PMプロの知恵コーナー
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まい ぷろじぇくと (21) 「アナログデバイド」

石原 信男:12月号

 このところ漢字が書けなくなりました。原因はわかっています。パソコンのワープロソフトに頼り切って文章を書いているからに他なりません。辞書の小さな文字が読みにくいのでついワープロの変換機能に頼ったりして・・・。

 ここ数年デジタルデバイドという語を意識するようになりました。デジタルデバイドとは「パソコンやインターネットなどの情報技術(IT)を使いこなせる者と使いこなせない者の間に生じる、待遇や貧富、機会の格差。個人間の格差の他に、国家間、地域間の格差を指す場合もある。」ということのようです。
 アナログ一辺倒といっても過言ではない時代を過ごしてきた私も、年齢的にはデジタルデバイドされる側の一人なのですが、新し物好きのせいもあってか現役時代にはパンチカード式コンピュータに食らいついて何とか簡単な技術計算をこなし、マッキントッシュが出現してからは比較的広範な業務をPCで処理し、マイクロソフト社のウィンドウズというマッキントッシュの亜流が出てからはアプリケーションソフトの多さにつられて、やむをえずウィンドウズにどっぷりとひたってきた次第です。
 そんなことでケイタイもなんとか、パソコンでの買い物もまあまあ、グーグルアースで世界遺産を覗き見して、お出かけ前には路線案内で交通ルートと時間を調べてなどなど、日常生活面でも置き去りされないようそこそこの取り組みは怠っていないつもりです。
 でも冒頭でも触れたように、デジタルデバイドされないようにとがんばっていたはずの自分が、アナログから三くだり半を突きつけられるハメになりつつあることに気づいたのです。アナログデバイドされはじめたのでしょうか。
 少しお堅いレターの類はワープロで下書きをしてから手書き、簡単なやりとりは電子メール、重要なパソコンのメールはケイタイに転送し、年賀状はデジカメの写真に宛名ソフトで宛名書き、こんな便利さをむさぼっていたから “読めるけれど書けない”というツケが回ってきたのでしょう。

 今の情報技術社会とはかなり異なるものの、私が現役で仕事をしていたある時期は生産プロセスの自動化・省力化が盛んな時代でした。私の属していた業界での省力化投資の採算分岐点が600万円/人・年からやがて1,000万円/人・年へ向かうほどの人件費高騰の時代でもあったからです。
 そんな中で私たちプラントエンジニアに課せられた役割というのは、ユーザ側の操業プロセスをいかに自動化・省力化にふさわしい形に置き換えるか、つまり人の感覚や判断というアナログ情報に依存する操作・作業を、いかに情報をデジタル化してシーケンシャルな操作・作業に変えて自動化するかということです。もっともむずかしいのはアナログ情報の塊ともいえる操業ノーハウをどうやってデジタル情報に置き換えるかという点でした。アナログ情報のままでは自動化・省力化のインプットデータにはならないからです。昨今の表現を借りるならば、アートのテクノロジー化いうことでしょうか。
 このような自動化・省力化のためのシステムエンジニアリングにあたって身にしみて感じたことがあります。それは、当たり前のことながら、ユーザの操業プロセスをとことん理解しないことには自動化・省力化に適したシステムデザインができないということです。今のIT系システムエンジニアの方々が新たなシステムの開発に際して直面するであろう“壁”に相通ずるものです。
 その当時の自動化・省力化投資(プロジェクト)にも数多くの失敗例が見られます。失敗の主因は、@今までやっていたことをその通りに自動化しようとするユーザ側の頑迷さ、Aユーザ側の要望とは無関係にシステムデザイン側が自分の世界にこもりきりで物事を進めてしまう身勝手さ、この2点にしぼられるようです。成功の基本はなんといってもユーザ側とシステムデザイン側との協調、これ以外にはありません。加えて、出来ることと出来ないことの峻別とこれへの当事者の理解・納得が欠かせません。
 そのためには、システムデザイン側はアナログ主体の操業プロセスを理解し得るだけの知識が、ユーザ側はシステムデザイン上のデジタル特性についてのある程度の理解が、相互に求められるところです。昔も今も成功を追うための道筋にかわりはないようです。

 プロジェクトマネジメントの領域でもデジタル化は顕著です。したがって、デジタル化に遅れをとってデジタルデバイドされないようにしなくてはならないでしょうし、と同時にアナログデバイドされないようにも十分に配慮する必要があります。
 市販のプロジェクトマネジメントシステム・ソフトを使用する場合を例にとってみましょう。この種のソフトでは、当然のことながら、インプットデータの質がアウトプットの質を決めることになります。どんなにすぐれたソフトであってもゴミを入れたらゴミが、ダイヤモンドを入れたらダイヤモンドが出てくるはずです。ゴミを入れてもダイヤモンドが出てくるなんてことはあり得ないでしょう。インプットデータの質はアナログ的な思考・判断に依存するところ大です。K・K・D(経験・勘・度胸)といった“ド・アナログ”がデータの優劣の決め手にもなって、その結果としてマネジメントを成功に導いたりあるいは失敗に向かわせたりすることもあり得ることです。
 プロジェクトの全体像はきわめてアナログ的であり、そのマネジメントの本質もアナログそのものです。たとえば、プロジェクトの全体最適はトレードオフにある品質・スケジュール・コストの複雑に入り組んだ関わり合いの中にあり、リスクマネジメントは品質、スケジュール、コストこれらのすべてのマネジメントを貫通してかかわりを持ち、品質とスケジュールはすべてコストに帰着します。
 この複雑な仕組みの上に成り立つプロジェクトをデジタルなツールを使ってマネジメントしようとするならば、アナログ的に重なり合った部分や繋がった部分に切れ目を入れて定量的に把握可能なデジタル情報の過不足のない集まりに置き換えなくてはなりません。このデジタル化のためのアナログ手法を用いた段取りこそがまさにWBSです。したがってWBSを抜きにしてこの種デジタルツールの有効な適用は不可能でしょう。
 そんなわけで、プロジェクトマネジメントの世界で自分がデジタルデバイドされないように、それにも増してアナログデバイドされないような心構えをたえず持ち続けなくてはと、自省の念をこめてそのように思うこの頃です。

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 次回も身近な まい ぷろじぇくと について考えます。ご期待ください。
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