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PMBOK®ガイドの読み方(第6回) 
―対象者の拡大に向けて―

研修事業第2部会 横山 泰明:4月号

 先月号までの筆者の皆様方のPMBOK®に対する熱き思いやPMBOK®を如何に実務に活用して行くかというお話については多くの感銘や示唆を受けるところです。今月号では、そうした思い、示唆から少し外れて、PMBOK®の良さをもっと多くの人に知ってもらい、活用してもらうために、という観点からお話させていただくことにします。PMBOK®は英語版が基礎の基礎としてありますが、日本で活用するということでここでは日本語版についてお話を進めて行くことにします。

1. PMBOK®との出会い
 筆者はITの世界で仕事をしていますが、筆者がプロジェクトマネジャーのためのトレーニングを初めて受けたのは、1994年でした。それまでは先輩の後ろ姿を見てプロジェクトマネジャーの仕事を覚えて来ていました。ですからその頃、ITの世界では、まだほんの一握りの人しかPMBOK®という言葉を知らなかったのではないかと思います。当然筆者もPMBOK®の存在は全く知りませんでした。自身が受けたプロジェクトマネジャーのトレーニングがPMBOK®を元にしていたことなど想像もしていませんでした。こんな筆者がPMBOK®を知ったのは、それから何年も後のことで、PMI®のPMP®試験を知り、それに挑戦し破れた後のことです。当時のPMP®試験は、英語で、しかも1日がかりの、知識エリア毎に総問題数400もある試験で、日本で受験する場合、わざわざ米国から試験官が派遣され、その管理下で行われる大々的な試験でした。PMBOK®を知らずして、PMP®試験を受けるという、無謀な試みは当然見事に失敗し、そのリベンジに闘志を燃やし始めた後、PMBOK®を知ることになります。英語の試験から、日本語で受験できる環境がその頃やっと整い、試験そのものも英語での受験より格段に受けやすくなったその上に、PMBOK®を教科書として利用したのが最初です。それが96年版のPMBOK®と知ったのはもう少し後になってからです。

2. PMBOK®の進化とプロジェクトマネジャー養成の早期化
 そのPMBOK®は96年版、2000年版、3rd版と改訂出版されて進化を続けていますが、ITの世界でもPMP®資格の認知度が向上し、その資格取得者の増加とともに、PMBOK®もプロジェクトマネジャーの標準的な教科書として認知されています。このことが意味するところは、96年版当時はプロジェクトマネジャーになってからPMBOK®を知り、PMBOK®を読み、プロジェクトマネジメントの勉強をし、実務に応用して行くということが多かったのではないかと思います。そのため多少難解なものであっても、自身の経験を加味することで、PMBOK®を読み取る、読み解くことができました。それが、ITの世界に急速に浸透し、プロジェクトマネジャーであればPMBOK®を知らない者は無いというところまで認知されてきた今、ITの世界では、プロジェクトマネジャーになってからPMBOK®を勉強するのではなく、もっと若い世代からプロジェクトマネジャーになるためにPMBOK®を勉強する機会が増えて来ています。またそのように勉強していかなければ真のプロジェクトマネジャー、実力のあるプロジェクトマネジャーにはなれない時代が来たのではないかと思います。ITの世界では、ハードウエア技術、ソフトウエア技術の加速度的な進歩に伴い、複雑な、高度化されたシステムを開発するプロジェクトが多数開始され、プロジェクトマネジャーの力量がシステムの命運を左右する度合いが非常に高くなって来ています。そのため実力のあるプロジェクトマネジャーの早期養成が要求されていますが、このときの教科書としてPMBOK®は非常に重要な役割を求められています。つまり、一部の優秀なプロジェクトマネジャーのための道具ではなく、経験の浅い若い人にも道具として使ってもらうものになりました。そのためにも若い人にも読みこなせるようなPMBOK®に変わって欲しいと思っているところです。

3. 理解を深めるために
 「Run Silent, Run Deep」、これを見て直ぐにあれだと思い浮かべる方は大変な映画通だと思いますが、この言葉を見たときに皆様はどのように訳されるでしょうか。私には「静かに走れ」、「深く走れ」といった程度にしか訳し得ません。でもそれでは状況をおぼろげながら理解、頭に描くことができますが、あくまでもおぼろげでしかなく、状況をしっかりと把握するまでには至りません。
 「Run Silent, Run Deep」、邦題「深く静かに潜行せよ」という映画の原題です。この映画、映画としても面白く、リーダーシップの勉強ができるものですが、映画の盛り上がりのところで、それは無いだろうという位日本をコケにしたような部分もある映画でした。ここでは映画の内容はさておき、この邦題をみると、しっかりとその状況、しなければならないことが見えてきます。何も知らなくても状況をはっきりと見て取ることができます。

4. 実用書としてのPMBOK®
 PMBOK®に戻りますと、PMBOK®にはPMBOK®ガイドの対象者が明確に定義されています。しかしPMI®が意図しようとしまいと、先に述べたように、96年版当時のプロジェクトマネジャーになってからのPMBOK®が、プロジェクトマネジャーになる前のPMBOK®、プロジェクトマネジャーになるためのPMBOK®となってきた今、できるだけ平易な言葉、表現が必要になっていると思います。多くの叡智を集め、大変なご苦労や努力を重ねられた上に日本語版が完成されていますが、学術書的表現を実用書的表現に移し変えていただくと一層使い易くなります。ITの世界では、今多くのプロジェクトマネジャーを必要とし、若い人に素早く優秀なプロジェクトマネジャーになってもらわねばなりません。そのためにもバイブルたるPMBOK®が重要です。PMBOK®は今、もう学術書ではなく既に実用書であると筆者は思っています。

5. PMBOK®への賛歌
 実用書であるPMBOK®は、改訂版が出される度に進化していると思います。3rd版ではすべてに亘って96年版、2000年版に比し、読みやすく内容の充実が図られています。
その中で、筆者が注目したいのは、第1部1章、2章と第2部の3章です。第3部4章以降の知識エリアの部分は、プロジェクトマネジャーの中核知識、スキルとして重要であることは議論を待たないが、プロジェクトとは何か、プロジェクトマネジャーとはどのようなことに視点を当て、どんなスキルを身につけ、どんなことをしなければならないかといったことが、第1部、第2部には、以前の版に増して記述されています。筆者が若いときに、ただ漠然とオールマイティのスパープレイヤーとしてしかイメージし、話されて来なかったプロジェクトマネジャーについて、ページ数も格段に増え、内容も充実されて記述されています。これからプロジェクトマネジャー目指す若い人にとって、第1部、第2部の部分をよく理解していただき、プロジェクトマネジャーの技術論だけではなく、全方位的な知識、スキルの必要基盤をこのPMBOK®から吸収し、この先人口減で停滞を予測される社会を打ち破っていただきたいと願う次第です。
以上