「大きなマネジメントと小さなマネジメントとの違い(4)」
オンライン編集長 渡辺 貢成:7月号
1.前回の要約
「大きなマネジメント」も「小さなマネジメント」も、ともに必要です。どちらか一方では競争に勝てません。私が「大きなマネジメント」と命名したのは、顧客に向かって『このプロジェクトを成功させるためにはお客様が実施される「大きなマネジメント」が必要です。私ども業者はこの「大きなマネジメント」は決してできません』と第2回で説明した役割分担表を提出してお願いしています。 顧客が正しく参加しないプロジェクトは成功しないからです。
2.本 題
2.1「上流は大切だが、上流が下流より偉いということはない」
前回まで「大きなマネジメント」とはプロジェクト立ち上げ以前の構想計画の重要性に焦点絞りました。PMBOKでいう計画のプロセスは構想計画に比べると「大きなマネジメント」の次くらいに大事なマネジメントです。この論法で行くと下流へ行くほど「小さなマネジメント」になります。下流は大勢の人々が参加しますから、「小さなマネジメント」の集合といえます。言うまでもありませんがこの一つ一つの「小さなマネジメント」も疎かにすることはできません。しかし、「大きなマネジメント」を正しく行わないと、大勢に人が努力する「小さなマネジメント」が無駄になってしまうことを理解してください。
今月のテーマは下流にも「大きなマネジメント」が存在するという話です。プロジェクトのすぐれたマネジャーはプロジェクトの出来上がりをイメージし、逆から構想を描くことをします。これも「大きなマネジメント」の一つといえます。
多くの人は上流である構想計画の大切さを認識していると思います。そして上流を扱う人が下流を扱っている人より、心ひそかに上位であると考えているように感じます。それは上流の業務内容が下流より知的要素が大きく、水準の高い人が求められていることからきています。しかし、この考えは大変危険な考えで、上流がこの考えではプロジェクトの失敗確率は高くなります。上流の人は下流の仕事を知りません。下流を楽にする上流の仕事をしないからです。悪い言い方をすると、上流のごみを下流に平気で流すからです。下流の人が、最終段階でごみを拾いまくってプロジェクトを完成させている実態を知らないのです。
有能なマネジャーや建設工事の責任者はプロジェクトの完成日をイメージして工程をつくります。この人は完成日にすべての業務を修了させることを考えます。だらだらと仕事を残しません。プラント建設では逆工程表制作者と上流から工程を進める人では、公式完成日と実質完成日の差が1ヶ月以上にもなることがあります。公式の終了日が来ても残務があり、その始末に現場を閉めることができません。ところが習慣的に当然と考えている現場監督が多いようです。多分コストで5%程度は違いが出てくると思います。この監督は「本工事終了後に行う雑工事は割高になるが、本工事期間内に修了させると、ほぼ本工事の費用内で終了する」ことを考えていません。さらに大きいのは、本人が延期された1ヶ月に別の仕事をすることで、得られる利益を計算に入れていないのです。下流から行う「大きなマネジメント」の例を紹介します。
2.2 「検査業務を主業務とした発想で工期を短縮した」事例を話します。
原子力関連業務はすべての材料の検査証明書が必要です。配管の材料検査証明書は、インゴット(電炉から取り出した塊)からの履歴、成分、強度等の証明書を必要とします。それがないと材料として使えないのです。一つの配管を2分割、3分割すると立会いで、刻印を打って、材料表を添付します。工場や現場で切断し、溶接するときは誰の誰兵衛がどの溶接を実施し、溶接棒は何で、とすべて書き込む。これはトラブルが発生した際、原因の追跡ができるようにするためです。きちんと管理しないと後で書類を捜してもつくることができません。この作業が膨大で、混乱を極めます。そこで私のスタッフがコンピュータ管理したいから金をくれといってきました。まだパソコンのない時代です。当時の私はこれが「大きなマネジメント」という意識もありませんでした。「いいことならやってご覧」とモチベーションを考えて、プロマネの懐から数千万円吐き出してやらせました。この計画は出来上がったとき行う官庁検査を出発点として実施しました。工程表は検査から始まり、建設現場工事、配管会社の工場内作業も取り入れ、材料会社の工程、発注工程、そのための仕様書作成の工程、設計工程と官庁検査に必要なすべての資料を識別し、資料、資格保持の職人、作業を書き込んだ工程表をつくり、コンピュータ管理するものです。
細かい話をしても仕方がありませんが、どのような効果を生んだか、お話します。
- @作業工程が工場内から現場まで含めて、すべてがどんぶりでなく、作業員の名前まで包括された工程になっている
- Aそのためにやっつけ仕事がなくなり、質の高い建設ができた。
- B質の高い建設が、工程どおりできることは無駄がなく、工期が守れ、材料待ちや、職工待ちもなく、建設費を節約でき、QCDすべてがうまくいき、お陰で投資資金は回収できた
実はこの仕組みは大変なノウハウの集積の結果できあがりましたが、その後を発案者以外には利用されませんでした。通常の習慣になれた人にとって計画を密にすることは、計画時にたいへんな思いをするので、面倒なことがいやなのかもしれません。日本では「ヒトと違ったことをしても評価する仕組み」がないし、また、「構想計画を充分にやらなくとも、評価が下がる仕組み」もないから面倒なことはしなくなるという習慣だけが今も生き残っています。
3.ITプロジェクトでも下流から上流へ向けた管理は「大きなマネジメント」になるかもしれない
これまでの3回はITプロジェクトの大きな問題として構想計画を取り上げましたが、下流で行われるテスト費用が受注費用の50%〜70%になるという話も聞いています。この下流から上流にさかのぼる計画は「大きなマネジメント」ではないでしょうか。赤字で新しいプロジェクトを取ることより、受注したプロジェクトの収益を増やすほうが、会社にとって大きな利益となります。私たちは習慣を抜け出すことで新しいものが見えてきます。
以上
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