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PMBOK®ガイドの読み方(第5回) 
―如何に業務に活かせるか―

研修第2部会 三浦 進:3月号

 筆者が初めてPMBOK®を知ったのは、1990年PMI®カルガリー大会に参加したときであった。ある教育関連のセッションを覗いた時に「ピンボック」との言葉が耳に入った。その時は何のことか仔細には理解出来なかったがプロジェクトマネジメントの知識体系を纏めておりそれを議論していることはわかった。当時、筆者は会社で既にプロジェクトマネジャーとしての仕事をしており、コスト・スケジュール管理・関係性マネジメント等のPMの基本は理解していたが、洋書のハード本の他に教科書的にPMを解説するものが出来ようとは感激であり、出張報告書にそのことを記述した記憶がある。その後しばらくは業務にも追われPM基礎知識に触れることもなか
った。

 1994年に社内組織再編で他事業部から海外プラントプロジェクトへ移動する若手エンジニアにプロジェクト教育を体系的に行う必要が生じた。 その教材開発チームに選任された時に1996年版の基となったExposure Draftを手に入れその教材の一部に組み入れた。プロジェクトマネジメントとは何かを大きく捉えるフレームワークの部分である。これらは1.プロジェクトをフェーズで考えること、2.プロジェクトの立上げ・計画・遂行・コントロール・終結とプロジェクトマネジメントをプロセス化したこと、3.フェーズの進行でプロジェクトマネジメント計画が詳細化され、実施に移されるローリングウエーブ・プランニング、4.フェーズは完了していないが次のフェーズに進む場合でリスクが許容される時に行われるファストトラッキング等の基本概念である。更にプロジェクトマネジメントを多くの相互作用のあるプロセスとして紹介し、これらの相互作用において個々の目標間でトレードオフが必要となり、プロジェクトを成功裏に納めるには、これらの相互作用を積極的にマネジメントすることが大切であるとの基本的な記述を採用した。これらは実務において常に行われていることである。しかし、これらを基礎知識として体系的に捉えさせることは、自分の進めていることを正しい理論で認識し、事を前に進める芯となる正にプロジェクト遂行“Body of Knowledge:基礎知識”と考えたからである。しかし、筆者の英語力の問題も有るが英訳はハードに感じた。プロジェクトマネジメントは解っているつもりであるがPMBOK®Rの記述が念仏の様に感じられ文書の意味を掴むのに苦労し自分の持っているPM感に
合わせて意訳を行った。

 (財)エンジニアリング振興協会(ENAA)のPM委員会がPMBOK®1996年版の翻訳を手がけ初めて日本語版が発行された。これを手にして初めてPMBOK®を読み通したが規格・標準書のようでPMを実務に照らして理解するには読みつらく感じた。しかし、PMAJの前身であるJPMFの発足に携わるころに日本で行われた第2回目のPMP®資格試験を受験する必要が生じ、改めてPMBOK®を読み込むことになった。PMBOK®を学び実務に活かせるようになるには、PMP®資格取得とセットで捉える必要があると考える。ある程度プロジェクトマネジメントを知っているものにとって単に書籍としてPMBOK®を読んでも「こんなことは知っている。」と読み流し、よく纏っている程度の感想で終わるであろう。一方で、資格試験受験となると受かりたいとの気持ちから徹底的に読み込むことになりPMBOK®が教えるPMの基本が頭脳に整理される。今まで自分が実施して来たマネジメントが更に本物になっていく。実務と基礎知識が1つになる。また、PMP®資格試験ではPMBOK®に記述のないPMI®の推奨する思想にある知識が必要となる。コンフリクトマネジメントでの問題解決の手法は何が最良であるか?等の設問である。強制(一方的に自分の考えを押し付ける)が最悪で、問題解決(徹底的に議論してお互いの納得する解決策を見出す方法)が最良、妥協はその中間となる等である。また、リスクマネジメントでは、「プロジェクト期間を通じて繰り返し行うもの」が基本であり、例えば、プロジェクト会議ではよくプロジェクト状況の報告に陥りがちであるが、会議では「新しいリスクが発生していないか、Proactiveにプロジェクト状況を考察する場である」など大切な視点を頭脳回路に埋め込むことができる。本文の記述では、プロジェクトチームを組成した場合は、RAM (Responsibility Assignment Matrix)を作りチームメンバー個々の役割と責任分担を明確にする等、拾い上げればきりが無い。プロジェクトマネジャーやそのチーム員としてプロジェクト遂行のために大切な視点・実践標準であり、日ごろ行われているか常に意識することが必須である。

 PMBOK®は、2000年版、第3版と内容は見直され、実務的になってきていると感じている。「EVMでCPIを計算するProject Performance分析でEAC (Estimate at Completion)の算出は、その時点における完成コストの傾向を予測することは出来るが、ETC (Estimate to Completion:見込みコスト)をその時点で再見積することには及ばない。」と記述され、また、リスクマネジメントでは、「リスクの識別の段階で、比較的簡単な問題は対応策を策定する。」と実務的な表現となっている。

 筆者は、ENAA PM導入開発委員会で日本初のPM実践標準P2M (Project and Program Management for Enterprise Innovation)の開発にも携わり初期のP2M講習会講師も務めた。P2Mは価値創造のPMであり、PMAJはこのP2Mを看板としてこの普及を推進し日本におけるPM強化を計る使命を負っている。PMBOK®は、受注型プロジェクトの遂行でプロジェクト遂行のプロセスに重きを置いている点に特徴があると感じている。いずれにせプロジェクトを成功させるためには、KKD(勘・経験・度胸)も大切であるが、ここから一歩進んで基礎知識を身につけてアカウンタブルなマネジメントを出来る(若しくは指導出来る)能力をつけることが肝要となる。

 基礎知識と名づけ講義をすると、ある人達(特に修学に優れて成績が良いといわれる人の一部?)から、その受講アンケートに、「知見を得るに留まった。実務の勉強がしたい。」と記述するものがいる。 教え方にもよるがPMBOK®には実務を正しく行うための基本が記述されており、その基本を上述の通り自分のプロジェクトマネジメントに活かしていく、行けるものであり、この様な感想を持つ人は残念な人と思う。

以上