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「7月例会報告」

(株)テクノサージ 佐藤 義男:8月号

 第92回例会(7月28日開催)は、テーマ「プロジェクト成功法則と成功確率向上への提言」について、富士通の近藤氏に講演をお願いした。概要は次の通りである。
 2003年に、富士通は失敗プロジェクトの多発により企業収益が悪化した。このため、近藤氏らは成功法則をまとめ、社内で報告した。今回の講演では、近藤氏が金融や郵政事業など各種ITプロジェクトを実施した経験から、失敗プロジェクトの原因と成功法則を説明したものである。
まず、失敗プロジェクトの原因を分析すると4つあった(稼動遅延、予算オーバー、品質不良、機能不足)。さらに、不採算案件の増加の主因は4つの変化である(オープン技術化、開発規模増大化、短期開発化、低コスト化)と言う。これらは外的要因であり、実は内部要因(ベンダーの組織とシステム方式の硬直化・弊害、業種横断プロジェクトに対する組織の縦割り)もあった。
 一方、従来のSI(システムインテグレーション)ビジネスの代名詞は「大規模」、「複雑」、「高度化」であり、富士通が実施するSIプロジェクトは失敗が多かった。このため、社内では受注時などのリスクを考慮してSIプロジェクト成功に導く必要性を実感した(筆者の理解では、当時は富士通のみならず、他の大手SIベンダーも必要性を痛感していた)。
 近藤氏は、これら富士通が直面する課題の解決に向け、自分の体験に基づくプロジェクト成功法則をまとめた。この際、客観性を保つために社内で選抜された上級プロジェクト・マネジャー(20人)とも議論したと言う。その6つの成功法則は以下のとおりである。
法則1: プロジェクト成否は初期体制で決定
有能プロマネは人材調達が上手い人(社内で頼りになるネットワークを持つ人)。
法則2: システム化方式決定は初期段階で行う
SIビジネスは顧客要件を基に開発方式が決るため、重要。
法則3: 業務設計がリード出来れば、成功は約束
優秀なSE(システムエンジニア)は腕利きの料理人の如く。
法則4: 徹底的な計画・管理
前工程(設計段階)がパーフェクトに完了しないから、徹底的な計画・管理が重要。
法則5: やる気の醸成
現実プロジェクトのハンディ解消はやる気の醸成であり、重要。
法則6: 止めるが勝ち
見通し無ければ受注しないのもプロマネの仕事。

 さらに近藤氏は、これまで富士通が進めていることとして以下の2つの提言を行った。
提言1: 普通プロマネで成功可能な仕組み(有能プロマネの有効活用)
有能プロマネを組織化し(社内認定し、PMOに集めた)、可視化により普通プロマネのプロジェクトを監視。
提言2: 有能プロマネの育成
失敗事例発表、PM人材育成体系に基づくプロマネ育成、人事ローテーション。

 6つの成功法則は当り前のことが多いが、近藤氏の実務体験に基づくものであり説得力があった。なお、筆者は提言1にある「有能プロマネの有効活用」を成功法則7として追加することをお勧めしたい。
また、近藤氏はSIベンダーの成功するプロマネは「プロマネ技術とプロダクト技術が5分5分」であると言う。米国のPMコンサルタントRita Mulcahy氏がPMI2002北米大会で発表した論文「プロジェクト・マネジャーの成功条件とは」では、人的スキル(個人スキル、人間関係スキル)が82%を占め、プロマネ・スキルは13%であった。これと比較して見ると、日本のIT業界におけるプロマネ・スキルの違いが明解である。
講演後は、「仕様が初期段階で決らない際の対応」、「計画通りにいかない場合の対処」、「上司の責任」など活発な質問があり、関心の高さが伺われた。