PMプロの知恵コーナー
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「夢工学(51)」

川勝 良昭 [プロフィール] :1月号

親愛なる読者の皆様へ
「いろいろな夢を持って」良いお年をお迎えられたことと思います。その夢を実現するために、夢破壊者に夢を破壊されない様に頑張って下さい。
皆様の夢が実現し、成功することを期待しております。

夢工学は超長期の連載になりました。悪夢工学の連載が終われば、数年前に始まった 「夢工学」を新たなバージョンで連載したいと思います。

川勝良昭

悪夢工学

6 夢破壊者はどこにいるか
●夢破壊者の居所
 悪夢工学の基本的考え方は、夢破壊者は必ず存在するということである。そして夢破壊者がどの様な人物であるか、どの様に識別するかを前章で議論した。しからば夢破壊者は、存在するとして一体何処にいるのだろうか。それを明らかにしたい。

1)「ある言葉」で表現される集団にいる。
 悪夢工学の対象となるB1などの夢破壊者は、以下の言葉で表現される人物の中に存在する可能性が最も高い。

 現状維持論者、既得権益維持論者、革新、改革、革命を極度に恐れる人物、責任不存在主張者、責任転嫁者、責任回避者、無責任者、保身優先者、私利私欲優先者、自己中心主義者、他人利用者、平然と裏切りをする人物、他人の成功を平然と奪う人物、経営哲学も人生哲学も何も持たない人物、犯罪構成要件を冷静且つ巧妙に回避する高度な知能者、歪んだ夢の保持者、歪んだ野心の保持者、夢のカゲラも持たない人物などである。

(2)「燈台下暗し」にいる。
 夢破壊者は、「燈台下暗し」にいる。夢破壊者はどこに潜んでいるのかを探す場合、最も重要且つ優先してすべきことは、「自分の身近にいないかどうか」を先ず探すことである。

 夢破壊者は、実はかなり高い確率で自分の身内、親友、友人、知人、上司、部下、同僚と取引先の人物などの中にいる。

 「身近な人物を疑う」のは倫理感に反すると一般的には抵抗感が多いだろう。しかし米国テレビ映画「刑事コロンボ」のコロンボ刑事を真似て、「仮説強制実証法」で犯人を見付ける様なつもりで夢破壊者を探してはどうだろうか。倫理感をある程度割り切り、身近な周囲の人物を見渡せば、夢破壊者は意外に早く、的確に見つかるかもしれない。見つかった時はショクである。しかし裏切られた時はもっとショックである。裏切られ、破壊されない様にするため、相手を見抜くことが肝要である。

●夢破壊者は、身近にいないと宣言する人とは
 「夢破壊者など自分の身近にはいない」と宣言する人は、以下のケースのどれかに相当する人物の様に思う。

(1)その人物は、生来、大変患まれた身内、友人、上司などに囲まれている。
(2)その人物は、凄い人物で夢破壊者を見抜くため夢破壊者を近寄らせない。
(3)その人物に、見破られるのを怖がって夢破壊者の方が近寄らない。
(4)その人物が、夢破壊者に完全にコントロールされ、その事すら気付いていない。
(5)その人物は、身近に夢破壊者が居ても分からないほど裸の王様である。

 このケースのどれに自分自身が該当するかを常日頃、自己反省する人で悪夢工学を実践する人は、悪夢に遭遇しないですむ。また大きい失敗をしなくてもよい。

●戦場の味方こそ真の敵だった
 病院の各階に食事を搬送リフトやナースコールなどを発明した人物、クリミア戦争で天使と尊敬された人物、世界で初めて看護学校を創設した人物そして近代看護の礎を築いた人物、この人物こそ「フローレンス・ナイティンゲール(1820〜1910)」である。
フローレンス・ナイティンゲール

 彼女は「戦場で最大の辛苦は、責任回避と保身しか考えない軍医や将校を相手に戦うことであった」と本国への手紙に書いた。戦場の軍医や将校は、彼女の存在を妬んだ。旧式医療法では味方の負傷兵土を救えず、次々と死なせた。にもかかわらず旧式医療法を続け、ことごとく彼女の新治療法による治療行為を邪魔し、彼女の考え方を攻撃した。戦場の敵より目の前の味方の軍医と将校が彼女の真の敵であった。

 彼女は。クリミア戦争後も世の中の「既成概念」や「古い体質」と戦い、「ナイティンゲール看護学校」を創設した。そして「小さな実が大きな森林となる」と自らの夢を語って看護婦の育成ために生涯を捧げた。

 フローレンス・ナイティンゲールの逸話こそ夢破壊者が極めて身近に居ることを示した典型例である。

●社内の味方であるはずの上司が敵
 某企業はあるヒット商品で市場を席巻していた。競争相手の他社は、負けじと新たな機能を付加した新商品を開発し、市場投下を計った。

 他社の新しい投下戦略に対して危機感を募らせた販売一線の営業マンは、一刻も早く対抗手段を講じることを上司や商品企画部門の上司に再三提案していた。しかし現商品が一定量の売れ行きと利益を確保し、同社の主力商品であるため、新たな商品開発と新たな販売戦略の構築に消極的で、また他社の新投下戦略が赤字であることを理由に当該提案は却下された。

 却下した関係者の本音は、その提案者には分かっていた。自分が今の地位にいる間は冒険を犯したくない。失敗したら今までの地位を失うなどが理由であった。この様な状況にあって敵の営業マンから「何故,貴社の様な力のある会社が新しいことに挑戦しないのか」とまで煽られる始末。市場の他社は敵であるが、社内の上司も敵であった。

 赤字続きであった商品は、IT産業の進展とブロードバンドの普及で急激に市場を伸ばし、またたく間にドル箱の商品になった。一方旧来品を改善するぐらいの対応でお茶を濁し、既得顧客と既得市場に甘んじていた主力商品は、急激な市場と環境変化の中で驚くべきスピードで赤字商品に転落した。それだけでない。主力商品の赤字転落は命取りになった。そして信じられない速さで当該企業は傾き、ついに倒産の憂き目に遭遇した。
つづく


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