グローバルフォーラム
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「グローバルPMへの窓」第13回
躍進するアジアのPMその1-なぜアジアのPMか

GPMF会長  田中 弘:11月号

 筆者は、今年、例年になくアジアのPM大会への出席が多い。2月のバンコクでのPMIアジア太平洋世界大会、9月の韓国PM協会2006年大会、10月の中国上海でのIPMA2006年世界大会、そして、この後12月にインド ニューデリーでのグローバルPMシンポジウム出席が予定されている。いまアジアのPMが旬である。
 日本はこれまでPMに関しては米国とヨーロッパの動向を見ていればよかったが、いま情勢は大きく変わっている。IT産業に牽引された北米のPMブームが踊り場に入り、世界のPM界のパイの成長は北米以外、とりわけアジアに依存する傾向が強くなってきている。PM日本は、米欧だけではなく、アジアの他の国とも競争する立場になってきた。
 そこで今月号から4回にわたり、アジアのPMを取りあげて、現地取材に基づいて報告をしたい。第1回目の今回がアジアPMの概観、その後アジアの主要PMステークホルダー国である韓国、中国そしてインドのPM取り組み状況をお伝えする。

 いま、なぜアジアのPMなのであろうか。次のようなことだ。
PM人口成長率ナンバーワン地域 − 数字を見る
 アジアには一体どの程度のPM人口があるのか。正確な統計はないが、PMIの推定統計では450万人となっており、正直なところ実感が湧かない大きな数字である。この数字は、各国の建設産業、IT産業あるいは製品開発の規模からプロジェクト市場を想定し、潜在的なPM人口を推定したものと解釈すべきであろう。
 PM協会所属者の数では、アジア各国で、PMI会員が約30,000人、各国のPM協会の所属者が中国の12,000人を筆頭に、日本6,500人(PMAJ、SPM、CMAJ) 、韓国3,500人、インド700人、シンガポールとインドネシアが各々400名となっている。
 一方PM資格保有者は、PMPが45,000人、IPMA資格保有者が中国の12,000人とインドの500人、日本でP2M資格保有者が3,000名である。
 PMP資格保有者の多い国は、日本17,000人、韓国9,500人、中国、9,500人、インド1,000人であり、他の国は200名から500名の範囲にある。PMP資格保有者の数がPMI会員数を大幅に上回っているのは、PMP資格は取得するがPMI会員にはならないという人が中国、日本、韓国で非常に多いことが背景にある。
経済成長とリンク
 21世紀の経済成長を牽引するのはアジアであると言われて久しい。GDPでかつての日本に迫ろうかという勢いであったアジア諸国は、1997年のアジア通貨危機で大きな調整を余儀なくされたが、ここ数年で中国とインドが9%代、韓国が3.5%、東南アジアのシンガポール、タイ、インドネシアが4.5%から6.5%と力強い成長取り戻している。
 PMはもはや建設プロジェクトの計画・管理手法ではない。着実な経済成長を支える付加価値創造活動にはプロジェクト型の事業がつきものであり、PMの出番である。
生産活動を支えるマネジメント手法はPM
 経済成長と建設規模あるいはIT投資の拡大はほぼ比例しており、PMの元々の基盤である建設プロジェクトやITのシステム構築プロジェクトの需要は旺盛である。
 もうひとつアジアのPMニーズ増を支える要素がある。アジアは世界の工場と呼ばれている。アジアの国々が担っているのは、米欧や我が国企業の生産担当基地として、あるいは競争力がある地場産業として、刻々と変化する市場への対応をしながらコストメリットを生かした量産を行う、技術経営(MOT)でいうところのオープン・モジュラー型の生産活動(製造過程がオープン化・モジュール化されており参入がしやすい製品分野で競争力を発揮するモデル)である。これらの国々では、韓国の電子産業などの一部の例外を除いては、日本のような深い技術の蓄積がない。当面は、日本の製造業のようにコア技術を生かし、高度のすり合わせ技術を以って競争力を築くのではなく、製品の入れ替えが割合早い多品種・多量生産、つまりプロジェクト型のビジネス活動を柱としているので、PMが円滑に受け入れられる素地が大いにあるわけである。
 実際PMIのサーベイによると、中国を含めて多くのアジア諸国の成長企業でPM制が根付いていると報告されており、トップマネジメントもPMにコミットメントをしているとの結果がでている。PMIが発行している国を代表する企業のエクゼクティブのインタビューでは中国や韓国のトップマネジメントは登場するが、日本人の経営者は出てこない。
PM知識吸収を支える低い英語の壁
 PMのナレッジや情報の吸収は、質量ともに英語を介して行うほうが格段に恵まれている。 東アジアの国々は英語を比較的苦手としてきたが、台湾や韓国の英語力の向上は日本以上であるし、また、東南アジアの国々はそれ以上に英語に親しんでいる。
 PMを実践する、あるいは志す人達は大量のフリー情報を世界から仕入れ、これを学習することができる。これは、これらの国々でのPMの基礎知識伝播に大きなアドバンテージとなっている。
シアトルより♣♣♣

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