PMAJ関西
先号   次号

「公 共 投 資」

奥谷 良治:9月号

 私は、建設コンサルタントで建設に関する計画・設計を行っているが、2年前までゼネコン(総合建設業)で長い間、橋や道路、トンネル、空港、宅地造成など数多くの建設プロジェクトに携わってきた。本四連絡橋や関西国際空港、神戸空港等の巨大プロジェクトにも参画したが、本四連絡橋プロジェクトは、青函トンネルや東京湾横断道路などと同じように当初、公共投資のムダの代表格にあげられていた。今後、このような巨大プロジェクトは国の財政面からもまず、計画されないだろうが、今やプロジェクトの規模だけではなく、プロジェクトそのものの必要性を問われている。
 先日、長野県と滋賀県の知事選挙が行われたが、両者とも公共投資が大きな争点となった。長野県知事選挙では現職の田中知事が落選した。田中知事は、「脱ダム」宣言するなど、公共投資を大幅に削減し続け、6年間務めてきたが、必要な公共投資は推進すべきと訴えた村井候補が多くの県民の支持を得て、当選した。長野県民は最近の頻発する大規模災害を目のあたりにして、ある程度のダム建設や河川整備等は是非とも必要と感じたのだろうか。他方、滋賀県知事選挙でも現職の国松知事が落選し、嘉田由紀子候補が当選した。嘉田候補は栗東市で建設中の東海道新幹線新駅は「もったいない」と凍結を掲げて初当選を果たした。滋賀県民はびわこ空港や新幹線新駅はムダと判断したのだろうか。長野県は建設推進派が、滋賀県では建設凍結派が当選し、選挙結果は対照的であった。公共投資のムダが指摘されて久しいが、現在は構想段階から住民の意見を反映させようと国や県も努力されている。住民参加型施設整備の元となるのは、1993年の都市計画法の改正や、1997年の河川法の改正であり、条文に「住民の意見を反映させるために必要な措置を講ずること」と規定されたからである。徐々にではあるが、最近は、建設協議会や住民説明会においてワークショップ等が各地で開催され、住民が意見を述べる機会が増えてきている。さらに、土地所有者やまちづくりNPO等が都市計画案を提案できる仕組みも、すでに制度化されている。それまでは、未整備箇所が多かったこともあるが、構想、企画段階から住民の意見を聴くこともなく中央主導で社会資本整備が進められてきた。施設建設の計画決定前には、施設のライフ・サイクル・コストや費用対効果、環境影響評価等の事業評価を実施するが、施設建設が必要か否かの判断は非常に難しい。県民の意見と言っても川の上流に住む県民と下流に住む県民とでは河川整備事業に対する考えが大きく異なるし、中心市街地の住民と、郊外の住民とでは道路整備事業等に対する考えは大きく異なってくる。利害関係者には、いろんな環境、立場の人々が多くおり、全員を満足させることは不可能である。住民が「説得」される公共投資ではなく、住民が100%満足しなくとも、「納得」するような公共投資を実行していくことが大切であろう。それには、トレード・オフ関係にある複数の要求事項を総合的な判断によりプロジェクト全体をマネジメントする技術やコミュニケーション技術が不可欠である。
 政府は、今年度の当初予算で7兆2千億円の公共事業関係費を3%削減し、6年連続で減額する方向である。公共投資額は、すでにバブル期の約半分になっているが、さらに、骨太の方針で今後5年間に毎年1〜3%を削減するようである。このまま、公共投資を削減し続けると、必要なところにお金が回らなくなり、安全で、安心できる生活を営むことができなくなるのではないかと懸念される。
 最近、特に地震や局地的豪雨が頻発に発生しており、大規模災害が後を絶たない。平成16年の新潟・福島豪雨、福井豪雨、台風23号による豊岡の円山川の氾濫、平成17年9月の台風14号による記録的豪雨などにより、多くの人々の生命や家屋などの財産を奪い、被害額も莫大である。結果論になるかもしれないが、もし、被害額の数十分の一でもそこに建設投資をしていれば、被害は、もっと激減していただろう。
 わが国の公共投資を効率的・効果的に実行していくために、公共投資の是非を公平性、公益性、経済性、安全性、優先順位等の観点から、純技術的に判断する必要があるのではないか。それには、官でも民でもない、利権の及ばない中立的立場の専門家集団である第三者機関を設け、そこに権限を委ねてみてはどうか。そして、その第三者機関には、プロジェクト全体を俯瞰的視点から総合的に判断することのできる「プロジェクト・マネージャー」がまさに適任者ではなかろうか。