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いのちの授業  ―― がんと闘った大瀬校長の6年間 ――
(神奈川新聞報道部著、新潮社発行、2005年07月05日、2刷、239ページ、1,365円)

デニマル:5月号

 本を読んで早く紹介したいと思えるものは、年にごく僅かである。今回の本は、その中の1冊である。だが既に大瀬校長の名前や「いのちの授業」は、テレビ等で紹介されているので多くの人はご存知かも知れない。しかし、ここで取り上げて一人でも多くの方々に読んで貰いと思っている。明日の日本を背負う子供たちと、それを教育という柱で支える先生や学校のあり方を、一人の校長先生を通じて真剣に考えさせられた。学校だから教える?教えることとは?学校の主役は誰か?先生の役割とは?何のために学ぶのか?生きるとは?等々。神奈川県茅ヶ崎市浜之郷小の大瀬校長は、教育のあるべき姿を求めて新設校でチャレンジした。だが大瀬校長は開校間もなく癌を患い病と闘いながらの奮闘であった。「教えることは、学ぶこと」のモットーは順調に根付いていったが、校長は開校7年目に57歳の若さで旅立たれた。その校長の創学の意志は確実に生徒や先生に継承されている。

いのちの授業(1限目)  ―― 「教える」から「学びの共同体」づくり ――
 この学校では、今までの教育上の問題点を解決するために多くの施策が実践されている。廊下と教室の壁の撤去や、先生の役割分担も一役一人の助け合い方式等、従来の教員文化にこだわらない新しい方式を取り入れている。最も顕著なものは、学校の主役は生徒だから先生が教えるのではなく、生徒と先生が共に学ぶ共同体をつくる点である。具体的には、先生が子供の目線で考え学ぶ環境や条件設定をして、共に新しい学び方を見出している。

いのちの授業(2限目)   ―― 互いに育み合う癒しとケア ――
 開校4年目で、創学の理念を「互いに育み合う癒しとケア」に変更した。これを深める学校・授業運営が必要であると具体策を改めた。「いのちの授業」も開始された。この癒しとケアから、先生も生徒のケーススタディから新たな学びの環境が生また。更に、保護者の子育て支援事業から「こんのひとみライブコンサート」を開催した。この関係からこんのさんは、後に大瀬校長をモデルにした「くまのこうちょうせんせい」の童話を創作された。

いのちの授業(3限目)  ―― 生きることから学ぶこと ――
 大瀬校長は、自ら「いのちの授業」を9回実施している。テーマは生きること。題材は、絵本の読み聞かせや、歴史上の災害時の出来事であったり、自分の病気のこと等々、全て命の尊さを基本としたものだ。「死とは、生きること」であると、「いのちの授業」を続けた。生徒や先生は、こうした大瀬校長の教えを「聞く」だけでなく、動物の飼育や課外活動や友達との交友関係にも活かしている。「学ぶ」ことは人間成長の基本的なことである。