くのプロジェクトで実行されるべき大事なことである。

人生プロジェクトは、実際の会社プロジェクトと違って、オーナーとプロジェクト実行者が一緒なので予算、納期、品質等の利害の対立はない。だから現実は、予定と実績を管理しているケースが少ないのが問題である。例えプロジェクトの目標が完璧であっても、実行段階で管理が甘ければ目標達成は難しくなる。管理がキチント成されていれば、目標達成は可能で、次なる目標へと進んでいける。そのポイントは、自己管理力(意識・意欲)にある。その自己管理力こそが、人生PMのキーである。ここまできて、ハタと自分の身近なPM関係者を思い出した。PMのスペシャリストやプロフェッショナルとして、過去に輝かしい実績を上げた方々の人生プロジェクトはどうであったのかと考えてみた。会社の仕事としてのプロジェクトは申し分なく目標達成されたが、自分の人生プロジェクトは違った結果になっているケースを多く知っている。会社人間として、自分の時間を殆んど仕事に費やして自分のプロジェクトの時間が無かったのではなかろうか。多分、現在PMに携わる多くの人もこの部類の方々で、人生プロジェクトを考える余裕さえなかったか。これから時間的余裕が出来たら、PMの専門家として自分のためのプロジェクトを考える必要がある。この本に「等身大のガイドライン」と紹介してあるのは、そのことを意味している。だからPMの専門家も未経験の方も、この本に書かれてある「25の目標」をシッカリたてて、自分の人生プロジェクトの実行にチャレンジして貰いたいと思っている。(以上)
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