PMAJ関西
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P2M実践事例研究会関西の活動について

小石原 健介:1月号

 昨年2月の初めにPMAJの渡辺貢成理事より、“P2M実践事例研究会”を発足させるので、関西における活動の取りまとめをして欲しい、との依頼を受けました。これがきっかけとなって、関西におけるP2Mのコミュニティの場、すなわち、プラットフォームが設定され、研究会活動そのものを、一つの実践事例とする活動が進められています。ここでは、その活動状況について、プラットフォームマネジメントの視点から報告します。

1.研究会活動のミッションとその背景
 2001年11月、21世紀型企業再生のための画期的な日本版プロジェクトマネジメント標準ガイドブックとして、P2Mが世界へ向けて発信され5年を経過しました。当時わが国の国際産業競争力は、1992年まで世界ランキング1位であったものが下降を続け、ついに30位に低迷し、競争力の回復が急務となっていました。その後、大規模なリストラや中国の急速な経済発展などにも助けられ、昨年の世界ランキングは、17位まで徐々に回復してきました。そして、P2Mの先進性を代表し、複雑な問題解決の道を開く、プログラムマネジメントの実践事例として、5年前には、新鮮だったカルロス・ゴーン氏によるN自動車事業改革やJR民営化なども今日では、もはや色あせた感を免れない。あわせて、P2Mの資格制度で誕生したPMS(Project Management Specialist)資格者数は、この5年間に全国で2,000名を超え、さらに、PMR (Project Management Resister),PMC (Project Management Coordinator) 資格者もぞくぞくと誕生している。こうした環境の下で、P2Mの理念を活用した最新の実践事例を提供するニーズは、一段と高まってきている。この研究会活動を通して、これらのニーズに応えて行くことは、同時に理念と事例とが合い補完しながら、P2Mをさらに育て、発展させていく上で、欠かせない重要なミッションと言える。

2.プラットフォーム場の設定
1)人材の結集
 プラットフォームは、プログラムを推進する上で必要な異分野の優れた人材を集めて、協働作業をするために用意されるコミュニティの場である。幸い関西では、これまでの旧JPMF関西例会ならびに旧PMCC関西委員会(現在は統一されてPMAJ関西)の活動基盤があり、こうした基盤の人的ネットワークを通して、PMS資格登録者の中から参加者の募集を行い、現在、研究会には、登録メンバーとして30名が参加している。メンバーは、ITソフトをはじめ、建設、プラント、機械製造、医薬、電気製造、電設、インフラ、不動産、教育、コンサルなど多くの異分野から多士済々のメンバーが、世代や役職を超えて参加している。

2)魅力あるテーマの設定とその概要
 テーマの設定については、P2Mを提供する側の論理のみでなく、ユーザーの視点を重視する観点から、メンバーの日常業務に直結した身近なテーマで、かつ自主的活動を促すため、まず、自分が一番やりたいと考えるものを、それぞれが提案した。提案されたテーマについては、内容、テーマ数、参加人数などを検討の結果、次の5つのテーマを設定した。それぞれの概要と狙いについては、次のとおりである。

@ テーマ1「緊急時や予期せぬ難問への対応」
 生きた実際のプロジェクトでは、なかなか教科書どおりには進まず、思いもよらぬ難問やトラブルに遭遇する。こうした事態への対応は、机上の知識や論理、既存の枠組み、原則論のみでは、通用しないケースが多い。そこで、このテーマでは、濃密な現場経験に裏付けされ、実戦で役に立つ暗黙知のマネジメントについて、実践事例を通して伝えようとするのが狙いである。

A テーマ2「プロジェクトXに学ぶ」
 このテーマは、NHKの人気番組、“プロジェクトX〜挑戦者たち〜”全150話の中から約60話を抽出している。そこに、登場するリーダーたちの圧倒的多くは、孤立無援の逆境のなかでスタートする感動のドラマで活躍している。分科会では、彼らのプロジェクトを成功へ導くリーダー像を、プロジェクトマネジメントの行動様式、能力、性格的特質などコンピテンシーの視点から分析している。悪戦苦闘の中で困難を乗り越えるリーダーたちの生き方、日本人の琴線に触れる活躍を、P2M適用の実践事例として、取り上げたところに関心が深い。また、異分野8名の分科会メンバーによる、熱気溢れる研究会活動もNHKのプロジェクトXに匹敵する。

B テーマ3「P2M企業競争力型アーキテクチャの事例研究」
 このテーマは、一昨年度プロファイリングマネジメント研究委員会での研究を引き継ぎ、最先端の医薬品開発について、プロファイリングからアーキテクチャマネジメントの実践事例としてまとめ上げ、P2Mの真髄に迫るものと言える。既にP2M学会やP2Mセミナーでも、その一部が紹介されている医薬品開発のケースをモデルとし、分科会では、事例の対象をさらに“新規ITビジネスの立ち上げ”や“製造機器装置開発”へと進展させようとするもので、それぞれの分野における専門家が参加している。

C テーマ4「複数テーマ(プロジェクト)間の実行優先度の判断・管理の仕組み」
 このテーマは、P2Mによる新しい個別マネジメントの領域で、企業戦略とプロジェクトを有機的に結びつけるプロジェクト戦略マネジメントに直結している。また、内容は、プロジェクト相互の関連性が低いか、あるいは、独立しているマルチプロジェクトマネジメントとの結びつきが強い。実態は業界によって異なるため、広くアンケート調査による実態調査と分析を進めている。

D テーマ5 「EVMの実態調査と実務のポイント」
 EVMは、プロジェクトの進捗状況について、把握・解析・予測を定量的に管理する手法で、プロジェクトマネジメントにおける国際標準としてよく知られている。そして、多くの専門図書でも解説されているが、わが国における活用と普及の実態は、一般にあまり公表されていない。教科書は、あるが具体的な実践事例に乏しいのがEVM活用の実態のようである。分科会では、具体的な企業での適用を試みた事例やそれぞれの業界での適用事例を収集し、組織の成熟度と適用との相関関係などを、切り口として実践事例について、研究を進めている。

3)プログラム交流の場
 交流の場としては、某社会議室(新大阪)で全員参加による隔月毎の定例会議を設け、プログラムの進捗フォロー、分科会相互の情報交換、ならびに特定テーマによる講演などを実施している。この他、5つの個別の分科会は、大阪市内のそれぞれ各所で定期的に集まり活動を進めている。また、昨年10月には、合宿による研究会(参加者22名)を開き、メンバー間のより濃密な交流とコミュニケーションの促進を図った。

2.プラットフォームの運営
1)運営体制
 運営は、世話人代表、事務局、5人の分科会リーダーを中心に行い、PMAJ本部、PMAJ関西ならびにP2M実践事例研究会東京との連携・情報交換などについては、事務局を中心に代表世話人を通して行っている。

2)分科会活動
 少人数(4〜8名)による分科会活動は、効率的に異分野の専門家が一つのテーマで協働作業を推進することができ、かつ、メンバーがそれぞれ保有するノウハウやスキルの交換により、P2Mの理念や専門言語について、より深い理解への手助けとなっている。

4.プラットフォームと研究会活動の課題
@ 最新の実践事例の収集については、機密性の高い情報や問題の真相に迫るものなど、各企業にとって、オープンできないものがあり、有効な実践事例であるにもかかわらず、活用できない制約がある。

A この研究会活動は、PMAJ普及研修部門のP2M部会の年度活動計画・予算に基づいて実施されており、参加者については、ボランティア活動を基本としている。今後、この活動をさらに維持・発展させて行くためには、運営費などの予算についての安定的な確保が必要である。

B 現在、プラットフォームには、多くの異分野から多士済々のメンバーが集まっているが、さらに行政、学界、金融、サービス、物流などを加え、より広い分野から女性も含めた参加者の確保が求められる。

 この研究会で設定されたプラットフォームでは、これをさらに強化・発展させ、P2Mが標榜する理念、取り分け、プログラム統合マネジメントにおけるプラットフォームマネジメントの理念を、実践して行く役割を果たしたい。

以上

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