P2M研究会
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P2M研究会9月活動報告

山崎 司:10月号

1. 東京P2M研究会活動状況
■ 2006/9/13(水)P2M研究会 第6回(参加者10名)18:30〜20:45
場所:ENAA 6階 6C会議室

P2M実践例
I.「.NET(ドットネット)事業立ち上げ」及び「ユニシスラーニング社の企業改革」プレゼンテーション

白井久美子殿に本テーマについてプレゼンテーションをして戴いた。
 (詳細については配布資料をご参照願います。)
(1) プレゼンテーション要旨
事例-1.【.NET(ドットネット)事業立ち上げ】
  • ドットネット(以下.NET)は、マイクロソフト社が次世代インターネットの情報環境にむけて打ち出した新しいビジョン、戦略のことである。また、同社が将来Windowsプラットフォーム上で提供する製品やサービスのすべてにおいて、先進的なテクノロジーであることを想起させるブランド、概念用語であり、特定のソフトウェア単体の名称ではない。
  • .NETビジネスとは、顧客の経営戦略に合致したIT戦略を描き、顧客価値を創造するビジネスモデルを具現化するためのシステム・グランドデザインを構想し、それを実装するソリューションやサービスを提供する事業である。
  • 新規大規模システムの構築や、メインフレームで稼動しているミッションクリティカル・システム(システムが停止すると、企業に対する巨額の損出や、ユーザからの信用を失墜するといった事態を招くことになる重要なシステム)への.NETの適用が増加の一途をたどっている。
  • 日本ユニシス殿では、複数のオリジナルサービスを組み合わせて提供することで、信頼性、拡張性、保守性、可用性などのミッションクリティカル・システムに求められる要件に対応し、.NET関連SIサービスの受注シェアは75%に達している。
  • 責任者はプログラム・マネジャーとして、.NETビジネスの立ち上げを、「.NET事業プログラム」という事業創造シナリオに仕立て、この事業をうまくランディングするためのビジネス・アーキテクチャをデザインし、事業推進を2002年〜2004年にわたって実践した。その結果、.NETビジネスは同社の主力ビジネスの6本の柱の一つにまで発展した。
  • 「.NETビジネスの立ち上げ」という事業成功の鍵は、プログラム・マネジメントの6つのマネジメント・フレームワーク(プロファイリング・マネジメント、戦略マネジメント、アーキテクチャ・マネジメント、プラットフォーム・マネジメント、ライフサイクル・マネジメント、価値指標マネジメント)のすべてをバランスよく実施できたことにある。
事例-2.【ユニシスラーニング社の企業改革】
  • 日本ユニシス・ラーニング社は、各種の研修やeラーニング、人材育成のコンサルテーション・サービスを提供する会社であり、2002年に日本ユニシスから分社化された。
  • 従業員はすべて親会社からの出向者で構成されており、採算性の認識度合いは高くなかった。講演者は2004年に同社の立て直しのため、社長に就任した。
  • 講演者はここでもP2Mの手法を採用し、まず、経営力の向上という視座で事業を見つめ、あるべき姿に導くには何をしたらよいか経営課題を整理して考えるために、P2M VWM OWモデルのフレームワーク“経営力強化展開図”を活用し、「価値創出力=経営力」の俯瞰・洞察を行った。
  • 次に、あるべき姿を導出し、使命展開を行ったうえで、変革に向けた戦略→計画→実行のプロセスに落とし込みを行った。
  • その結果、収益改善を実現したが、具体的な施策の例は以下のとおりである。
    @ ABC分析を行い、収益のよい事業に注力した。(例:コンサルティング・ビジネス)
    A 間接部門のマンパワーを極力、直接部門に振り向けた。
    B 研修事業において、上半期と下半期で繁閑が生じていたので、稼働率の平準化を図るため、講師の能力をコンサルタントまで向上させ、人材能力開発を組み入れて、稼働率平準化に成功した。
    C 従業員のインセンティブを高めるための「評価と報酬」を取り入れた制度を導入した。
II.フリーディスカッション
  • 二つの事例(新規事業の立ち上げと子会社の企業改革)において、経年での指標達成度が異なるが、この要因はどこにあるのか。
    → 組織メンバーの平均年齢が20歳も違い、経験年数が異なるため、年齢が高いほどアジリティ面(とくにレスポンスのスピード)で相違があることが要因と考えられる。
  • .NET事業立ち上げにおいて、最もやりにくかったのはどのようなことか。
    → プロジェクトのメンバーが機能型組織に属している場合、所属部門における上司の指揮・命令のみに従う傾向にあり、これがしばしばプロジェクト遂行上の阻害要因となった。
  • P2Mを実務に適用する場合、まだコモンビジネス・ランゲージ(共通言語化)していない状況において、他のメンバーに概念を理解させるために相当な労力を要したと思う。先ほど、「.NET事業の立ち上げにおいては、組織メンバーの平均年齢が若かったから、理解していなくても素直についてきてくれた」と伺ったが、P2Mの概念については、プログラム・マネジャーのみが理解していても事業を進めることは可能と考えるか。
    → 事業についてのスポンサー的立場にあたる上位等級者においては、P2Mの概念を理解してもらう必要があると考える。また、組織メンバーにおいては、P2Mについて学習していればスムーズな業務遂行が期待できるのは言うまでもない。
III.今後の進め方について
  • 本研究会の報告書をまとめるための準備を行うこととする。
  • 当初の研究テーマに関する目次を作成して、提出戴く。(梶原殿、渡辺殿)
  • その他の身近なP2M実践事例について収集し、取りまとめを行う。(山崎)
  • 次回の開催は10月11日(水)の18:30からとする。
2. 当部会の活動のための道標
ジャーナル25号(新生PMAJ創刊号)の特集、「各業界におけるP2Mの適用事例とPMAJの今後の展望」パネルディスカッションの記事において、当部会の活動の道標として参考となる部分がありますので、以下に引用します。(項目名追加、一部加筆修正)
(1) P2M実践事例のフィードバック
P2Mがメジャーになるためには、実際にアプリケーションの適用を行って効果が出たというフィードバックを早く集める必要がある。実績を明確に示さないと、これからのP2Mのマーケティングは成り立たないであろう。PM実践家というのは、長期的に言えば、検証された体系しか採用してくれない。
(2) プロジェクト自体が創り出す価値と、P&PMが創り出す価値の識別
P2Mが言う仕組みとしてのプログラムと、プロジェクト自体が出す価値・価値創造について、プロジェクト自体が創り出す価値と、P&PM自体が創り出す価値をどういうふうに識別するのか。P2Mが長期的に発展・定着していくためには、その問いにしっかり答えられなければならない。
(3) プログラム・マネジメント実施の具体的な方法論の補強ないし再構築
実施段階でのプログラム・マネジメント自体を具体的にどうやるかは、現在P2Mに記述が少ない。次回改定において補強が必要である。
(4) 各業界に合った言葉での布教(普及)
ユーザの視点でP2Mを発展させていかなければいけない。各業界の壁は大きい。「これは自分たちの業界に関係ないことだから、あまり興味を持ちません」ということがある。あるものを普及していくということは、お客様があってのこと。その業界に合った言葉で説いていかないとダメであろう。
(5) 普及のための戦略と戦術
普及は仕組み作りとローラー作戦の両面が必要である。日本にも競合するPM体系やPM資格が厳然と存在する中で、どうやって勝っていくのか。関係者が一丸となって、仕組み作りとローラー作戦を行っていかなければならない。
<筆者雑感>
あっという間に上半期が過ぎてしまいました。年度初めに立てた幾多の目標のうち、マイルストーンに到達できたのはわずか一つだけという為体です。最近、遅れたことの言い訳を探しがちなので、軌道修正の第一歩として、完遂のために何を、いつまでに、どの程度やらなければならないのか、まず書いてみることから始めたいと思っています。
以上