PMプロの知恵コーナー
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「PMのリース業への挑戦 (8)」
−(続)企業再生ビジネス−

向後 忠明:9月号

 再生を依頼してくる企業側の論理はいつも自分中心であり、「わが社は財務諸表に示される数字では数年前までは黒字でうまくやっていた。今後も事業計画書に示すような改善策を取れば、今までのように問題ありません。」と言ったケースの説明が多いようです。
 今回の場合は企業再生会社がかなり依頼企業の内情を検討した後でのわれわれの社長及び副社長へのヒアリングでした。
 しかし、お金を出す立場から見れば、企業再生会社が十分な審査を行ない問題ないと言っても全面的にそれを信用するわけにはいきません。
 意地悪といわれるかも知れませんが、性悪説的な発想で案件を見ていかなければなりません。
 しかし、今回のヒアリング結果では、企業再生会社の行なった財務的分析内容や企業再生手続き、そして、その後の対応を見てみると、特に問題となるところはありませんでした。
 一番気になる「簿外債務」に関する件も、企業再生会社が財務担当役員として審査対象会社に人を送り込み、銀行との交渉そして不良債権や係争・訴訟に関する詳細調査を行ない、それらの洗い出しも行なっていました。
 財務的破綻の一番の問題は会社の財務部門トップの独善的な土地投資といった単純なものでした。
 このことは、会社トップの社長、副社長の気がつかないところで行なわれたものでした。気がついたら借金がかさみお金を返すあてがなくなっていたと言うことです。

 一方、経営的な面からの対応であるリストラについては不採算店舗の廃止、社員の解雇、残った社員への再生に対する教育等々もすでに行なっていました。

 よって、予備審査的ヒアリングの結果ではすでに前月号で示した再生プロセスでのAの企業調査B企業・財務分析C問題(リスク分析)そしてD経営全般のリストラ勧告とその再生案まではできていることが確認されました。
 しかし、金貸し業のわれわれ独自の調査はこれからであり、上記の予備審査的ヒアリングを参考に本格的デューディリジェンスに入ることになりました。
 すなわち、企業再生会社の調査内容の再評価を前提としたデューディリジェンスとなります。すなわち、われわれは再生専門会社ではないので、その精度も企業再生会社の資料をベースとした補完的な内容のものとなります。

 ここで少しデューディリジェンスとはどのようなものかを簡単に説明します。
 デューディリジェンスとは企業への投資または本件のようなケースを対象にその企業の価値を正確に把握するため、その実態を網羅的に調査するにあります。
 その調査内容は分野、事業対象、企業の事情などで変化してきますが、一般的には下記に示すような3つの内容のことを行なわねばなりません。
@ ビジネス・デューディリジェンス:経営者や従業員の能力、顧客や仕入先の現状、マーケット、競争相手、製造能力、商品開発力や品質など事業実施上の問題点の洗い出しをする。
A リーガル・デューディリジェンス:既存の契約内容や係争訴訟関係、特許などを精査し、決算書に記載の無い債務の存在や想定外の訴訟の可能性の問題点の洗い出しをする。
B ファイナンス・デューディリジェンス:@及びAの結果を踏まえて、対象企業の収益性、健全性、将来性、資産の実在性、負債等を精査し、企業の価値を決定していく。
 上記に示す内容から見ても、これらの一連の作業にはかなりのプロフェッショナリティーが必要となることが読者にも理解できると思います。
 また、この作業には予備と詳細調査の2種類があります。もちろん、契約調印までには詳細調査までやっておかなければなりません。しかし、この詳細調査をまともに実行するとなると時間とお金のかかることになります。
 そこでわれわれはヒアリングの結果で企業再生会社の調査内容に信憑性があることはわかっているので、調査不十分と思われる部分を抜き出し再調査することにしました。

 一番にやったことは@のビジネス・デューディリジェンスに示す「顧客や仕入先の現状、マーケット、競争相手、製造能力、品質(色、形、味、評判)」に関する調査です。
 商品品質、製造能力、顧客仕入先等については現場調査と確認、そして販売支援候補企業については、例えば大手商社、提携ホテルやアミューズメント会社、エアーライン企業等からのヒアリング、そして最後に工場内部視察と製造工程および生産量の把握等を行いました。
 これら一連の調査の結果では、広告宣伝、販売促進に弱さがあることを指摘、そして製造能力、および品質向上を目的とした品質認定新工場建設の必要性等の確認を行ない、企業再生会社の指摘が妥当であることの確認もできました。
 なお、後で分かったことですが、広告宣伝・販売促進についても、この企業はすでに自主的に一年前からその強化と実行をすでに始めていること、そしてその結果では販売量の増加が数字的にも顕著であることもデータの分析から判明しました。
 このように、われわれのビジネス・デューディリジェンスでは概ね企業再生会社の調査結果と同じであり、問題となっていることは、これまでの不良債権と今後の工場新設の資金といった2重の資金的処理が必要となっているということでした。
 そのためには更なる販売量(収入)の増加による将来収支の改善、そしてそのためのマーケッティング活動が重要である。そのため、最新のマーケッティングデータをベースにした詳細なファイナンス・デューディリジェンスとその結果の収益性分析等が必要であることを企業再生会社に指摘しました、
 一方、われわれとしても過去1年間の販売データをベースに、われわれ独自の分析をすることにしました。

 さて、ファイナンス・デューディリジェンスですが、ここでの作業は総括的な検討であり、一番重要な調査事項です。この調査の結果が過去の財務状況(一般的に過去3年分の財務関係諸表)の分析、そして収支分析(将来の7〜10年間)のベースとなります。
 もし将来IPO (Initial Public Offer:一般よりの株式募集)を考えるのなら資本政策などもここで考える必要があります。
 来月はこの財務分析についてちょっと話をしてみたいと思います。
 財務分析はデューディリジェンスも含め、P2Mを目指すプロジェクトマネジャにとっては必須の技術となると思っています。

 ―To be Continued―