PMプロの知恵コーナー
先号

まい ぷろじぇくと (24完) 「 不都合な真実」

石原 信男:3月号

 寒さにはからきしヨワイ私は、このところの暖冬に救われています。例年だと1月から3月初旬にかけては冬眠状態で過ごすのですが、今年は戸外での活動の機会を自分から求める気分になっています。
 そんなぽかぽか陽気の一日、「不都合な真実 (An Inconvenient Truth) 」という映画を観に行きました。米国の元副大統領アル・ゴアさんが地球環境保護を訴える活動をドキュメンタリータッチで映画化したものです。正直のところかなりのショックを受けました。

 「世界の気温1月も最高 日本、観測史上4番目(気象庁見通し)」、「消えゆくヒマラヤ氷河 40年で1/5に(温暖化影響国連が予測)」、「中国でも暖冬」、これははからずも翌日の新聞で目にした見出し記事(日本経済新聞 2007年2月10日)。そしてTVでは「キリマンジェロの雪があと数年で消える」といった内容の番組が・・・。これらの事実が、地球環境が歴史上かつてなかったと思える速さで変化していることを感じさせます。
 10年ほど前から私自身も地球環境への問題意識を持ち始めていました。ただこの時点での意識は、多くの企業が「地球にやさしく」といっせいに唱え始めたことへの疑問から生じたものでした。そして自著で次のように述べたこともありました。

 「いったん破壊された自然環境を修復するということは、いくら科学が発達した時代とはいえ不可能に近い。いま私たちは、宇宙というアパートの地球という部屋に無償で仮住まいをさせてもらっています。散々に汚し、直せばいいんだろう、ではあまりに傲慢に過ぎます。感謝を込めて、もっと大切に使わせていただく謙虚さが必要でしょう。
 このところ猫も杓子も“地球にやさしく”などといっていますが、とんでもない思い違いです。これは人間や企業の思い上がりです。本当は“地球がわれわれに対してやさしい”のであって、人間や企業がそのやさしさに甘えて乱暴狼藉をはたらいているのです。ですから“地球にやさしく”ではなくて“地球に感謝して”あるいは“地球に謙虚に”というのが正しい考え方であろうと思われます。」

 それから10年が過ぎました。こんな人間や企業への不満をつぶやいている時ではなく、一人ひとりが実行に移さなくてはならない時機がすでに到来してしまいました。ゴアさんのメッセージからも、ひしひしとそれを感じます。

 人類が地球上に放出する二酸化炭素全量の1/3を占めるある某国の政府首脳が、「経済と環境とは両立しない」などと京都議定書にそっぽを向いたまま数年が過ぎました。温暖化による環境破壊の影響が自国には及ばない、あるいは、ありあまるカネでなんとか自衛できる、なんて考えているのであれば地球の尊厳への冒涜です。いくら経済が発展しても、カネがもうかっても、地球そのものが生命維持の地盤にふさわしい環境を損なってしまったなら、経済的な利益を享受するどころかそれこそ元も子もなくなってしまいます。

ゴアさんは ten things to do(私にできる10の事) を呼びかけています。
  Change a light(省エネルギー型の電化製品や電球に交換しましょう)
  Turn off engine(停車中はエンジンを切り、エコ・ドライブしましょう)
  Recycle more(リサイクル製品を積極的に利用しましょう)
  Check your tires(タイヤの空気圧をチェックしましょう。
          車の機能を良くすれば無駄なエネルギー消費を防げます)
  Use less water(こまめに蛇口をしめましょう。
          水道の送水に使用されるエネルギーを削減することができます)
  Avoid products with a lot of packaging(過剰包装、レジ袋を断りましょう。
          買い物はリサイクル・エコ・バッグを使いましょう。)
  Adjust your thermostat(エアコンの設定温度を変えて冷暖房のエネルギー削減
          をしましょう)
  Plant a tree(たくさんの木を植えましょう。1本の木は、その生育中に1トン
          以上の二酸化炭素を吸収することができます。)
  Be a part of the solution(環境危機について、もっと学びましょう。
          そして、学んだ知識を行動に移しましょう。
          子供たちは、地球をこわさないで、と両親に言いましょう。)
  Encourage your friends to see An Inconvenient Truth(映画「不都合な真実」を
          観て地球の危機について知り、友に勧めましょう。)

 我が家がマイカーをやめて2年ほどたちました。公共の交通機関を主に利用し、徒歩で30分か1時間ぐらいの距離ならばできるだけ歩くように心がけています。マイカーを使わなくなったことで、その分だけ二酸化炭素、洗車用の水やワックス、タイヤ、道路の補修などなど環境汚染防止や資源の使用量削減に努めていることになります。一人ひとりの成果は微々たるものですが多くの人の集まりになれば、大きな成果につながるはずです。ゴアさんの ten things to do はまさにこのような意識への働きかけと思います。

 某国では、SI単位系(International System of Unit)が主流の時代にまだヤード・ポンド系が度量衡の基盤となっています。世界の趨勢からはとり残されている感じはするものの、数値の大きさが日常生活の感覚に合っているということから不適切なシステムとは言い切れないでしょう。しかし、日常生活の感覚では100というクルマの速度計指示を私たちは100キロメーターととらえますが、これが某国では100マイルとなってしまいます。前者に対し後者の走行速度は1.6倍、エネルギー消費量は速度の2乗つまり2.56倍になります。ヤード・ポンド系をSI単位系に変換し(当然クルマの速度計も)道路標識の速度表示をそのままに据え置くことで、某国におけるクルマの二酸化炭素排出量をほぼ半分にすることができそうです。この日常生活の感覚面に加え、たとえばハイブリッド車に乗り換えるといった国際的な最先端テクノロジーの感覚を併せ取り込むならば、さらに二酸化炭素の排出量は大幅に減少するはずです。
 地球における数十億年といった生物の悠久の歴史、その中のほんのわずかな時を人間は「そんなに急いでどこへ行く」のでしょうか。その行き着く先が地球環境の破壊であったなら私たち人類の前途はなくなります。そうならないように私たちすべてが今すぐ行動に移すべき時が迫っていると、私はそう考えます。

 阪神淡路大震災によって多くの市民が電気・水・ガスの節約にいろいろな工夫をこらしました。また交通網・道路網の破壊によって歩くことを余儀なくされました。地球のやさしさの上で安穏と暮らしていた私たちは、ごく限られた一部の地域とはいえ地球にことが起こったときの壊滅的な破壊のイメージをまともに体験しました。
 地震は不可抗力であるがゆえに事前に手を打つことはできません。でも地球温暖化による環境破壊は人間がもたらすがゆえに人間の力でなんとか防止できるはずです。なんとかできる人間の一人として私も地球温暖化防止への努力を日々続けていきます。
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 24回にわたって まい ぷろじぇくとを連載させていただきましたが、今回をもって完了とします。2年間一度も途切れることなく続けたことに達成感のようなものを覚えます。読んで下さった方々には心から厚くお礼を申し上げます。
石原 信男

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