PMプロの知恵コーナー
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まい ぷろじぇくと (23) 「もの作りサプライズ」

石原 信男:2月号

 サプライズ製品とのめぐり合い
 2007年の新春は、とてもしあわせな気分での幕開けになりました。ふとしたことから画期的な性能のオーディオスピーカーにめぐり合えたからです。
 オーディオに造詣の深い方々の間ではすでによく知られたスピーカーなのでしょうが、音楽を聴くことが趣味の一つでありながら、ある程度の音さえ出れば「まあいいか」としていた私にとっては、とんでもないスグレモノに思えたのです。
 さっそく通販に申し込んだところ、なんとうれしいことに翌々日に届きました。それだけで「いいんじゃないの」といった気分が盛り上がってきたというものです。早く聴きたい気持をぐっと抑えて、まずていねいに開梱。説明書の通りに接続し好みのCDをスタート。一呼吸おいて出てきた音のなんと素晴らしいこと、「すげー!すげー!」を年甲斐もなく連発してしまいました。
 通販カタログの宣伝文句をあえて引用するならば、「試聴したビル・ゲイツが『私が7千万円かけて揃えたスピーカーより良い音だ』と悔しがったというスピーカー。日本の一流音響メーカーなどで採用され、高級ホテルでは全室導入、オペラ歌手や指揮者など、著名な音楽家たちを唸らせ、やがて感動を与える“タイムドメイン”」とのこと。
 この通販カタログに接するほんの数日前、開発者の由井啓之さんという人がこのスピーカーを世に出すまでの経緯を偶然にもTVで見たのです。それによれば、由井さんはかつて音響メーカーの研究所長であったがリストラを機会に独自の音響理論に基づくスピーカーの商品化を目指して自社を設立したとのこと。この事前情報がかつて機械設計の仕事に携わっていた私のもの作り感性に響いて「いつかは欲しいな」との願望を芽生えさせていたところでした。そんなドンピシャのタイミングもあって早速の購入に至った次第です(ビル・ゲイツが悔しがった\315,000のものではない\18,900のミニスピーカーのほうですが)。

 地球環境レベルでの製品品質
 身近で珠玉のような製品にめぐりあえるのは、とてもうれしいものです。私の場合には、その製品がコンパクトであるとさらにそのありがたさが増します。その理由は、コンパクトであるほどその製品のライフサイクルにおける全消費エネルギーが少なくてすむと思うからです。製品作りに費やされるエネルギーや廃却処分する際に消費するエネルギーが少なくてすみ、加えて製品の流通過程でハンドリングに必要なエネルギー(ガソリン消費量とか)が少なく、製品価値に見合った対価にしめる搬送コストの割合も少なくてすむはずです。流通過程では価値の創造が皆無に近いことを考えれば、コンパクトな製品は大きくて重いものにくらべて省エネ指向といえます。今回私が買ったスピーカーは、従来のミニコンポのスピーカーセットにくらべ10分の1ほどの重さでした。
 性能を維持しながら小型化をはかるということは技術的にとてもむずかしいことです。既存の知識の延長上では得られない新たな知識による新たな価値の創造(今までになかった小型化)の領域にはいるからです。新たな価値の創造に必要な新たな知識と既存の知識との乖離が大きければ大きいほどリスク(結果の見通しの不透明さ)は大きいといえます。エンジニアリングの実践を通じて私もずいぶんと見通しの不透明さに悩まされたものです。この“タイムドメイン” という画期的な性能と小型化を両立させたスピーカーは、開発者の由井啓之さんの独自の音響理論をもとに実現したもので、この開発プロジェクトのリスクは計り知れないものがあったと想像できます。

 かつてのサプライズがよみがえる
 1979年にソニーの“ウォークマン”が発売されました。その性能の素晴らしさと軽少さへの新鮮な驚きは、今でもかなり鮮明に記憶に残っています。この頃の私は、日本とメキシコの両政府合弁プロジェクトで神戸とメキシコシティーの間を行ったりきたりしていましたが、メキシコ側スタッフの熱烈な求めでずいぶんとウォークマンの運び屋をやったものです。私自身もホテルで、そして休日にはウォークマン持参でソカロ(中央広場)のメトロポリタン・カテドラルに出向いて、日本から携行のものや現地調達のテープを聴いて疲れた神経を癒しました。この頃のウォークマンはうれしいことに二人分のイヤホーンが使える気くばりもされていました。
 1985年にはミノルタから自動焦点一眼レフカメラ“α7000”が発売されました。このときは「気がついていなかったがオレはこれを待っていたんだ」といった驚きの満足感を覚えさせられました。カメラとしては従来品よりもやや大型でしたが、シャッターを半分押し込むと、レンズがウニュウニュといいながらけな気に動いて勝手に焦点が合ってしまう。このときも「お前はすごいなあ」と興奮したり、可愛く思えたりといったところでした。でも当時のサラリーからするととても高価であったことはたしかですが、思い切って急ぎ購入したのもなつかしい思い出です。

 潜在的願望を気づかされるよろこび
 “ウォークマン”と“α7000”から、私は日本のもの作りのすごさを身近で感じることができました。その後、コンパクトデジカメとかプレイステーションといったようなゲーム機、携帯電話機なども含めて、私たちの周辺には生活を豊かに楽しくするに役立つ素晴らしい製品が数多く提供されてきました。
 でも、私には“ウォークマン”と“α7000”のときに覚えた強烈な印象、自分が明確に表現できない潜在的願望を「これでどうだ」と具体的に商品の形で提示された驚きと喜び、これに匹敵するものにしばらくめぐり合えない寂しさを感じていました。そんな折、今回の“タイムドメイン”スピーカーに出会ったのです。ぶっちぎりで世界の最先端を走っている独自の技術、これも誇らしくうれしいではないですか。新年早々から日本のもの作りもまだ健在であることを再確認できて、本当に喜ばしいかぎりです。

 そんなわけで出来る限り時間を割いて音楽鑑賞にひたっているこの頃です。オペラ系のものを聴くと歌手・オーケストラ・コーラスが劇場ごと一塊となってスピーカーからほとばしり出てくるような、臨場感というのでしょうか、そんな雰囲気にひたって楽しんでいます。
 「1万8千円に見合った音がでれば良しとしようか」程度の軽い気持で試聴もなしにぶっつけ本番で買ったのですが、試聴していたなら多分5〜6万円でも買っていたことでしょう。それほどにコストパフォーマンスの優れた見事な商品であったことにあらためて満足しています。まさに日本のもの作りバンザイといったところです。

 次回も身近な まい ぷろじぇくと について考えます。ご期待ください。
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