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「グローバルPMへの窓」第8回
PM資格の話◆その3

GPMF会長  田中 弘:6月号

 先月号はお休みを頂き申し訳ありませんでした。
 前回はPMI®のPMP®に関する四方山話をしたが、今回は世界のPM協会連盟であるIPMA(International Project Management Association)の4レベル資格に関する話をしたい。
 IPMAは1967年にスイスを本拠として誕生した、最初はヨーロッパ諸国の(その後世界に広がった)プロジェクトマネジメント協会の連盟組織だ。PMIより2年ほど設立が先であった。しかし、IPMAの各国協会には、あるいはIPMA全体としては明確なPMスタンダードは長いこと存在しなかった。国の協会としては英国PM協会(APM)が1992年に英国協会PMスタンダード(APMBoK)を発行したのが最初で、IPMAが5年の歳月をかけて現在のICB (IPMA Competence Baseline)と呼ばれるマスタースタンダードを発行したのは1998年であった。
 筆者が最初にIPMAの世界大会に参加したのは1882年のコペンハーゲン大会で、この頃からIPMA各国ではPM資格はホットな話題ではあった。しかし、この頃のIPMAは前回に述べたPMIの当時の状況と同じで、PM協会はPMのベテランのクラブであり、掛け声とは裏腹に、ことさらプロジェクトマネジャーを認定する必要はなかったようである。
 しかし、80年代の後半には、PM人口が増えて経験が浅いプロジェクトマネジャーも増えて、プロジェクトマネジメント層の全体スキルレベルが低下したことと、一方では1984年からのPMI®のPMP®資格制度に触発されて、主力国のPM協会では何らかのPM資格制度を導入する動きが始まった。
 だが、PMP®創設当初のPMIと同じように確立したPMスタンダードがなかったために、各国のPMリーダーをアセッサーに任命してやや非公式なPM資格を発行して数年が過ぎ、ようやく英国が協会スタンダードとこれに基づくプロジェクトマネジャーの認定を1992年から開始した。そしてこれを手本として各国協会が各々スタンダード制定と資格認定に着手し、これが統一スタンダードであるICBへ、そして今日の4レベル資格制度へとつながった。
 さて、IPMAは、次のとおりAからD までの4レベルの資格を認定している。レベルAが最上位であるが、分かりやすくするために一番下のレベルD資格から解説する。
レベル D: Certified Project Management Associate
ICBに沿ったPM知識の保有を以って認定され、プロジェクトマネジャー補を対象とする。
レベル C: Certified Project Manager
複雑性がそれほど高くないプロジェクトのPM歴が3年以上のプロジェクトマネジャーを対象とし、認定候補者はPMの責任を伴う職位にあったことを認定要件とする。
レベル B: Certified Senior Project Manager
5年以上のプロジェクトマネジメント経験があり、そのうち3年は複雑性が高いプロジェクトのプロジェクトマネジャー経験であることが認定の最低条件となっている。
レベルA: : Certified Project Director
5年以上のポートフォリオマネジメント、プログラムマネジメント、またはマルチプロジェクトマネジメントの経験があり、そのうち3年は企業・団体のポートフォリオマネジメントまたは重要なプログラムマネジメント経験があることを認定条件とする。
 次に認定方法であるが、次の図に示すが、レベルDは知識試験のみによるが、


Project Management Certification

 レベルC以上の資格には、自らが担当したプロジェクトの記述論文と、アセッサーによる面談評価が課せられる。また、評価の軸は、それぞれの資格が求めるレベルによるコンピテンスである。ここで、IPMAの定めるコンピテンスとは知識・経験・行動パターンの総和である。
 読者は、この資格体系をどのように評価するであろうか。筆者がIPMAの資格体系で高く評価するのは次の点である。

  1. あくまでも実社会の、プロジェクトマネジャー職務の受益者であるカスタマー(雇用主)とプラクティショナー(実務家)の両方が求める、あるいは同意したプログラム&プロジェクトの職能階層レベルに基づいて資格レベルの設定がなされている(カスタマー・オリエンテッド)。
  2. 各レベルの資格者に求める要件が具体的で極めて分かりやすい。PM資格の本来の姿である、各レベルの標準的な職能を持ったプロジェクトマネジャーを想定し、プロマネとしての置かれているプロジェクトの種類とその中での標準経験年数を設定している。
  3. つまり、いろいろ理屈をつけずに、実務家の先達が、後輩のために、実社会のPM実務の平均増を割り出し、そこに到達したプロジェクトマネジャーを資格認定することが自然体で行われていることがよい。
 次号では、資格の話のまとめを行いたい。