グローバルフォーラム
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「グローバルPMへの窓」第17回
躍進するアジアのPMその5 世界最強50カ国入りを目指すカザフスタンのPM

GPMF会長  田中 弘:4月号

 アジアのPMシリーズの最後に中央アジアの雄カザフスタンのPM動向について紹介したい。筆者は、3月中旬にアルマティ市で開催されたカザフスタン プロジェクトマネジメント協会(KZPMA)の第1回PM大会に招かれ、招待講演と半日の特別セミナーを行う機会を得た。
 日本で、カザフスタンはアジアの国と言われてもピンとこないかもしれない。ユーラシア大陸の中央にあり、東は中国新疆ウイグル地区と接し、西はカスピ海に面し、ティンギス油田や、これから開発が本格化するカシャガン油田がある。北はロシアの西シベリアに続く。多民族国家で、ロシア人とカザフ人(蒙古系)がそれぞれ人口の30%程度を占め、他にトルコ系、朝鮮系、ドイツ系などの国民で構成する。まさにアジアとヨーロッパが融合したような雰囲気の多様性の国である。
 国土面積はヨーロッパ全土に匹敵するが人口は1600万人に留まる。かつては、のどかなシルクロードの国であったが、今世紀に入ってからは原油価格の高騰で、カザフスタンにはオイルマネーが潤い、経済成長率は数年にわたり9%台を維持して一気にブレークした。お陰で、国民一人当たりのGDPは6千ドルを突破し、完全な中進国入りをしている。同国の目標はThe World’s 50 Most Competitive Countries (競争力上位50カ国)に入ることで現在62位まで上がってきている。
 このようなカザフスタンであるが、石油・天然ガス資源に恵まれていることから、ソ連からの独立後間もない1993年には、世銀の要請に基づき、エンジニアリング振興協会が、アルマティーで、エン振協のプラント契約モデルと付属のPM体系のセミナーを実施している。しかしながら、(多くの国と同様に)国としてのPM普及には時間がかかり、96年から、一部関係者がロシアPM協会の支援を受けて単発的なPMセミナーを開催する程度で推移してきた。2000年代に入り、原油高により、カザフスタンが経済テイクオフを達成し、国としての開発投資・社会開発が加速されるなかで、PM普及のハブとしてPM協会設立が検討され、2003年にIPMA(International Project Management Association:国際PM協会連盟、現在40カ国)の加盟協会としてKZPMAが設立された。
 PM大会にはKarim Masimov首相直々のメッセージが寄せられ、国の要職(カザフ議会の経済・予算委員長)にあるKZPMA会長が基調講演を行い、KZPMAの下記の役割が強調された。
  • カザフスタンは、世界の50強国の仲間入りをするために、経済開発(産業の多角化を含む)と社会開発を急ぐ中で、これらの推進を担う人材のグローバル標準的なマネジメント能力開発を急ぐ。KZPMAは、開発プロジェクトの高い完成能力を目指すために先進的なPM体系の普及とPM人材開発のアンカー機構であること。
  • PMはオイル&ガス産業のみのマネジメント手法ではないことを認識し、カザフスタンのあらゆるセクター(特に、投資金融、社会開発、高等教育)にPMを普及する。
  大会には約150名が参加したが、下記のような成果があった。
  • 首相自らがメッセージを寄せ、また、国家の要職にある会長が1日半の大会期間中を通して出席して、国としてのPM振興の姿勢を示した。
  • 国の戦略を担う、国営企業のホールディングカンパニーや財団の上級幹部が出席し、大会を盛り上げ、PMの重要性をエンドースした。
  • PM活用で先行するオイル&ガス関連企業のみではなく、広い分野からの発表があり、国としてのPM振興の基盤が示された。
  • 知的レベルが高い参加者を確保し、彼らの今後のPM力推進への期待が持てる。
 また、筆者の特別セミナーには45名ほどの受講者が集まり、テーマである組織としてPM力構築にしっかりと食いついてくれた。

 このように、国としての決意を込めてPM人材育成に乗り出すカザフスタンであるが、課題もある。つまり、同国では、急速な経済発展で、これを支える各種の実務処理キャパシティが十分に整備されているようには見られない。企業や政府エージェンシーに必要なのは、先ずはプロジェクトをあるいはビジネスをしっかりと推進するエンジニアリング能力であり、ビジネス実務能力である。この面での整備が急がれる。PM力の育成はこれらと連携してのイニシアティブとなる。マネジメント論だけが空回りするといささか危険であると考えられる。
 旧ソ連の国であり、社会インフラが一応整っており(但し、一部老朽化)、国民の教育レベルが高い(人口110万人のアルマティー市に、大小合わせて70もの大学があるとのこと)。
また、多民族国家であるが、融和がしっかりできており、社会が安定している。そして、経済が好調で、国営の投資財団を介して、石油・天然ガス モノ・インダストリー構造からの脱却(産業多角化)を図っている。これらは強みである。
 一方、バブル経済の匂いがかなり強い。たとえば、市内各所での建設ラッシュ(首都アスタナはアルマティより更に建設ラッシュであると)、競い合う不動産投資、ホテルやレストランの高料金、嗜好品の高物価、市内を走る高価格帯の車が目立つ。同国で企業らしい企業は国営企業であるが、職員に求められる高度成長に対応できるスピードや英語力は課題である。また、民間企業は、ここ数年の経済成長で数十人から数百人規模になった企業ばかりで、しかもいくつかはM&Aを経てビジネスグループとなっている。マネジメント機構が成長に伴って整備されているとは考えにくい。企業規模がやり手の経営者のマネジメントスパンを超えた際にはリスクがあるのではないか。
 これらのプラスファクターとリスクファクターがあるなかで、サステーナブルなPM力構築に向けてのカザフスタンの勝負はこれからである。  ♠♠♠

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