グローバルフォーラム
先号   次号

「グローバルPMへの窓」第14回
躍進するアジアのPMその2 アジアPMの老舗 韓国

GPMF会長  田中 弘:12月号

 筆者は本年9月末に開催された韓国PM協会の年次大会に基調講演者として招かれ、韓国のPM事情を直接確める機会を得た。日韓関係がギクシャクしている昨今であり、2年越しに実現した訪韓であった。
 韓国PM界は筆者が所属するエンジニアリング業界の方々がメインプレイヤーの一角にあり、懐かしい香りがするサークルである。大会二日目の基調講演としてグローバルPMの潮流に関して話をした。主催者から「日本のPMのことよりグローバルPMについて話を」という注文がついたのは、若干政治的な配慮がないでもない。
 韓国では、伝統的にエンジニアリング会社や建設会社、またここ5年ほどはIT企業でPMへの取り組みが盛んであるばかりではなく、電力会社、運輸会社、重工業会社も熱心にPM力の向上に取り組んでいるのが印象的である。
 ちなみに韓国のPMP®取得者の数は9,500名であり、日本の半数であるが、日本のように1社で数千名のPMP®を有する企業はない(最大で300名程度)ことを考慮するとこの数字は大変なレベルにある。
 韓国のプロジェクト運営能力強化基盤は、わが国の(財)エンジニアリング振興協会に相当するThe Korean Engineering & Consulting Association (KENCA)と韓国プロジェクトマネジメント協会(Korean Project Management Association: KPMA)が担っている。
KENCAは、韓国のエンジニアリング振興法に基づいて、政府の支援を得て1974年に設立された財団法人であり、エン振協より4年古く、また対象分野もエン振協と同様に狭義のプラントエンジニアリングのみではなく、社会開発やインフラ整備の分野まで含んでいる。しかし、最近は会員企業が少なく、活性がいまひとつである、国としてのプロジェクト運営能力の強化は主として、KPMAによって展開されている。
 KPMAは1992年に韓国電力やDaelim(大林)、Samsun(三星)、LG、Hyundai(現代)といった大手エンジニアリング企業の首脳が発起人となって設立したPM協会であり、会員数は個人会員で3,500名、法人会員が60社である。
KPMAによるプロジェクト運営マネジメント基盤は、2つの流れから整備された。
@ 韓国電力など国営企業が、大規模設備建設プロジェクトで、オーナーとして、起用したベクテルなど米国コントラクターに伍してマネージしていくためにPMの理論武装の必要があった。KPMAの創設者であるRieh Chong-Hun元韓国電力会長が小職に語ってくれた所によると、日本の電力会社は高度の技術と技術統合力を有する三菱・日立・東芝のご三家に支えられ、プロジェクトマネジメントの心配をする必要がなかったが、韓国電力や韓国国鉄は、常に米国のベクテルなどのエンジニアリング企業に頼らざるをえなかったため、彼らをコントロールするためにも自らPM力を高める必要があった、それがKPMA設立の動機であった、とのこと。
A 長い間、やアジア諸国でインフラプロジェクの元請コントラクターとして活躍してきた総合建設企業や、日本の日揮や千代田化工建設のサブコントラクターとして力を蓄えたエンジニアリング企業が、世界のコントラクターとして自立するために、コアコンピテンシー構築の一環としてPMの基礎力を高めることを必要とした。
 韓国には独自のPM標準が存在しないので同国で流通しているPM体系は、基礎知識としては、PMI のPMBOK® Guideであり、また、エンジニアリング部門の応用体系としては、日揮や千代田化工建設あるいは米国のエンジニアリング会社から学んだグローバルエンジニアリングのプロジェクトマネジメント手法である。
 世界級の元請コントラクターに脱皮を図る韓国エンジニアリング企業の目指すのは、社員が国際プロジェクトマネジメントスタンダードをマスターし、国際プロジェクトマネジメント資格を取得することによる、グローバル市場でのプレゼンスを確保すること、そして、日本国企業が得意とするトランスナショナル・統合プロジェクトマネジメント能力、すなわち、世界各地からリソースを調達し、世界多拠点分散で進行するプロジェクトを統括する能力、を習得することである。
 一方、PMのアイデンティティーの確立に悩んでいるのでIT業界である。韓国のITインフラは日本以上との評価もあるが、IT企業の所属者もPMP取得に熱心である。但し、韓国としてのIT PMの振興には拠るべき大樹がないという情況のようだ。
 まず、ビジネスでは日本と異なり狩猟民族の集まりである韓国ではキャリアパス構築のための転職は日常茶飯事で、企業の側に腰を据えたPM基盤育成の姿勢が欠けることこと、世界中の国々にあるPMIの支部が韓国では存在しないために、企業を超えてのITのPM関係者の寄るべきプラットフォームがなく、さりとてKPMAはユーティリティーやエンジ建設といった伝統的なPM分野の人達の集まりであり、いまいち、居心地が悪いということである。
 最近、IT系のPMPが中心となってPMIのサポートを得てPMI支部設立の動きがある。韓国を市場開拓のキー国のひとつとしているPMIの思い入れもあり、多分PMI支部はできるであろうが、支部の運営にはボランティアの強力な活動が必要であり、日本以上に流動性が高いIT関係者が腰を据えて支部の運営を行うかについては大きな疑問が残る。
 もうひとつのトピックとして、最近韓国アーンドバリューマネジメント(EVM)協会が設立されたことがある。EVMに特化した協会は世界でも珍しい。
 最後に、隣国韓国での我がP2Mの知名度はいかがであろうか。KPMA会員のうち国際派の人達には、P2Mもその存在と特長は知られているとのことである。資源の乏しい韓国にとって我が国と同じように国としてのイノベーション戦略は焦眉の急であり、政治的な地ならしさえできればP2Mを韓国で普及する素地はありと見た。
♣♣♣

ページトップに戻る