グローバルフォーラム
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「グローバルPMへの窓」第16回
躍進するアジアのPMその4 目覚めるタイガー インド

GPMF会長  田中 弘:3月号

 今回はインドのPMがテーマである。
すこしばかり海外のPMに触れたことがある読者であれば、米国を中心として世界の各地に、インド人(あるいはインド系人)のプロジェクトマネジャーやPM関係者が実に多いことに気がつこう。実際、筆者が属するエンジニアリングのプロジェクトの世界では、顧客側にも、同業のコントラクター側にも、インドを離れて海外の企業で活躍するインド人のプロジェクトマネジャーがかなり居る。
 特に、顧客側のPMコンサルタントにインド人のプロジェクトマネジャーが配員されると、コントラクターはぎりぎりやられる。なにせ、「官僚制度は英国で発明され、インドで完成された」と発言するインドの政府高官がいるくらいであるから、決められた計画をコントラクターにいかに正確に達成させるかといった役割を演じるにはインド人はうってつけである。
 世界のITプロジェクトの現場でもインド人のプロジェクトマネジャーが実に多い。インドはITそのものだけではなく、ITのPMにおいても世界の主要勢力である。
 PMスクールにおいても同じで、米欧の大学員のPM専攻生でインド人学生は特に優秀である。
 要するに、インド人は潜在的なPM能力を持ち、経験あるインド人プロジェクトマネジャーは、特にデリバリー型のPMでは最高のパフォーマンスを発揮する、といえよう。
 このようにインド国外のインド人のPM力は高く評価されてきたが、インド国内のPM整備には時間がかかった。しかし、ここにきてようやく本格的にテークオフしようとしている。整備が遅れたことには次の事情がある。
  • インドの基幹産業はかなりの部分を国営企業に依存しており、国営企業でプロジェクトを実施しても、納期やコストを守るという気迫が薄く、PM力やPM体系ひいてはPMのインフラを議論する風土がなかった(現在は良いほうに変わったが)
  • 世界のどこでも先進的なPM能力構築に主導的な役割を果たしてきたのはエンジニアリング会社であったが、インドの国営石油・ガス公社(群)の発注形態が(一括請負ではなく)バラ発注であったので、強いPM力を磨くことに、いまいち、インセンティブが働かなかった。(しかし、これも4年前くらいから、ランプサム契約が主流となり、コントタラクターの意識が変わり、PM力強化に取り組みだした。)
  • 強力な指導者を得がらも、国としてのPM力を上げるインドPM協会の活動に会員(企業)がいまひとつ熱心ではなかった。
 この悠久な流れも、ここ2年ほどで変わってきている。インドは経済成長も著しく(近年のGDP成長率は8-9%台)、国に動きが感じられ、国内に生活格差の問題は残るものの、国としての存在感が高まっている。
 そして、インドのPMは、大略2つのストリームに分かれながら、世界でのプレゼンスを上げるべく取り組んでいる。
 ひとつは、国営企業やエネルギー、化学、製造企業などが加入するインドPM協会 (Project Management Associates, India)の活動の加速である。PMAは会長のAdesh Jain氏が上位組織の国際PM協会連盟IPMA(40カ国)のプレジデントを06年まで2年間務め、また06年11月にはIPMAの世界大会をニューデリーで開催したことで、国として強くPM力を強化する意識が各セクターに高まっている。また、前号で報告した、中国での国を挙げてのPM力強化に触発されて、中国をライバルとして政府と大企業が一体となって動こうとしている。
 ちなみに2006年のPMA大会の最後に大会として政府に向けて発表された大会宣言は次のとおりである。
@ プロジェクトマネジメントは、他のプロフェッション(医師、弁護士、公認会計士など)と同様、有資格者が行わないと成功率は高まらない。国営企業のプロジェクトを含めて一定規模以上のすべてのPMはIPMA資格の有資格者が行うことを要求する。
A 国営企業のプロジェクト企画と監理にプロジェクトマネジメントの導入を必須とすることを要求する。
B 政府と企業の幹部は、職員・社員にPM資格の取得を奨励することを望む。
C インドは高等教育でのPM専修課程の設置を急ぐべきである。
 もうひとつのストリームはITのPM力強化であり、こちらはインドに5つあるPMIチャプターを通じて主として個人を中心として行われており、世界的な競争力を有する企業がこれ後方から支援している。また、チャプター間の連携も強いようで、ITのプロジェクトマネジャーである会員は生き生きと活動をしている。

 今回でアジアのPM編の最終回と思っていたが、3月にカザフスタンの第1回PM大会で講演を行うことになったために、1回延長して、エネルギー資源を梃子に経済成長が急な中央アジアのPM事情の報告を次回に行いたい。♠♠♠

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