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「TPSに学ぶPM−WG」
〜ITベンチマーキングSIG〜

WGリーダー 株式会社FFC 小原 由紀夫:1月号

1.TPSとは
 今、トヨタ自動車が元気です。連結利益は1兆円を越え、世界での生産台数は世界トップを視野に捉えた成長を続けています。この利益と成長の源流は昭和20年代から取り組んだトヨタ生産方式(以下、TPS)TPSにあると言われています。
 日本では、多くの製造業の企業がTPS注目し、取り入れ、流通業や病院などにおいても取り組む企業が増えています。TPSは今、急に注目されたのではなく、1973年のオイルショックがきっかけで注目され、1978年に大野耐一氏が著書「トヨタ生産方式」にて一般に紹介されていますので、30年以上強弱が繰り返されながら注目されています。
 海外では、90年代に注目され、ジェフリー・K・ライカー氏の著書「ザ・トヨタウェイ」などにより研究成果が広まり、「かいぜん(Kaizen)」は国際共通語となっています。また、トヨタ自動車は、年間生産台数の約半数を海外で生産するため、世界中の海外工場の現地従業者へTPSを広めています。トヨタ自動車はグローバル化を睨んでこれらの暗黙知を「トヨタウェイ2001」を2001年に明示化し、それ以降毎年、主に海外で富士重工業1社分の生産増加に携わる従業員の育成に活かしています。その結果、海外の従業員も、日本の従業員と同様に着実に「カイゼン」しています。このように日本で生まれたTPSは海外へ広まり、根付いています。
 TPSが製造業や日本の枠を超えて広まっているのは、理由があります。「トヨタ生産方式」という名称や「アンドン」、「かんばん」のようなツールのため、TPSは、製造現場のための手法と考えられ易いですが、TPSは「人づくり」を基盤とした経営システムです。TPSは、トヨタ自動車の内部においても、繰り返し作業の製造現場だけでなく、新車開発においても開発期間を3年から1年への短縮に活かされていますし、ハイブリット車開発や新ブランド構築など新たな挑戦に対しても活かされています。

2.WGの目的
 ITプロジェクトは、進化するIT技術を駆使して企業戦略の実現や経営課題を解決するソリューションを提供していきます。ソフトウェア開発手法であるアジャイル開発やPMBOK第3版からタイムのツールと技法に追加されたクリティカルチェーン法には、徹底的なムダを排除するTPSとの共通点が多くあります。もちろん、この2つの手法は、ITプロジェクトにおけるプロジェクト・マネジメントに適用することは可能です。従って、これの2つの技法と共通点を持つTPSはITプロジェクトにおけるプロジェクト・マネジメントに適用できると考えました。
 本来、ITプロジェクト現場は、「トヨタウェイ2001」に示される「あらゆるステークホルダーを尊重し、メンバーの成長をプロジェクトの成功に結び付けること念頭に行動できる」環境であるはずです。しかし、実際のITプロジェクトの現場では、PMやメンバーが1人で問題を抱えて疲弊し、元気がなくなる姿が散見されます。これらが、ITプロジェクト全体に悪影響を与え始めていると感じています。
 そこで、本WGではITプロジェクト現場を元気するためにTPSを適用することを目指し、研究することとしました。

3.現在までの活動内容
 ソリューションを創造するITプロジェクトの現場を考えていくため、最も現場に近いTPSを中心に考え、必要に応じて「トヨタウェイ2001」などに発展させていくこととしました。
(1) 基本的な知識を整える。
 まず、ITプロジェクトをIT以外のプロジェクトと比較して、「プロジェクトの価値を共有できていないことが多い」というITプロジェクトの課題を確認しました。次に、TPSを大野耐一著「トヨタ生産方式」から「付加価値の流れ」から始まり、「チームワーク」がTPSの二本柱であるジャスト・イン・タイムと自働化の交点であることに注目しました。
 ITプロジェクトの「プロジェクトの価値共有」の課題にTPSが適用を考える方向性を確認しました。

(2) IT現場を観察する。
 自分達のIT現場を観察することにしました。まず、毎日行う朝会の行動をタスク分割、作業割り当て、問題認識などに分析しました。ITプロジェクトの行動は、TPSにおける標準作業、チームワーク、なぜなぜ5回などと共通点があることがわかりました。
 次に、TPSを身につけた人たちとITプロジェクトを経験した人からヒアリングし、「基本に忠実。当たり前のことと当たり前のようにやることができる。」ことが最大の相違点とわかりました。

(3) IT現場とTPSを比較する。
 IT現場の現実とTPSの具体的な相違点を議論しました。
 まず、問題を発見した場合の行動が挙がりました。ITプロジェクトでは問題をエスカレーションしても問題が発見した人へ戻ってしまい、解決者になるケースが多くあります。エスカレーションしても変化がないので、IT現場では序々に問題を挙げなくなっていくことがあります。TPSではライン作業者が異常を発見してラインを停止できるアンドンなどの仕組みがあります。問題をエスカレーションするため、「アンドン」をITプロジェクトにうまく取り入れられないだろうかに論点が挙がりました。
 次に、問題をエスカレーションするための組織環境を議論し、「風通し」が良い組織にするためには、問題が発生する現場にスポットライトを当てる必要があることを再確認しました。これには、TPSの「現地現物」が適用できそうだとわかってきました。

(4)TPSをIT現場に活かす方法を考察する。
 現在、3つのアプローチで取り組みを始めようとしています。
1) プロジェクトアプローチ:プロジェクト憲章を活用してステークホルダーを含め価値を共有する。
2) トップダウンアプローチ:プロジェクト価値を共有するための価値判断基準を組織として共有する。
3) ボトムアップアプローチ:プロジェクト・メンバーから悩みを発信して共有する。

4.メンバー
 WGは、20代のプロジェクト・メンバーの方からTPS研究家のベテランまで30歳以上の年齢差がある方々が集まり、「ITプロジェクト現場を元気する」議論し、活動しています。様々な立場や経験の方が議論するので、本では得られない気づきを得ることができます。TPSは、大野耐一氏自身が「TPSは未完成」とおっしゃるくらいなので、活動は続けていきます。
 参加をお待ちしています。

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