PMAJ関西
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「ボーイスカウト」

PMAJ関西例会幹事
(株)竹中工務店 林 健太郎:8月号

  自分の子供(小学生)の教育をどうしようかと考えていた3年前に、子供の同級生に誘われて地域のボーイスカウト活動を見学した。職業柄土地に根付いた活動がしたいと思い、地域社会でのボランティア活動はないかと考えていた自分のニーズとも合致して、今では自分が子供達を「良き社会人」にすべく研修も受けて指導者として活動している。「ボーイスカウト」活動には全く縁のない人生を送ってきたし、初めは正直ある種の「警戒感」も持っていたが、わからないものである。このジャーナルの読者にも縁のない方がおられるかもしれないので、ここで簡単に説明しておこう。ボーイスカウト運動は大英帝国の軍人であったサー・ロバート・ベーデン・パウエル(以下BP)が青少年教育を行うために、1907年8月にイギリスのブラウンシー島で行った実験キャンプから始まった「運動」である。翌年1月にBPが出版した「スカウティング・フォア・ボーイズ」は様々な言語に翻訳されて、世界中に「運動」が広がっていった。日本にも運動発足の初期から伝えられ、初代総長は後藤新平(元東京市長)、最近では宇宙飛行士の野口聡一氏が子供のころから参画していたことをご存知の方もおられるだろう。なぜ、PMAJのジャーナルでボーイスカウトなの?ラル・フローレンがデザインした制服を着て、野外キャンプに必要な知識に詳しい彼らボーイスカウト隊の隊員達(小学5年〜中学3年)にプロジェクトマネジメントは結びつかない?いえいえ、大いに関係があるところをこのコラムで紹介する。
 子供達は、スカウトになるためにまず、誓いをたてる。「私は、名誉にかけて、次の3条の実行を誓います。一つ、神と国とに誠を尽くし掟*を守ります。一つ、いつも、他の人々を助けます。一つ、からだを強くし、心を健やかに、徳を養います。」(*スカウトの掟は8つあり、誠実、友情、礼儀、親切、快活、質素、勇敢、感謝について定められている。)この誓いは我々における職業倫理感と言える。誓いをたてて晴れてスカウトの一員になった子供達は、いよいよスカウト活動を開始する。それは6〜8人で構成される「班」という単位で運営される。ハイキング、キャンプ、料理、自然観察、等の野外活動に必要な計画から準備、実施、反省まで、すべてのスカウト活動が自分達による「プロジェクト」であり、我々が日々テーマにしているプロジェクトマネジメントそのものなのだ。「班」では仲間の中から「班長」を選び、選ばれた班長はスカウト活動のあらゆる場面で班活動の運営に責任を持つ。「班長」を補佐する「次長」、さらに上の年代から支援する「上級班長」など役割が明確ななかで活動する様は、プロジェクトマネージャーによって編成されるプロジェクトチームそのものである。各スカウトは保有技術水準に応じて「初級」「二級」「一級」「菊」と設定された進歩制度で自分のスキル向上に挑戦する。
 ここまで書くとたいそうに聞こえるかもしれないが、それは子供達のこと、「楽しくなければ続かない」ので、彼らなりにいろいろと工夫をして楽しんでいる。当然喧嘩もすれば、失敗もある、というより失敗して年々成長していく。高等教育や社会人になってからプロジェクトマネジメントという「型」を学んだ人の場合は、コミュニケーションという壁にぶち当たる場合があるが(私もその一人)、子供の頃からプロジェクトマネジメントの擬似環境でなによりもソフトスキルを修練する彼らは、すばらしいプロジェクトマネージャー予備軍である。ボーイ隊を卒業し、高校生〜二十歳まではベンチャースカウト隊として、より高度のプロジェクトに取り組む環境があり、それが日本全国20万人だけでなく、世界216の国と地域2900万人の中で切磋琢磨することも不可能ではない**ことを考えると、子を持つ親としては是非とも挑戦させたい世界である。(**ジャンボリーというスカウトが集まるイベントが開催され、様々な地域から「スカウト運動」という言葉で会話できる場が用意されている。)
 最後に、スカウトのモットーは「Be Prepared(備えよ常に)」である。簡潔なリスクマネジメントを表す言葉であり、これをBPが創ったなんて、できすぎですと思うのは私だけではないだろう。