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「大きなマネジメントと小さなマネジメントとの違い(3)」

オンライン編集長 渡辺 貢成:6月号

1. 前2回の要約
1) ITプロジェクトの失敗要因の80%は顧客にある
2) 構想計画はあらゆる前提を考慮し、実施しなければならないためまとめが難しい。 幸いにベンダーがお客さんの代行をしますというからお任せしましょうということになる。しかし、発注者、受注者ともども決して代行できない部分があるが、その部分が常に欠落するから決して成功しない
この二つの事例はいずれも最もクリティカル(重要)な問題と知りながら、顧客との話し合いで問題を解決することなく、できるところから仕事を進めるという、ごく日本的なやり方で業務を行っている。PMではこのクリティカルな問題を片付けるのがプロジェクトマネジャーの最大の任務で、これが大きなマネジメントです。クリティカルな問題を解決しないと、小さなマネジメントで頑張っても決して問題は解決できません。

2. 本題
5月号でモニター氏から今月は小さなマネジメントの話が出るだろうと期待されました。仕方なく小さなマネジメントの説明に入ります。
1) 大きなマネジメントと小さなマネジメントの役割
最初に断っておきます。「大きなマネジメント」と「小さなマネジメント」もともに必要で、両者がないとプロジェクトは成功しません。車の両輪みたいなものです。「大きなマネジメント」を簡単に言えば全体観を取り扱うのが「大きなマネジメント」です。個々に遭遇する問題を手際よく片付けるのが「小さなマネジメント」です。量的に言うと「小さいマネジメント」がより多く使われて、時間的に80%程度の割合で実行されていますから、仕事を完成するには不可欠のマネジメントです。質的に見ると「大きなマネジメント」はプロジェクト成功に80%貢献しますが、時間的に見ると20%程度の時間ですみます。両方大切ということはそれぞれの役割があるということです。
@「大きなマネジメント」は企画力、戦略力、大局観を必要とするマネジメントで、さしずめ構想計画策定は「大きなマネジメント」といえます。構想計画策定後プロジェクトを計画する「計画のプロセス」も全体観を必要としますので「大きなマネジメント」と見なすことができますが、戦略性より戦術を重視する意味では「ミドル・マネジメント」ということができます。
A「小さなマネジメント」は構想が固まった後、効率よく仕事を進めるマネジメントと解釈すると理解しやすいかと思います。決められたことを確実に実施するマネジメントです。
2) あなたは戦略家、それとも戦術家?
ここに面白い話があります。あなたは戦略家、それとも戦術家自分で判断してください。「ゼロ戦」という戦闘機をご存知と思います。日本は世界一高性能の戦闘機をつくりました。米国のグラマン機はゼロ戦と戦うと10対1の割合でグラマンが撃墜されました。
あなたならゼロ戦に勝つために何をしますか。
@ ゼロ戦より優れた性能の戦闘機を開発する
A それ以外の方法を考える
日本人ならさらに優れた機種の開発を試みますが、どうでしょうか。

米国はどうしたと思いますか?
回答:1対1でかなわないので1対4で戦ったのです。結果はグラマン1機に対し、ゼロ戦10機が撃墜されるようになりました。

3) 「大きなマネジメント」と「小さなマネジメント」の事例
第一次大戦は制海権の時代でした。第二次大戦で日本は航空機を使って真珠湾攻撃をし、大勝利を収めました。真珠湾攻撃の情報を米国はすでに掴んでいました。ルーズベルト大統領は米国参戦の理由に日本の真珠湾攻撃が必要でした。知っていながら大敗しました。大統領は戦争における航空機の威力を知らなかったのです。日本は真珠湾奇襲に戦術として航空機と潜水艦を活用しました。しかし、この戦争に勝つための戦略としての重要性を認識しませんでした。米国は真珠湾の日本の成果を見て第二次大戦は制空権の時代であることを認識しました。(1980年代の日本の高度成長から米国は経営品質という概念を構築し、戦略と品質をインテグレーとしました〉。残念ながら航空機を使い成功した日本は航空機の威力を高く評価せず、巨大戦艦方式を採用しました。武蔵、大和の巨艦は航空機の前にあえなく撃沈させられました。「戦争」でいうと日露戦争以降日本人は戦術中心の戦法で進めてきました。「経営」でも米国の先例を見習って、局地戦を戦術で戦ってきました。局地戦に勝つても最終的には戦略中心の米国に太刀打ちできませんでした。

ここでお分かりと思いますが、「大きなマネジメント」は技術でもなければ経験でもありません。先を読む力とそれを実行する気概です。
日本のモノつくり推進に貢献しておられる藤本隆宏東大教授は「失われた10年」に対し、『日本の現場は常に進歩し、まったく失われた時間はなかった。「失われたのは10年」はトップマネジメントが将来の方向を読むことができず「現場の進歩」を活かすことができなかった問題だ』と明言しています。
「日本は現場が強いから、現場の強さを活かす大きなマネジメントのできるトップマネジメントがいる企業は成功するよ」と別のことばでいっています。

結論:「大きなマネジメント」も「小さなマネジメント」もともに必要です。どちらか一方では競争に勝てません。私が「大きなマネジメント」と命名したのは、顧客に向かって『このプロジェクトを成功させるためにはお客様が実施される「大きなマネジメント」が必要です。私ども業者はこの「大きなマネジメント」は決してできません』と第2回で説明した役割分担表を提出してお願いしています。「大きなマネジメント」は業者ではできないとい顧客を立てることは「小さな戦略」だと思いませんか。

次回は「小さなマネジメント」から出発し、「大きなマネジメント」をする話をします。

以上