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「グローバルPMへの窓」第9回
PM資格の話◆その4

GPMF会長  田中 弘:7月号

 今月号では、残っている主要資格として、オーストラリアPM協会の資格を簡単に紹介してからPM資格について纏めを行いたい。

 オーストラリアPM協会(AIPM)は、3段階のPM資格を提供している。最上位から順に次のとおりである。
Level 6 - MPD: Master Project Director
Level 5 - RPM: Registered Project Manager
Level 4 - QPP: Qualified Project Practitioner
 ここでレベル6から4とは、同国のNational Competency Standard(NPC:国家職能規格)に対応している資格という意味であり、上記3つのレベルの資格保有者は同国の公的職業人登録簿に登録される。
 資格要件はNPCのプロジェクトマネジメント版であるNational Competency Standards for Project Management (NPCPM)に基づいている。こうしてみると、AIPMの資格は、世界で唯一、国家資格あるいは准国家資格と言えるのではないか。
 しかしながら、AIPMには国としてのPMスタンダードが存在しない。知識体系はPMI®のPMBOK® Guideに拠っている。
 一番下のQPPは経歴申告と知識試験によって認定されるPMI®のPMP®レベルの資格である。真ん中の、AIPM資格システムの中軸であるRPMは、資格申請者の実務の場でのPM実務能力を、資格申請者が指名した自分と同業種のアセッサーが最低6ヶ月間に亘って見極めたうえで認定するという仕組みである。これは紛れのない実務PM能力を以って資格認定を行うには理想的な方法ではあるが、手間と時間がかかり過ぎて、認定者の数が伸びなかったという事情があり、簡素化がかなり進んでいるとのことだ。
 最上位のMPDは、RPM認定者が大規模プロジェクトの経験を積んでから認定を受ける資格であり同国では大変権威がある。しかし、本来、オーストラリアの資格であるMPDであるのに、2003年にRPM資格を持たない20名の中国の建設系プロジェクトマネジャーがMPDの資格を取得した事実があり、中国権益とからんだ何かがあったのではないかとささやかれた。

 さて、次にPM資格の纏めに入ろう。
 世の中の資格には2種類ある。ひとつは、医者、弁護士、公認会計士、建築士といった職業法で定められた、その職業を実践するためのライセンスである資格 (Licensed・・・)であり、もうひとつは、排他的にその職業を実践する権利は付与されずに、標準職務能力を有していると判断されることによって付与される資格であり、Qualificationsと呼ばれる。つまり、ある職業実践者が、その職業の標準的な、あるいは何段階かを設けたうえで各々標準的な職能要件を満たしていることを、何らかの公表された基準により、その職業に豊富な経験を有する人達で構成する認定ボード等が認定を行う資格であり、PM資格はこの類に属する。
 PMI®やいくつかの有力PM協会では、プロジェクトマネジメントを、日本流にいえば「士」職業レベルまで高めようという試みで、PM学の教授を起用して医師や弁護士等の先行する専門職業に対して種々のベンチマーク研究を行っている。しかし、研究のこれまでの中間報告では、PMにとっての真の職業化への道はまだ遠いようである。このような研究のリーダー格であるカナダ アバスカス大学のジャニス・トーマス教授らによれば、PMのプロフェッション化が遅れている背景には、プロジェクトマネジメント・サークルの専門職業化に向けてのあまりの淡白さや政治的な意識の欠如があるとのことだ。

 なぜ、PM資格なのであろうか。
 どの協会の資格の案内を見ても、PM資格を保有する利点は、大体次の2点に集約される。

  • 雇用主や、顧客に対して、PM実践家として、標準以上の職務能力を有することの証となる。また、これが実践家の処遇面でプラスと働く。
  • 社員に資格者を有することは、企業としてPMを公正かつ適格な手法で実施している証であり、プロジェクト成功の可能性は、他の場合と比べて高くなる。
 まさにその通りであると思う。しかし、筆者が付け加えたいある意味での最も重要な利点は、次の2点である。
  • PM資格への挑戦によって、PM実践家の知識や経験が整理され、あるいはその人にとっての不足部分を識別することができて、その人の能力バランスと知的生産性が確実に向上する。
  • 有資格者となることにより、所属先の組織PM能力向上への貢献意識が高まり、これが組織化されると組織にPM力のブレークスルーが起こる。
 一方PM資格にとって大きな問題は、これは世界どこでも同じであるが、総合エンジニアリング業や建設業のプロジェクトマネジャーの資格への無関心さである。これらの業種のプロマネ達はまずPM資格は持っていない。それでも世界中どこの、どんな規模のプロジェクトでも纏める力を実際に持っている。そして彼らのPM力は大変に高い。
 これらの業界では、PMを実践する上で顧客から資格を求める声が上がらないことと、顧客も雇用主も資格保有になんらのインセンティブを与えないためにこのような現象が起こるのであるが、いわばPMの始祖であるこれらの業界の人たちに無関係なPM資格であってはさびしい話である。
 このギャップはPM協会が解決すべき問題であり、オーストラリアで実施しているような業種に対応した実践力中心の資格認定方法が大きなヒントとなろう。☆☆☆