PMプロの知恵コーナー
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「マンション建替プロジエクト奮闘記(その5)」

PMAJ関西支部 岡本 政義:9月号

7;臨時説明集会開催
 7月2日(日)駅前ホテルの会議室で、居住区分所有者44名、外部区分所有者10名、合計54名の区分所有者参加のもと「建替え説明会」が開催されました。全居住者71戸の約7割強の方が出席願ったことになります。
 主催者側として、管理組合/準備委員会全員、デベロッパー側としてT社2名、設計事務所2名が出席しました。

  先ず理事長から「本日は、説明会であり議決はないのでお気軽にお聞きいただきたい」との挨拶があり、委員長に議長をお願いすることを、参加者の賛同を得て開始されました。

  私は、議長の紹介のもと配布済み資料「建替え100%合意形成をめざして」の要旨をプロジエクターにより説明しました。そしてT社推薦理由を説明しました。 T社は、配布済みの「建替え計画」にそって、計画の概要、基本的な考え方、等価交換条件、計画図(完成外観図、配置図、各階平面図、立面図、住居プラン図、)などをプロジエクターにより説明しました。
 そして、本説明会の目玉として準備しておいた基本設計の懸案事項である、全戸平面駐車場採用を、T社のほうから「スペース面からみて採用可能であること、金額面のコストアップは企業努力で吸収する。これによる基本構想の変更はない」との紹介を、プロジエクターによる配置計画とともに発表されました。

  さて、これらに対する質疑応答は、完成後の部屋割り、仮住まい、計画外となっている隣接地の処分、集会所/プレイロット/ゴミ置き場など設備に関するものなど多く出ました。しかしコンペを実施してデベロッパーを決定してはどうかなど、デベロッパー選定に関する質問は出ませんでした。T社推薦を納得して頂いている感触をもちました。

  建替え事業に関した質疑でのT社回答を2点取り上げてみますと、@当社が、建替え構想実現に可能と回答したのは、企業努力もあるが、新組織立ち上げの一号物件と選定させていただきたい思いもある A全員合意の方法としては、まず当社を皆さんに事業協力者として認定していただき、基本協定を締結し、個別ヒヤリングを通じて皆さんの意向を把握し基本設計の見直しをおこなう。そして来年の春先を想定した建替え決議にて100%の合意形成をめざす。 などでした。
 会合の終わりに近づいたとき、想定外の質問が区分所有者G氏からありました。それは転出者(売却希望の区分所有者)に対しての買取価格についてでした。
 「先ほど転出価格について2,950万円との話があったが、4,250万円で買い取る大手デベロッパーがいます。資料は建替え委員会に提出します」との発言でした。これに対しては、委員長は「実は、昨夕資料は頂き読ませてもらった。提案事項であるので委員会で検討報告します」と回答致しました。

 会合終了後T社を含め、ホテルのレストランで、委員一同集合しました。当然、会合終了間近の転出価格についての質問が話題になり、委員長から「昨夜夕刻デベロッパーD社の計画書が、区分所有者G氏から準備委員経由届けられた」旨の説明があり、その計画書の披露がありました。
 それは、私の一見したところ建替え計画書でなく土地買取計画でした。しかし区分所有者からの提案として、これの結果報告をする必要があります。一週間後再度委員長宅で打ち合わせすることとし、解散しました。

8;足並みの乱れ
 一週間後の7月9日(日)第6回準備委員会が委員長宅で開催されました。会合の目的は、D社提案の転出価格対策であります。
 私は、大手デベロッパーD社の「建替事業のご提案」は、表題と異なり土地の一括買受提案であること。4,250万円で買い取る提案は、転出希望者にとっては良い提案だが、すべての区分所有者が売却に同意することが条件となっていること。そして建替え事業と見た場合、売却後の同場所での居住条件が還元面積、基本計画を含め不明確なことなどでした。
 私は、T社に転出価格増額を要請することが先決と主張しました。理事長が「これから先のマンション事業計画用地を既にもっている不動産業者もいるが、D社はそうでないようだ」と発言しましたが、まさに用地確保が目的で、分譲マンション建設販売がD社の戦略と思います。

  しかし会合の雰囲気は違った方向に動きました。長年この計画に関与してきた数人の委員からD社に建替えの検討を依頼してみたらどうかとの発言があり、これに対し他の委員が発言を控える事態になったことでした。
 私は、T社を上回る転出価格の提案が他デベロッパーから出ただけで、臨時説明会も終え100%合意形成を目指し次のステップに移る段階になりながら、振り出しに戻るような方向にゆれる様をみて、脱力感と同時に物事を纏める難しさを実感しました。
 しかし私は冷静でした。提案書を見た限りD社は用地取得/マンション建設分譲で業績を伸ばしてきた会社であり、建替え事業での2つの課題である「合意形成」「費用負担」と、リスクと同時に手間のかかるこの事業に安易に取り組めるものか、やれるものならやってみろと余裕を持って見守る気持ちになったことでした。委員長自身が一週間後に建替え提案の提出を要請することに対しても了承しました。

  このときY氏がおられたらとの思いが交錯しました。本年初め再発足の準備委員会に、私と同じく棟外区分所有者として参加され、基本構想検証のため、デベロッパー訪問など協力頂いた方ですが、5月中旬から入院加療のため欠席されておられます。Y氏の迫力ある応援演説を期待したい気持ちになりました。

  しかし反省せねばならないことは、いままで建替えか修繕かの議論に終始していて、この2つ以外に「転出」という選択肢が区分所有者にあることを見過ごしていたことは事実でした。たとえ今まで区分所有者の方々から転出価格増額の要求がなかったとはいえ、基本構想に手抜かりがあったことは事実でした。
 これの対応には転出価格の増額以外、選択肢はありません。T社に増額をどの様に要請したものかが課題であります。

  次回は、D社の建替え提案の顛末と、T社に対する転出価格増額要請、プロジエクト遂行のための今後の方針などについて述べます。ご期待ください。
以上