「PMのリース業への挑戦(6)」
向後 忠明:7月号
いよいよ今月号から具体的な案件ベースでの話しになりますが、その前段として、PT発足後どのような案件が舞い込んできたについて話をします。
当初はまったくの素人集団でのPT立ち上げで、案件発掘をどのようにしたら良いかに苦慮していました。
しかし、思っていたより舞い込んで来る案件が意外に多く、特にこちらから積極的に働きかけをしなくても良い状態でした。ただし、案件はいわゆる大企業からの話ではなく中規模企業からの話が多く、そのため与信面では“??”の部分が多い案件が大多数でした。
世の中の企業は数の面では90%以上中小企業であり、“何かをやりたいのだが先立つものが無い”ということが原因かな!などと思ったりしました。
新聞でも銀行は中小企業に対しては“冷たい”との話を良く聞きます。“情の人”である私は何とかしてやりたい気持ちになるのですが、案件の内容を見ても“なるほど”というものは余りありませんでした。
具体的な例を挙げると、新技術を開発したベンチャービジネスネスの立ち上げ、娯楽施設(パチンコ屋)や洋品店等の店舗展開、廃棄物処理施設の建設、老人ホーム建設、地上げ案件、省エネ技術に関する融資等の当初より想定外の案件が多い状況でした。
その他、すでにお話のショービジネス、再生ビジネス、映像系の配信にかかわるファンドの組成や大型病院やロジスティック施設の建設等の投資・融資に関する案件も入ってきました。
因みに、PT発足以来、約半年間で130件程の案件が舞い込んできました。
このように多くの案件が目白押しであり、女性1人と私を入れて3人のメンバーだけでは処理することの限界を超えるものでした。
しかし、多くの案件は先にも述べたように、ほとんど名も無い、おまけに与信についても“??マーク”の企業からのものが多く、そのため今度は案件の選別ということになりました。
おまけに、営業の得意な田中さんが案件をどんどん持ってくるので、社長からもこれ以上の営業活動をやめて、案件の具体化に注力するようにとの指示まで出るような状況でした。
持ち込み案件の背景がわかればわかるほど何とかしてやりたいと思うのが“人情”だと思います。そのため、少しでも案件が前へ進められればと思い、“与信が無くても案件の採算性がよければ!”との合言葉で一軒ずつ処理し、審査部に持って行きました。
しかし、ほとんどの案件が“NO”でした。
もっとも、当初はそれほど詳細な分析もしないで“勢い”だけで、審査部に持っていったのも失敗でした。
このことから、このPTの扱う案件である程度の規模のものについては、リスクも大きいことから、審査部では対応不可ということもわかりました。そのため、会社を代表するような高位の審査組織が必要となってきました。
“やれやれ”と思いながらこれも役員会議を通して審査組織の設立とその手順についての承認を得る算段を行い、以降についてはこの審査会(拡大審査会)にかけることになりました。
それからは、幾つかの重要案件に絞りながら案件処理を行うようになりました。
その一つがすでに何度か話題に上っているショービジネスです。
この案件についてはすでに立地調査、構想計画、事業可能性検討そして出資者とその出資額の設定も終えていて、後は正式に各出資者から出資を募る段階にきていました。
すなわち、P2Mで言うところのスキームモデルは完了し、次のシステムプロジェクトモデルに入る段階となっていました。
ところが、さらに前へ進もうとしていた矢先にこのショーをプロモートしていた企業が倒産してしまいました。
この種の事業は企業の与信というよりもプロモーターと現地のプレーヤーの関係、スポンサー企業がどのような企業で、そしてどのくらいの資金を協力するかによって決まります。
今回はプロモーター側がこけてしまいショーの誘致が不可能になってしまいました。
このことは、本ビジネスの根本がだめになってしまったことを意味するので、このビジネスはここで終わりということになります。このことを会社に報告すれば“ホレ見たことか!”と言われるのが目に見えています。
そこで、あきらめずに“何か次の手はないか”と会社には黙って次の手を模索することにしました。
そこで田中さんの出番です。
あきらめないで別のルートを探してみると、不思議なもので同じような内容のショーを別のプロモーターがスポンサーを探していることを田中さんが見つけてきました。
さすがエンタメ系のネットワークを持つ田中さんです。
内容は、前回のものと若干違っているが、さらに高度な演出となっているショーでありこれなら問題ないという事から出資者であるスポンサーにその話をつなげることにしました。
しかし、大企業の融通の利かなさで、一度だめになったものは類似のショーであっても協力はできないとの返事があり、結局本事業から降りてしまいました。
そこで新たに出資者探しに奔走することになりますが、これはわれわれにとってはかなり高いハードルとなりました。
そこで、怒こられることを覚悟して、これまでの事情を社長に話しました。
社長は何も言わずに大手の公告会社を紹介してもらい、そこからテレビ局の紹介をもらい、新たな交渉に入ることができる可能性が出てきました。ここでホット一息つくことになりました。
当初は、このテレビ局もあまり前向きな返事ではなかったが、われわれと公告会社による説得やテレビ局の担当が現地で誘致予定の類似のショーを見たりして、徐々に理解を示すようになりました。
それから半年以上たってから、曲折はあったものの、公告会社及びテレビ局から何とか良い返事をもらえました。
本案件はこれから他のスポンサー企業への参加要請や銀行からの融資の段取りを行い、SPCの設立を行っていく段階になっています。
長い道のりでしたが、ここまで約一年の月日が流れました。この種の事業は金融会社で取り扱うにはかなりリスクがあるように見えますが、成功すればかなりのリターンがある案件です。
すなわちハイリスク・ハイリターンの典型的な案件です。
いずれにせよ、この種の事業はステークホルダーの調整、事業計画、事業計画に従った資金調達の段取り、事業会社の設立そして社内の調整といった面倒な作業がたくさんあります。上流側の業務プロセスそして設備やシステムの建設や開発等、場合によっては運営まで含む長期のプログラムとなります。
リース業や金融業はこれまで述べてきたようなプロセスの中で金融業務のみに閉じこもらず、もう少し、事業の内容に踏み込み、自ら上記に示すようなアレンジャー(コーディネーター)となることができれば、あらゆる分野において応用ができると思います。
次回は再生ビジネスについての具体的な話をします。
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