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「マンション建替プロジエクト奮闘記(その3)」

PMAJ関西支部 岡本 政義:7月号

4; 準備委員会への結果報告
 4月22日委員長宅で開催された第3回準備委員会で、私はT社の建替え計画書を報告しました。我々の基本構想に対し、全面的に達成可能との回答は、委員各位に衝撃を与えました。前回の会合での構想の提案時点では、「夢」にすぎない「これが実現すれば居住者100%の合意がとれる」とまでおっしゃった委員にすれば尚更のことであったでしょう。私はこのような提案ができた安堵感と同時に、スムーズに居住者の100%建替え合意形成が実現できるかも知れないと思いました。

 なぜ建替え計画が現実のものになったのでしょうか? 一言でいえば、基本構想の設定と、これを引き受けてくれたデベロッパーがいたことにつきます。前回でも申し上げましたが、インターネット検索によるT社へのコンタクトがなければ、このように早く委員会に報告できませんでした。私が多用する、グーグルによる情報検索は、この情報化社会での貴重なツールになりつつあります。
 T社作成の建替え計画書(事業計画に関する提案書)により、計画の概要、基本的な考え方、建替え計画図面(配置図、各階平面図、立面図、住戸プラン)、等価交換事業の組み立て、等価交換内容などを委員の方々に説明しました。委員の方々の希望で、T社と会う日をきめ散会しました。

 今回のデベロッパー数社への検討依頼を通して、建替え事業の難しさと同時にデベロッパーの取り組みに率直なところ温度差を感じました。
 マンション建替え事業は、「プロジエクト」そのものであります。ある部分では、他と類似性はあっても基本的な点で唯一無二という「独自性」を持ち、そして明確な開始点と終了点という「有期性」を持っています。
 加えて、他の事業と異なる事業特有の難しさを持っています。それは「顧客満足」のためのDTCN(,Design To Customers' Needs 顧客のニーズに対応する設計)、と「収益確保」のためのDTC(Design To Costマーケットにあうコスト創り、目標コストに対応する設計)という二律背反の検討を常に行い、理屈はともかく顧客構想に否定的な回答は、即、「顧客の基本構想を否定するもの」となるからであります。以下具体的に解説いたします。

 マンション建替えの問題点として2つの課題があります。それは「合意形成に関する課題」と「費用負担に関する課題」であります。
 まず「合意形成に関する課題」ですが、我々マンション近くの物件で区分所有法の規定による5分の4以上の合意を得たとしても一戸の反対者による係争事件により反対者のみならず区分所有者全員が不幸な状況下におかれているケースがあります。あくまで全員の合意形成に対する努力が必要であり、これは事業協力者としてのデベロッパーの基本スタンスでなければなりません。
 建替え事業推進には「区分所有法に定める建替え決議」において、区分所有者全員合意(100%)を目標に努力する必要があります。これには区分所有者との信頼関係構築を基本とし、マンション理事会/建替え委員会とともに粘り強い交渉が必要であります。
 また安全で確実なスケジユールで進めるには、事業を進める上で障害となる関係権利(借地権、担保権、相続など)やその他思わぬ事項の処理が必要になることがあります。これの解決が遅れることにより一戸の遅延が全戸に及ぼすことの認識も必要になります。各個人のプライバシーに関わることもあり、その内容の確認や相談・解決について十分な対応が必要になります。

 つぎに「費用負担に関する課題」であります。我々の場合、アンケート調査の結果からみて合意形成の前提として費用負担がない基本構想をデベロッパーに要求し、イエスかノーの回答を求めます。この様に、デベロッパーは顧客の突きつけてくる構想に対し、計画段階でありながら、綿密な採算計画をたてイエスと回答するには、リスクを織り込み、その対応を考慮した上でのイエスでなくてはなりません。それには、その事業に賭ける企業のミッションなくして、イエスの回答は出来ないものであります。
 具体的には、顧客の要求は、我々の様に「還元面積は現在の専有面積程度、建設期間中の仮住まい費用補助」ときわめて明確であります。これにイエスかノーの回答しかありません。
 まず採算計画の収入として、余剰容積率による増床戸数の販売収入予測があります。これは周辺で販売中のマンション価格からみた価格設定と集客力が問題となり、これの予測にはリスクがつきまといます。
 つぎにその収入予測で、採算がとれるかのコスト創りが必要であります。これが絵に描いた餅であっては大変であります。エンジニアリング業界では、基本設計は70〜80%のコストImpactをもっていると言われますが、まさに建替え事業においては、基本設計が採算計画の鍵を握っています。100%の合意形成をめざす顧客の基本構想について満足を与え、その反面採算も重視するには、基本設計を担当する設計会社、建設を担当するゼネコン間のコミュニケーションも重要になってきます。
 デベロッパーにすれば、建設工事は特命発注でなく競合状態に置く必要があります。競合力あるコスト創りには、実施者であるゼネコンの参画が必要条件であり、実施面を考慮に入れた、基本設計と建設コストとの密接な連携が重要であります。常に、この課題解決に努力する企業でなければ、建替え事業を採算合う事業に育てあげることが困難かも知れません。
 以上、マンシヨン建替え事業協力者としてのデベロッパーは、企業として事業特有のリスクに立ち向かう明確なミッシヨンと、常に「顧客満足」「収益確保」の、二律背反の課題に対し挑戦し、成功裡に導く粘り強いプロジエクト遂行力を持つことが必要であります。

5; 管理組合定期集会での中間報告
 準備委員会への結果報告の翌日、以前より予定されていた管理組合の定期集会が開かれました。集会の目的は、一年任期の管理組合役員の改選と、決算報告と次年度の予算案承認が主な議題でありますが、この席上、建替えについて準備委員会から中間報告をする機会がありました。
 この席上、私は建替えが皆さんの賛成を頂けるまでになってきたことを説明いたしました。
 いままでの建替え検討は、居住者皆さんの100%の合意形成にむけた「基本構想」がなく、そのうえコンサルタントの検討にとどまり、実施者であるデベロッパーの関与がなかったことが問題であったことを指摘しました。
 アンケート調査の結果からみて多数の方々が追加負担に反対との意向から、基本方針として「還元面積80u、仮住まい負担なし」の構想を設定し、デベロッパー4社に検討依頼することにしたこと、結果としてインターネット検索を通し、会社規模、建替え事業実績、事業にかける熱意からみて検討依頼したT社が協力する旨の回答があり、構想実現についての種々のアドバイスも頂戴し検討の末、イエスの回答を貰ったことを説明しました。
 今後やるべき事としては、デベロッパー選考のためのコンペ実施、評価部会の設置、デベロッパーの決定、推進決議、建替え決議など多くの作業があることも説明いたしました。
 定期集会での中間報告でもあり簡単な報告でありましたが、居住者の賛意をしめす、「どよめき」を感じました。

 次回は、建替え実現の可能性が掴めた次の段階として、スムーズに居住者の建替え100%の合意形成を得るための方策、たとえばコンペによる常識的なデベロッパー選考が、今回果たして必要か?などをふくめ、居住者への説明資料の作成、配布、説明会の開催などを重点に、理事長、準備委員会委員と、とことん話し合った第5回準備委員会の模様を報告致します。ご期待ください。