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国家の品格
(藤原正彦著、新潮新書発行、2006年04月05日、22刷、191ページ、680円+税)

デニマルさん:6月号

 この本は、今話題の本である。バブル崩壊後の失われた10年から立ち直り、デフレ脱却を図りつつ着実に経済的発展を遂げつつある。なのにニートやフリーターや生活保護世帯が増加している。更に、幼児や小学生の虐待等の凶悪事件が多発している。暗いニュースばかりではないが、日常生活の充足感がなく、これからどうなるのかといった将来への不安が募る。こうした中で日本人の国家意識は、昔からキチンとあったにも関わらず、歴史観や倫理観が忘れられている。著者は、それを見直して日本人のあるべき姿を明確に指摘した。この本を読んで、今の日本に欠けているものをズバリ指摘され、爽快である。爽快さだけでなく自分の精神的支柱を見直したくなった。このことに共鳴し、納得している読者も多いのではなかろうか。国家や日本人を分かり易く説いた説得力があり価値ある本である。

国家の品格とは?     ―― 日本には昔から品格があった ――
 国家とは、精神的に自立した国民が国を愛し、国を守り自主独立している。そこには国家としての倫理観がある。この倫理観は、家庭での躾であり、学校での教育であり、社会における道徳である。日本には、昔から情緒豊かな感性が培われる社会環境があった。それが家族愛、郷土愛、祖国愛、人類愛に繋がった。「もののあわれ」「わび」「さび」といった感性などもあった。外国の物まねや迎合ばかりでは、100年先の国家の体系を成し得ない。

今忘れられているもの??   ―― 日本の自然・歴史・文化 ――
 日本の7割は山で、その山には緑が生い茂り、川が流れて四方を海で取り囲まれた島国である。外国に侵略さえることなく独自の歴史と文化を育んできた。太平洋戦争に敗れて、その歴史と文化は大きく変わった。変わること悪いことではない。しかし、発展のために環境破壊、競争優先、弱肉強食の価値観は、昔の日本の伝統や文化を変えた。この良き日本の自然・歴史・文化を理解することが、国家としての価値観から品格が自然と生まれる。

武士道、情緒、形???      ―― 日本人の原点 ――
 日本の文化には、外国人には真似のできない独自のものがある。その一つに社会的規範を貫いた武士道がある。慈愛、誠実、忍耐、勇気等の精神を、普段の生活のあり方から戦いの掟まで幅広く盛り込んだものである。その中に「弱い者イジメはしない」「卑怯はいけない」といった理屈でない精神規律がある。これに対して、自然を愛しものの哀れみを感じる情緒や伝統に由来する「形」を大切にする心も昔からあった。これら日本人の原点を見直して、忘れられつつある日本の歴史、伝統こそ国家を支える品性であると書いている。