悪夢工学
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「夢工学(43)」

川勝 良昭 [プロフィール] :5月号

     

4 性格は如何に形成されるか
1) 悪夢工学で言う性格タイプ

悪夢工学は、幼児、少年、精神異常者などを除き、正常な人間とは、A1、A2、A3、B1、B2、B3、C1,C2、C3、D1,D2、D3の12のタイプの性格に分かれると簡潔に定義している。その理由は、人間の複雑な深層心理、裏に隠れた精神活動、表に現れた複雑な行動などをあまりに詳細に分析し、評価し、定義すると、かえってその人物の最も重要な「本質」が見えなくなるからである。言い換えればその人物の「本性」とはどの様なタイプがあるかを明らかにし、分かり易くするために簡潔な分析評価法を採ったのである。

悪夢工学式・性格パターン

世間ではいろいろな性格の言い表し方がある。また心理学者の人間分析の学説の数だけ性格タイプがあると言われている。悪夢工学の性格タイプ分析があまりに簡潔であることに満足しない読者のために、いろいろな性格タイプがあることを以下に2元論で書き表した。しかしこれらを読んで「なるほど沢山あるなあ」と思っても、「So what ? ( だからどうなの)」である。悪夢工学が簡潔な性格タイプ分析によって人物の本質的評価をしている意図が分かって貰えたであろうか。

2) 世間で言われるいろいろな性格タイプ
積極的な性格 vs 消極的な性格、楽観的な性格 vs 悲観的な性格、陽気な性格 vs 陰気な性格、罪悪感が弱い性格 vs 罪悪感が強い性格、優越感が強い性格 vs 優越感が弱い性格、劣等感が強い性格 vs 劣等感が弱い性格、神経質な性格 vs 鈍感な性格、協調的な性格 vs 非強調的な性格、活動的・活発な性格 vs 非活動的・非活発な性格、自立心の強い性格 vs 自立心の弱い性格、抑鬱的な性格 vs 非抑鬱的な性格、攻撃的な性格 vs 非攻撃的な性格、思考が外向的な性格 vs 思考が内向的な性格、情緒安定性が大の性格 vs 情緒安定性が小の性格、衝動的行動の性格 vs 非衝動的行動の性格、攻撃的な性格 vs 防御的な性格、支配的な性格 vs 服従的な性格、社交的な性格 vs 非社交的な性格、主観的思考傾向の強い性格 vs 弱い性格、自信過剰な性格 vs 自信消失な性格、気分の変化が激しい性格 vs 穏やかな性格、自己を過大評価する性格 vs 自己を過小評価する性格、社会的な適応性が強い性格 vs 弱い性格、のんきな性格 vs 心配性な性格、熟慮型の性格 vs 非熟慮型性格、瞑想的な性格 vs 非瞑想的な性格、指導性が強い性格 vs 指導性が弱い性格、社会的接触を好む性格 vs 好まない性格、反応が過敏な性格 vs 反応が鈍感な性格、空想的な性格 vs 非空想的な性格、集中力の持続性に優れた性格 vs 劣る性格、新しいことに直ぐに慣れる性格 vs 慣れない性格、妨害に影響され難い性格 vs 影響される性格、臨機応変に対応できる性格 vs 対応できない性格、勤勉な性格 vs 勤勉でない性格、権威に強い性格 vs 権威に弱い性格、被暗示性が高い性格 vs 被暗示性が弱い性格、説得され難い性格 vs 説得され易い性格、騙され難い性格 vs 騙され易い性格、運命・宿命を信じる性格 vs 運命・宿命を信じない性格など。まだまだある。しかし数が多すぎてこれ以上書き表すのを省略させて貰った。


3) 人格自然獲得説と成功失敗体験説
●成功と失敗のインタープレー
「人生に対する姿勢は、人が生まれた瞬間から大人への成長過程で自然に獲得される」と交流分析のバーンズ博士は主張している。

しかし筆者は、バーンズ博士が主張する「人格自然獲得説」ではない。「成功・失敗体験説」を主張している。これは、筆者が過去二十数年間のプロジェクトの研究から得た結論に基くものである。本人が親、兄弟、友人などの協力を得て「成功」や「失敗」を体験する過程で人格が形成されるとする考えである。何故ならこの成功と失敗こそが本人をして他者と最も強烈に関わりを持つインタープレーであるからだ。」

●悪夢の体験
成功の内容、成功のレベル、成功の種類などを問わず、若き成功者は、他者から尊敬され、一種の畏怖の念を持たれ、愛されるのである。この成功経験を持つことで若き日の自分は、自分への肯定的考えを醸成させる。また同時に自分の成功のために協力し、支援してくれた人への感謝の気持ちが他者への肯定的考えを醸成させるのである。

一方若い頃に成功の体験が一切なく、暗い家庭生活、厳しい生活苦、親からの無関心や無期待、親からの虐待、失敗への過度の制裁、劣悪な教育環境、胸に刻まれた失敗の傷などの失敗とそれによる悪夢を数多く体験した人間は、極めて深刻なモノやコトが深層心理に刻み込まれる。即ち歪んだ夢、歪んだ野心、人への不信、人への恐怖、人と一緒にいることの不安、人への憎悪、人への否定などである。

この様なモノやコトを深層心理や精神構造の奥底に抱えたままで、その後の人生を歩み、暗い厳しい生活環境から抜け出し、高度の教育を受け、社会的評価の高い企業や官庁の高い地位に就いた人物は、ある種の考えと行動を取る様になる。それは、本人が就いた地位が持つパワーを駆使し、極端な自分肯定と復讐に似た様な他者否定の行動を取ることである。この様な人物こそが悪夢工学の典型的な対象者であり、夢工学の最強の敵である。
極めて優秀で成功者でも、深層心理に他者否定観を持つBタイプ

●英雄の体験
「女は男のどこを見ているか(ちくま書房)」の著者・岩月譲司氏は、筆者の言う「成功失敗体験」を「英雄体験」と表現している。

同氏は、男の子の若い頃の英雄体験こそが極めて重要であり、その後の人生を左右する鍵になると指摘している。また何に成功したかではなく、成功の過程で知恵と勇気を獲得したかどうかが重要であると主張している。「女は男の知恵と勇気を見ている」というのが同氏の持論である。同氏の考えは、悪夢工学の人格形成論の考えや夢工学の考えに通じる。

しかし筆者の場合は、男の子だけでなく、女の子にも成功・失敗体験が極めて重要と考えている点が違うのかもしれない。一度、同氏に会ってそのことを確かめたい。
以上