図書紹介
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「オシムの言葉」  ―― フィールドの向こうに人生が見える ――
(木村元彦著、集英社インターナショナル発行、2006年07月12日、9版、238ページ、1,600円+税)

デニマルさん:9月号

この本が最初に発売されたのは、昨年の12月である。その頃、サッカーW杯のドイツ大会での日本代表監督はジーコで、多くの国民が決勝リーグ進出を夢見ていた。だからこの本が出ても話題にもならなかった。所が、W杯が終わって次のサッカー日本代表監督の話が出たと思ったら、7月にオシム監督就任のニュースである。その時点で、オシム監督とこの本は一躍脚光を浴びることになった。監督は知る人ぞ知る世界的に著名な人で、過去の足跡に驚かされる。ボスニア・ヘルツェコビナのサラエボ生まれの65歳。旧ユーゴスラビアの代表選手や代表監督からオーストリア等のクラブ監督を経て03年Jリーグ・ジェフ千葉の監督に就任し、05年ナビスコ杯で優勝をもたらせた。そして今度、日本代表監督である。

オシムの言葉(ユーモア編)      「監督だってロクな奴じゃないし」
この本によると、監督はユーモアとウィットに富んだ人で多くの逸話を残している。その一つに来日しているお孫さんへのプレゼントの話がある。「ジェフ千葉のTシャツを差し上げましょう」との申し入れに関して、「そんな格好の悪いもの要るもんか。ジェフの色は赤に黄色に緑。まるでパパガイカ(おうむ)だ。孫は喜ばんよ。このクラブ選手だって、日本代表はいないし」と素っ気ない。更に「監督だってロクな奴じゃないし」と付け加えた。

オシムの言葉(サッカー編)     「君たちはプロだ。休むのは引退してからで十分だ」
監督のチームづくりやサッカー戦術には、独自の理論がある。その理論で過去多くの記録を残している。ジェフ千葉の優勝もその一つである。日本選手の良さは、「敏捷性、積極性、技術の高さ」を指摘し、だから「走って、走りまくるサッカーをする」と宣言し、それを実行した。選手たちは、その練習の厳しさに音を上げた。それに対して「ライオンに追われた兎が逃げ出す時に、肉離れしますか?準備が足りないからです」と言い、休憩の申し入れに「君たちはプロだ。休むのは引退してからで十分だ」と予定通り練習を続行させた。

オシムの言葉(人間編)     「僕らをここまでに育ててくれた監督の喜ぶ顔が見たいから」
猛練習で鍛え抜かれたジェフ千葉の選手は、試合になるとその結果が直ぐに出た。Jリーグ万年下位チームが、監督就任の年に3位。その3年後にナビスコ杯優勝である。その過程で選手が自然と監督の方針の正しさを理解した。監督と選手が一体となったチームづくりである。ある選手が「僕らをここまでに育ててくれた監督の喜ぶ顔が見たいから、優勝したら少しは笑ってくれますよね?だから優勝したいんです」と話したことが書いてある。