PMプロの知恵コーナー
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「PMのリース業への挑戦 (9)」
−(続)企業再生ビジネス−

向後 忠明:10月号

 企業再生において一番大事な事は「将来も本当にこの会社が永続的に維持されるのか?」すなわち経営におけるゴーイングコンサーンが可能なのかを見抜くことです。
 実際は「神のみぞ知る」の心境ですが、すでに前月号で触れたように、ビジネスやリーガル・デューディリジェンスの後のファイナンスデューディリジェンスがもっとも大事な検証項目となります。
 この作業には大きく2つに分かれます。
 その一つは過去の財務状況の分析であり、一般的に過去3年間の被再生会社の財務諸表から下記の2点を分析することです。
@ 本業にかかわる収益性(どのくらい儲かっていたのか、または損をしていたのか?)
A 資金の調達と運用にかかわる安全性(その企業の支払能力はどうで何に問題があったのか?また、債務超過が何時からどのような原因で発生したのか?)
 この分析は損益計算表(P/L)と貸借対照表(B/S)を関連させて見る方法とキャシュフローによる分析があります。
 当然再生される企業なので、上記の@もAも良い結果にはなりません。この分析は「いつからまた何が原因で」この会社がだめになったのかを知ることを目的としています。
 その結果は、当該企業に対する再生の可能性や手立ての方法を考える上での重要なデータとなります。そして対応手段も見えてきます。よってこの分析は再生事業において真っ先に行われる作業となります。
 なお、実際の分析は後に行われる企業収支分析と同様にそれなりの専門性が必要ですので実際の作業はその分野に精通した人に任せたほうが良いでしょう。

 二つ目は冒頭で述べた各種デューディリジェンスの結果をもって、財務的な手を打つことと、その結果を持っての将来の企業収支バランスの検討等が必要となります。
 今回のケースは、すでに原因はわかっている通り、過剰投資による債務超過です。打つ手としては銀行との交渉であり、負債のリスケジュール化やすでに説明のDES(Dept Equity Swap)化等による借金減らしです。
 当然、これらの一連の作業は再生会社の役務であり、リース会社の出る幕はありません。

 しかし、リースバックという金融的処置があります。これは会社の財産をリース会社に買い取ってもらい、それを当該企業がリース料を払って借りる手法です。これにより財産を現金化し、負債に当てることが出来ます。このような話であればリース会社も出番があります。このような財務的処理はあくまでも現状の問題を解決し、次の資金手当てのための前段階の作業となります。
 そのため、再生会社としては関係する複数の銀行、リース会社そして債権買い取り会社等々との交渉に最大限の力を発揮し、この作業を成功裏に持っていく必要があります。この作業がうまくいかないということは、再生事業そのものが失敗ということになります。

 次の段階として、必要なデータが各調査結果でそろっていることを前提で将来収支のバランス計算をします。
 なお、今回の場合は新工場建設といった投資を含む内容となっているので、資金調達と投資キャシュフロー分析計算が入ってきます。
 この投資キャシュフロー分析計算にはNPV(現在価値法)とIRR(内部収益率法)とあります。これは新たな設備投資を伴って事業展開する場合、投資によって得られるキャッシュフローはどの程度あるか、また融資した金が確実に戻ってくるかを分析する目的の計算です。
すなわち、
@ 投資及び融資した金が回収できるか、(具体的な利回りはどうなのか?)
A その回収にどのくらいの期間がかかるのか?
といった視点から投資回収可能性を検討することになります。

 これらは対象企業への投資及び融資金額(工場建設に必要な資金の総コスト)と毎年の収入と支出から算出されるフリーキャッシュをベースに計算を行い、収益率や投資効率を出し、そこから@やAを判断する手法です。なお、計算方法はマイクロソフトエクセルの関数計算に標準として装備されているのでそれを参考にすると良いでしょう。
 しかし、将来の企業収支分析はあくまでも推定の数字による理論的計算をベースにしたもので、10年以上も先のことはいつ何が起きるかわかりません。よって、単純に計算だけで物事の判断は出来ないし、また危険です。
 そのためには、かなり対象分野での経験を積んだスペシャリストによる検討が必要です。すなわち、事業を取り巻く環境の変化を取り入れてベースモデル(基本計算モデル)からのキャッシュフロー度合いをみて、その事業を取り巻く各種要因を考慮し、投資判断をするといった感度分析(Sensitivity Analysis)が必要なのです。

 このように被再生会社がさらに投資用の資金を調達するとなると、分析の結果が良くても、もともと経営状況も良くない企業であるので追加的な資金調達には大きな問題があります。
 今回の場合は、何とか負債処置は各金融機関も理解を示し、その処理が完了し、必要な分析も完了し、問題ないことがわかり、それなりの再生シナリオは出来上がりました。
 しかし、問題は工場建設の資金調達です。このときはリース会社としてのわれわれのファイナンス提供の出番となりました。しかし、われわれがファイナンスの実行を行なうには、以下のような前提条件がついてしまいました。
 すなわち、工場建設完了までのリスクを誰が見るかといったものです。
 この前提条件に関する決定がわれわれの会社での検討が長引きなかなか融資が決まりませんでした。
 その結果、パートナーとしての企業再生会社は、ファンド会社に相談を持ちかけ、結果的に、この仕事はファンド会社に持っていかれてしまいました。

 この一連の作業でわかったことは、新たに事業を始める場合に必要な起動力となる資金、たとえば、ベンチャー事業でも、SPC(特別目的会社)にて新規事業を始める場合においては収入の原資となる施設や製品が出来る前の資金はなかなか出てこないものです。
 この資金を一般的にリスクマネーと言いますが、大企業なら自分の資金で問題なく新しいことが出来ますが中小企業はどうしても資金不足となり、このリスクマネーが必要となります。
 よって、ほとんどの事業はこのリスクマネーの獲得如何により、新規事業の成否が決まります。それに比較し、資金が潤沢である大企業は有利であり、中小企業はあきらめなければならないという現象が出ます。

残念ながら、この案件は失敗でしたが、多くのことを実践から学ぶことができました。
 いずれにせよ、P2Mの仕組み作りやそれに関連するマネジメントも重要ですが、ビジネスの源泉であるマネー(資金)の調達を含むファインスマネジメントの難しさと重要さが身にしみた案件でした。
 来月号はベンチャービジネスについて報告いたします。