PMプロの知恵コーナー
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「PMのリース業への挑戦 (10)」
−ベンチャービジネス−

向後 忠明:11月号

 ベンチャービジネスとリース業の関係がどこにあるのか?そのように思われる読者諸氏は多いかもしれません。また、PMとの関係もわからないと思われるでしょう。

 一般的にベンチャービジネスとは「独自の技術と市場戦略を武器としてリスクを冒しつつ新事業分野を開拓する革新的企業のことである。」と言われています。
 すなわち、独自の技術を持っているが、企業としての歴史も浅くかつ、実績も無い起業家によるビジネスであり、この様な起業家に出資や融資と言う形でお金を出すことがリース業の仕事の一部です。そして、この種の事業はまさに新たな事業への挑戦といった変革のマネジメントが必要であり、まさにP2Mのプログラムマネジメントがそのまま利用できることです。

 前号までの企業再生ビジネスのところでも話をしましたが、この種の投融資は案件の性格から言うとリスクマネーの部類に入ってきます。事業を永らく経営していて実績もあるが何らかの事情で失敗してしまった企業を対象とする企業再生への投融資とは違った意味でのりスクがあります。
 このような性格の金融はまず都市銀行や地銀と言われる銀行からの融資はあり得ないと考えたほうがよいでしょう。また、この種の企業は中小企業といわれる部類の企業よりも与信面でも低く見られています。
 このようなことから多くのリース会社は銀行との差別化のため、積極的にこの分野のビジネスに参入していました。
 しかし、実際は多くのリース会社はこの分野の仕事で利益を上げることができていません。ハイリスク、ハイリターンの典型であるゆえに当たれば大きな利益を手中に入れることができますが、いわゆる「千三つ」の世界と思われます。そのため、その夢を捨てきれないで現在まできています。
 何故そうなのか?
 その理由は簡単であり、リース会社は経理を主体とした文系の社員が多く、また舞い込んでくる案件が特定の技術に限らず、多くの技術分野からの案件が無差別に舞い込んできます。また、これらに対応できる技術を含めた社内体制も人材も十分そろっていません。
 もうひとつは、この種の事業を立ち上げるためのP2Mで言っているところの仕組みつくり能力や広い視野での技術知識を持ってのアーキテクチャーつくり能力等々がリース会社も起業家も持っていないことです。
 よって、特定の新規性のある技術を携えて事業を起こそうとしている起業家の意見でも、そのまま鵜呑みにしてお金を貸すことには二の足を踏みます。

 事実、私の所属していた会社でも数年前までかなり積極的にあらゆる分野の新規事業を手がけるベンチャーにリースまたは融資をしてきました。その多くは失敗をしています。
 そのため、ベンチャービジネスにはかなり警戒をし、わが社の得意とする技術分野(IT系)のベンチャービジネスに的を絞ってしまいました。

 その頃にタイミングも悪くわれわれの新ビジネス開発PT(5月および6月号参照)が設立され、ベンチャービジネスも業務の一環として取り込み、業務活動を始めました。
 その結果7月号でも述べたようにベンチャービジネスを含め130を超える多くの案件が舞い込んで来ました。この中には橋にも棒にもかからないもの、技術的には確かなものであるが経営者の資質に問題があるもの、新規性に乏しいもの等々があり、中には詐欺まがいのものまでありました。

 そこでまず日本のベンチャービジネスの現状と問題点を調べてみました。その結果、以下のようなまとめができました。
ベンチャービジネスには大きく区分して:
@ 技術をベースとした起業家企業(以下、ベンチャー企業という)
A 金回りのサービスやインキュベーション機能をもち、リスクもとり他との差別化を図ることを事業としているベンチャーキャピタルの2種類がある。
 日本のベンチャー企業のほとんどがこれまでの案件から見てみると@のケースが大部分でした。
 このことから、ベンチャーと呼ばれる起業家の多くが金回りとインキュベーションの面においても大きな障害となっていて、特に初期の必要投資規模が相対的に大きな開発型事業の場合で大きな問題となっている。

 上記のような調査結果とこれまでの現実に持ち込まれた案件から想定して、投資決定には金回りやインキュベーションの面を重視して以下に示すような原則で仕事をすることにしました。
@ 市場性(既存市場はどうか?また企業が提供する商品やサービスを受け入れる顧客がいるか?)
A 新規性・独創性(世に無い、もしくは希少性の高い技術、商品やサービスか?また、どこに特徴があり、顧客の興味を引く要因は?)
B 収益性(儲かる事業かどうか?製品の市場価格の妥当性はどうか?)
C 成長性(製品の汎用性または顧客層のターゲットはどこにあり、市場の拡大の可能性は?そして永く続く事業かどうか?)
D 社会性(世の中のニーズを充たす、そして公益性を損なわない事業かどうか?)
E 経営能力(事業運営能力がありそうで、P2Mに沿うような仕組みを持って事業の展開を行っている信頼できる経営者かどうか?)
F その他(競争相手の分析に優れている、営業能力がある、社外に多くのネットワークがある仲間が多い)
以上ですが、上記のようなフィルターを通して持ち込まれる案件を見ていくと、殆どの案件が消えてなくなります。
 特に、対象の顧客はベンチャーであるので技術的能力は基本的に高く技術そのものに新規性・独創性があってもビジネスとして展開や投資対効果に関する検討(バリューアセスメント)等に弱いケースが多くみられます。
 一方では自分の技術ではなく、他人の技術や海外企業の技術をそれなりのビジネス展開や投資対効果などの検討を行なって、投融資を持ち込んでくるベンチャー企業もあります。
 むしろ後者のケース、すなわち他人または海外の技術を保有して、金融的な支援の相談に来るベンチャー企業が多いようです。

 このように、ベンチャー企業が実際に投融資を得て成功するには大きな障壁がいくつもあります。それらをクリアーして初めて、必要資金を手に入れ、事業化することができるのですが、それでも実際に成功する起業家は非常に少ないようです。
 このようにベンチャー企業の実態を見ていくと、日本における新技術を携えて起業することには並大抵の努力では成功しないだろうな!という感触を持ちました。

 一例ではあるが、“ある海外よりの技術をベースとした事業”に関する起業についての具体的な例について来月から話をしていきたいと思います。
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