グローバルフォーラム
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「グローバルPMへの窓」第18回
プロジェクトマネジメントはワインの如し

GPMF会長  田中 弘:5月号

 フランスのプロジェクトマネジメント賢人と言えば、PMAJとP2Mの大変な理解者であるリール大学院大学Christophe Bredillet学部長と、IPMAの会長として辣腕を振るい、また筆者の前任者として5年間GPMFの会長を務めたGilles Caupin氏である。お二人が、そして他のフランスのPM関係者がよく言うのが「プロジェクトマネジメントはワインの如し」という喩えである。
 その心を読めば、ワインは一つ一つの銘柄の個性が強いし、同じ銘柄でも醸された年によって飲み口が異なる、プロジェクトもどれ一つ同じものはないし、それをマネージするプロジェクトママネジャーもかなり癖が強い、ということであろう。つまり、飲んでみないと、やってみないと分からない。
 最近のプロジェクトマネジャーは、若干、金太郎飴化している感もないではないが、一流になれば個性も強いし、海外プロジェクトをやっている人達は概してワインを好む。しかし、プロジェクトマネジャーが好むのはお手ごろ価格のワインである。一仕事を終わった夜の、ワインを飲みながらの各国PMよもやま話は大変楽しい。
 筆者がワインと出会ったのは、大学4年を1年休学して南米放浪に出かけた1965年で、26日の太平洋横断の船旅を終えてたどり着いたチリ中部のラ・セレーナという町でであった。静かな太平洋の湾に面し、一方は近くに迫ったアンデスの雪峰を臨むバールで、ブラックオリーブをつまみながら初めて飲んだ赤ワインにたちまちハマり、痛飲し、翌日は二日酔いで一日寝ている羽目になった。
 海岸地方=海の幸=白ワインという常識はここにはなく、漁師を含めて止まり木の全員がオリーブで赤ワインを飲んでいた。なにせ、昭和40年のことで、日本でワインといえば、一般にはまだ赤玉ポートワインを即連想するほどワイン貧国であった日本の貧乏学生はチリの赤ワインにはいたく感動したものだ。
 ホテルでテレビをつければ、Concha y Toro、Concha y Toroと盛んにチリ最大手のワイン生産者が宣伝をやっていた。ちなみに、その1年後にアルゼンチンを訪れたら、このチリの隣国でも同じ宣伝をやっていたが、見ている人は皆クスクス笑っている。何でか、と思ったら、「お前、Concha(貝)がこの国で何を意味するか分かるか」と言われた。
 その後社会人となり、南米で大きな製油所プロジェクトを3つもやっていたエンジニアリング会社に入社できた。これで、南米に今度はプロジェクトで行ってまたワインを飲めるぞ、という夢はとうとうかなわず、20代の最後の頃からインドネシアの駐在員になってしまった。
 それまで高価で飲めなかったワインも飲めるようになったが、インドネシア時代に飲んでいたのは、地理的に近く、70年代初頭にワイン輸出が始ったオーストラリアの若々しいワインであり、あるいは、南アフリカのワインであった。
 80年代は、海外案件のプロポーザルの仕事をしていたので、海外出張が年に何回かあり、その際に飛行機のビジネスクラス(シニアのみならず新入社員までビジネスクラスに乗れた良き時代であった)でエアラインごとに異なるワインのリストからほとんどすべてを試してみるのが大きな楽しみであった。
 90年代の前半は、上司の影響で同じ醸造酒でも日本酒(地酒)に傾倒し、ワインは月に1回飲むかどうかであったが、90年代の後半から海外のPM大会に足繁く通うようになると、また、ワインとの付き合いが復活した。時々またチリのワインが飲みたいな、と思っていたら、この頃からチリワインが日本に上陸して、Concha y Toroがスーパーの酒売り場に並んだ際には感無量であった。
 ということでワインと出会ってから40年になるが、全く自慢にはならないが高いワインには縁がない(一度ヨーロッパで奮発して80米ドルのワインを2本ほど買って帰り、大事に取っておいたら、酢が立ってパーにしてしまった)。しかし、日常飲むワインで失敗しないノウハウは大体身につけた。ささやかなノウハウとは以下のようなことだが、この駄文を読んで他にも良い情報をお持ちの方は是非お知らせください。
Q ワインらしいワインで気楽に飲むワインは小売価格でいくら程度のものか。
A 品質の割に安価である、つまりコストパフォーマンスが高いのはチリとオーストラリアのワインで、1,000円から1,200円程度のものであれば十分。イタリア、アルゼンチン、南アフリカのワインは若干割高であるが、これも1,200円から1,500円程度のものがよいであろう。
Q ワインといえばフランスであるはず。フランスのワインはどうか。
A 他の国のワインのように葡萄の種類の銘柄ではなく、(赤ワインであると)いくつかの品種の混合で、産地あるはシャトーによる銘柄表示であり、値段と品質あるいは自分の好みのバランスが分かりにくい。また、やはり割高であるので、千円台前半のものは当たり外れがあって、ただフランスワインであるという満足感を得たい人以外には薦められない。チリワインの1,000円から1,200円のレンジの品質のものであるとフランスワインでは1,800円以上のものを買う必要があろう。
例外は、La Cuvee Mythiqueというオレンジ色のフクロウが書かれたラベルの南フランス産赤ワインで、大きなスーパーや酒販店で(サッポロビール扱い)1,400円から1,500円程度で売っているが、これはフランスのワイン格付家も絶賛しており、日本でも飲んでいる人には大変評判がよい。
Q カリフォルニアほかアメリカのワインはどうか。またイタリアワインは。
A アメリカのワインは、米国人の好みに合わせて安価レンジのワインは他の国でドライに属する葡萄の品種でも概して甘めである。甘めのワインが好きな人には問題ないが、そうでなければ、2,000円以下のカリフォルニアワインは控えたほうがよさそう。イタリアのワインはまず値段に比例した品質であり安心である。イタリア独特の葡萄品種で作ったワインが一番多いがトスカーナのワインなどは値段が手ごろ(1200円-1400円)でおいしい。
Q 一方の旗頭ドイツワインはどのように飲めばよいか。
A ドイツワインは白がほとんどで、リースリングという葡萄から作られている。香り高く上品な甘さが売りである。筆者がドイツワインを飲むのは主に疲れている時で、ワインだけをゆっくり飲むと明日への元気が湧いてくる。1,200円程度のワイン(できれば、Rhein Hessen産)で十分であろう。フランスワインではあるが、ドイツワインに近いアルザス(Alsace)ワインは若干高め(1,800円程度から)であるが、芳香がすばらしい。
Q 筆者お薦めのワインは。
A 独断と偏見を覚悟でいくつかお薦めすれば、安い順に:
@ Concha y Toro (チリ)赤・カベルネソービニオン、白・シャルドネ
  1,050円〜1,200円 @大手スーパー
A Jacob’s Creek (オーストラリア)赤・カベルネソービニオン+シラーズ、白・シャルドネ1,050円〜1,200円@大手スーパー
B Isla de Maipo Reserva (チリ)赤・カベルネソービニオ、メルロー、白シャルドネ
  1,300円 @成城石井
C Los Vascos(チリ)フランスの超名門シャトー・ラフィット・ロートシルトがチリで作っているワイン。赤・カベルネソービニオ、白・シャルドネ@デパート、大手酒販店
Q 陥りやすい罠は何。
A ちょっとした大きなワイン売り場であれば常にセールをやっている。数千円から千円台後半のワインがセールという際にはお買い得であろうが、ボルドーやブルゴーニュのフランスワインを1,000円程度で叩き売りをしているときは手を出さないほうが賢明である。筆者は、安さにつられて何度もこのようなセール・ワインを買ったが、ことごとく難ありであった。「期間限定」とかセールのキャッチに書いてあるが、これは酸化が進んでいるという事実の別の表現であると考えてよい。失敗を忘れた頃また、このようなワインに手を出しては封を切って一口飲んでは、廃棄を繰り返している。
もうひとつ、ハーフボトルのワインは、品質維持が難しいようで時々難ありに当たる。また価格はフルボトルと比べて割高である。
 やってみないと分からない(プロジェクト)、飲んでみないと分からない(ワイン)。名言ではありませんか。♣♣♣


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