図書紹介
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『集中力 (The Power of Concentration)』
  ―― 人生を決める最強の力 ――
(セロン・Q・デユモン著、ハーパー保子訳、サンマーク出版、2006年04月05日発行、5刷、271ページ、1,600円+税)

金子 雄二 ((有)フローラワールド):8月号

この本を紹介するにあたりインターネットで調べていくうちに興味あることが分かった。先ず、著者の経歴である。この本でも1862年のアメリカ生まれで、精神医学、東洋思想、ビジネス、人間関係等の著書を多く残し1932年に亡くなったと紹介している。元は弁護士で、ストレスで心身を病んで回復した経緯から精神医学や東洋思想に傾注した。その中に「ニューソート(新思想)運動」の権威者とも書いてある。このニューソート(新思想)とは、「アメリカで始まった宗教運動の一つで、日本でも著作がベストセラーになっている英国出身の牧師ジョセフ・マーフィーなど、いわゆる成功哲学の著者がこれに属する。ニューソート団体の多くは、お互いに穏やかな結びつきの単立のキリスト教会の形を取ることが多い。海外ではニューソートの一派として知られている日本の新宗教・成長の家は、世界最大の団体であるということになっている」とある。(フリー百科事典「Wikipedia」)

ニューソートについてもう少し触れると、キリスト教であるが「穏やかな結びつき」とあるように宗派の一つで、教会を持たずに活動することもあるようで宗教色が薄い感じがする。ニューソートと言えば、そのマニュアル類が今でも各方面で活用されていることで知られている。所でマーフィー(1898年〜1981年)はニューソートの牧師であり、教育者であり、世界的な講演者でもあった。歴史的には、ニューソート運動を通じて著者の大きな影響を受けたと思われる。この両者を結ぶキーワードが自己啓発の「精神的法則」である。

今回紹介の本は1918年に書かれ、現在でも世界中で読まれている名著である。アマゾンでは、ペーパーバック(Kessenger Pub社、2004年3月発行)として復活版を販売していることが分かった。しかし国会図書館に保存されていなかったので、更にインターネットで調べると、e-Bookとして全文無料掲載のサイトがあった。スポンサーはAll Things insprirational.com社で、自己啓発の教育、講演、書籍販売等をしているアメリカの会社であった。ところで著者は、他に幾つかのペンネームで著作を発表しているが、「ヨギ・ラマチャラカ」の本が日本でも出版されていた。研心録「インド唯一の実践的心理学」(二宮峰男訳、実業之日本社、1924年11月発行)である。因みに、ヨギとはヨガを意味し、ラマチャラカは、著者が崇拝したヨガ行者の名前だと紹介されている。その関係であろうか、ヨガ(東洋思想)について本書にも宇宙のエネルギーや神との癒合について書いてある。

集中力の原点     ―― メンタルディマンド ――
集中力とは何であろうか。何のための集中なのか。今更こんな愚問を呈する必要はない。この本では明快に「集中力とは、何かを達成するための積極的な能力」と定義している。しかしこの集中力は誰にでもあるが、その力の強さ(大きさ)や持続性は個人差が大きい。 著者は、集中力を「心のパワー」であると言っている通り、一人ひとりの「意志の力」である。従って、生まれもった個人の能力にプラス家庭、学校等の能力を培う土壌が必要である。集中力は、適切な訓練方法を継続的に実践することで成長する。その訓練方法を紹介するのがこの本であると述べている。昔から集中力を養う方法に、読書や勉強や修行等がある。これらは「何かを成し遂げる意志」をコントロールする「自制心」「決断力」「勇気」であり、総合したものが「集中力」である。人間一人ひとりは大きな違いはないが、「心のパワー=意志の強さ」の大きさが行動を決定している。だから成功は誰にでも可能性はあるが、その成功の鍵は一人ひとりの心の中(パワー)に秘められている。

メンタルディマンドにつてい書いている。メンタルディマンドとは、望むものを心の中で強く引き寄せる力と解説している。所謂、自分の決意であり目的達成のためのパワーである。この心の持ち方で毎日の行動が変わり、体調を左右し成功実現への大きな力となる。目標達成のためには、どんな困難に遭遇しても決意を変えることなく目標達成に向けで努力し続けていくことが肝心である。これは野球のピッチャーがバッターに向って投げるように、目標であるキャッチャーミットから目を離さず渾身の力で投球する姿に似ている。このパワーは達成まで、エネルギーを持続させることである。成功の第一の要因は、粘り強さであり最後まで諦めないことである。このメンタルディマンドは、自分の決意や要望の強さに比例する。余り多くを欲しがらない人は、多くは手に入らない。しかし絶対に成し遂げようと強い気持ちでエネルギーを集中出来る人は、そのエネルギーの分だけ大きなものを手にすることが出来る。「継続は力なり」のベースは「強い決意」が必要である。

このメンタルディマンドは、時として衰えることがある。それは決意や意志に迷いが生じた瞬間に力が落ちてしまう。迷いが生じないように、最終ターゲット(目標)の再確認と日々の進み具合を確認して、明日以降の具体的な行動指針とする粘り強さが必要である。そしてこの道を極めるためにこの本では、「セルフマイスターの条件」を書いている。 第一の条件:自分の行動や成し遂げたことに決して満足しない。 第二の条件:不可能は存在しないという気持ちで、そのパワーを使えるように自信を築く。メンタルディマンドは、無限の精神力を引き出すためのものである。この精神力の原点となっているものが、最後まで目標を達成しようとする強い意志(執着心=集中力)である。

集中力と習慣     ―― 習慣をコントロールする原則 ――
この本には集中力を身に付ける方法が書いてある。それも系統的、段階的に細かに書いてあるので参考になる。実は、誰にでもある集中力は理屈では分かっているが、中々身に付かないのが現実である。何時までに仕事や勉強を終わらそうと思っていても、未だ時間があるからと簡単に先送りしている。要は切羽詰らないと行動しないのが人間かもしれない。この本では「目の前のことに意識的に心の焦点を合わせる能力が、集中を可能にする」と指摘し、これが出来るのは「訓練された心」が可能にしてくれると書いている。即ち、計画を先延ばしする「悪い習慣」が身に付いていて、目の前のことに集中する「訓練」が出来ていないと言うことになる。この悪い習慣は自分の「意志でコントロール」されているので、これを変える「強い意志」が必要である。この意志は直ぐには身に付かないので、幼い頃から習慣になっているか、或いは普段の生活から自然に身に付いたものである。

そこで普段の生活習慣から見直してみる必要がある。一般的に精神の集中力を妨げる原因は、自制心が未発達で食欲、感情、行動が衝動的で好き勝手に振る舞い、行動に落ち着きがないからと言われている。平常心を保ち冷静に振舞わねばならない。そのためには、規則正しい生活リズムが必要である。その中で「よく働き(学び)、よく遊び」と生活の緩急の切り替えも大切である。そして普段は殆んど意識しない「呼吸」をコントロールすると集中力が高まると書いている。身体を静かにして大きく呼吸をすることによって、心臓の鼓動、血液の循環、脳から全身にいきわたるエネルギーのようなものを感じるという。これを10分程度繰り替えすことで身体と心が安定する。そして心が自然と静まる。気功術やヨガ等で腹式呼吸法を提唱しているのも同じ考えである。これらを生活の中に取り入れれば、「悪い習慣」が断ち切れ集中力が高まる。簡単なことなので、誰でも出来ることである。

悪い習慣のことばかり書いているが、いい習慣もある。習慣とは意識的に身に付ける(訓練する)場合と、無意識に行動(しぐさや言葉遣い等)する場合がある。しかし一旦身に付いた習慣は、意識しなくても自然に判断なり行動ができる。だからいい習慣を身に付ける必要があるのだが、ある程度幼少の時に身に付けないと習慣とならない。しかし、習慣をコントロールする原則を覚えて置くと、年齢に関係なく身に付く方法があると「5つの原則」を紹介している。最初は「古い習慣から抜け出して新しい習慣を身に付ける時は、断固たる決意で最初の一歩を踏み出す」。これらは自分のためになる習慣を身に付けるのだから、先ず行動を起こすことから始まる。次が「新しい習慣が生活の中に完全に定着するまで、例外を認めてはならない」。強い決意と断固たる態度を貫かないと「新しい習慣」が身に付かない。この習慣は一方で「労力節約の発明」とも言われているので、いい習慣を身に付けて目的達成の糧にしたいものである。

集中力と訓練      ―― 集中力を高めるエクササイズ ――
集中力を養うことは習慣であり、その習慣も普段の生活から身に付くと書いている。ただ漫然とした生活では「いい習慣」とはならない。この本は、集中力を高めるためのプロセスを書いた教科書的な構成になっている。だから順を追って実行していけば「集中力」が身に付く仕組みになっている。そのポイントとなるプロセスには、更に詳細な手順も書いてあるが、この本のメインテーマである「集中力を高めるエクササイズ」の項目がある。手順を追って19ものステップがこと細かに書かれてある。全てを列記することは出来ないが、ポイントだけでも紹介したい。このエクササイズは、難しいことではなく「毎日10分、集中することを習慣にする」と書いている。1日10分位なら誰でも出来そうである。

ならばどこで集中するのが最適なのか。著者は自分の部屋なら窓を開け、新鮮な空気を入れた状態でベッドに枕を使わず横になる。そこで筋肉をリラックスさせて、出来るだけ長く息を吸いつづけ、今度はゆっくり息を吐き出す。この呼吸法を10分間続ける。著者はこれを「神の呼吸」と言って、その呼吸を繰り返す過程で「私はこの上なく心静かでくつろいだ状態にある」とイメージする。考えを1点に集中すると、その考えに「力」が生まれる。これが「メンタパワー」である。このメンタルパワーは個人の心の中に生まれるが、いい意味でも悪い意味でも周りの人にある程度影響を与える。だからいいメンタルパワーを持つ人と付き合えば、当然いい影響を受けてお互いに成長し合える関係となる。評判のいい会社や商店には、このメンタルパワーを持った人が必ず何人かいる。こうした方々は、顧客に安心や信頼を与える雰囲気を持っている。落ち着きがあり迷いがない。これはメンタルパワーが自然と相手に伝わっていること意味している。心を集中して迷いや不安を払拭し、成功をイメージする過程で集中力が自然と身に付いていくと書いている。

集中力と勇気についても書いている。勇気とは、何かをやり遂げる意志であると定義している。勇気のある人は、根気があり自分の信じることを口にして実行する。だから自分の目標のブレや迷いやためらいがなく、道徳心と精神力の強い人である。この勇気も集中力と同じく一人ひとりの心の中にあり、普段の生活の中から生まれるものである。先の定義にもある通り、何かをやり遂げる過程には当然試練や困難や誘惑がある。しかし成功を成し遂げる強い意志は、それらを乗り越える大きな力となる。これが勇気である。だから成功には、勇気が欠かせない。そして勇気を持った判断や行動は、周りの人々を動かして、自然と会社や地域のリーダとなり、組織をまとめる立場となる。最後に、「チャンスは全ての人の扉をノックする」だから、「自分は出来る。成功する」と信じて「兎に角、やってみる」その結果は「自分のパワーの量だけ幸せになれる」と結んでいる。勇気を持ってチャレンジしてみよう。集中力は、自分の可能性を高める「メンタルパワー」である。(以上)