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プロジェクト・コミュニケーション・文化(第13回)
「コミュニケーション・レイヤ構造」

板倉 稔:4月号

  グローバル企業が自分のやり方を世界に持っていくにしろ、国際シンポジウムで多様な国がアイデアを出し刺激し合うにしろ、お互いに通じるコミュニケーションが必要だ。異文化間で通じるコミュニケーションをするには、どうすればよいのか考えていきたい。
 2003年の末に、日印中他の人々でパネルディスカッションをした。その時のメンバーが核になって、異文化間のコミュニケーションは、どうすれば良くなるかの検討を始めた。これが、コミュニケーション・プロトコルWGである。メンバーは、出入りがあったが、最終的には、私を含む8人である。このWGは、2006年の2月に完了した。この成果は、PMAJの発表会で発表する予定である。

 コミュニケーション・プロトコルWGで、コミュニケーション構造を定義した。それは、次の7つのレイヤ(層)構造である。第1レイヤから、次第に人工的になって行っている。
  7. ビジネス
  6. 経験・スキル・ナレッジ
  5. 習慣、制度
  4. 記述・表現能力
  3. 文化と「言語の特徴」
  2. 言語・美意識・人間
  1. 天候・自然・歴史
 下から説明しよう。俳句「古池やかわず飛び込む水の音」を、中東の砂漠に行って言ってみたらどうなるだろうか。多分、期待通りの反応はえられないだろう。この例を一般化して、天候・自然が、人々に影響し、それが言葉、芸術、文化、行動等々様々な人の側面に影響していると考えることに無理はないとおもう。つまり、人の理解もとになる共体験の根っこは、天候・自然にある。さらに、この天候・自然に囲まれて生きてきた先人の業績、つまり歴史もこの範疇に入る。これらが、「通じるコミュニケーションの元である共体験」のもっとも基本的な部分である。
 祖先は、これらの共体験の共通的事象を伝承・説明していく内に、言葉、習慣、祭祀、仕事をつくって行ったと考えるのが素直だ。そうであれば、言葉は、天候・自然・歴史に影響を受けていると言える。言語は第2レイヤにある。
 第2レイヤ3番目の人間は、今いる人間と言う意味である。今ここにいる人間は、考え方、物事の感じ方などで、天候・自然・歴史の影響を受けている。
 第2レイヤ2番目の美意識はちょっとやっかいだ。美意識には、大別して2つありそうだ。一つは、幾何学的美しさ。もう一つは、絵画や俳句などに現れる美。しかし、ベートーベンの交響曲は幾何学的構造を持っているし、遠近法は幾何学的だし、俳句は5・7・5と言う算数的構造を基礎にしている。つまり、絵画や俳句に現れる美は、この2つの美を両方持っている。
 幾何学的美は、システム設計の基本となる美学であることは、論をまたない。幾何学的美をもつシステム(ソフトウェア)は、一般に品質が良く、性能が良い。しかし、もう一つの美の内、何がシステムの特性に良い影響をもたらすかは、まだ考えてないので、今後の課題としよう。
 第3レイヤには、文化と言語の特徴がある。コミュニケーションで伝わる情報量は、渡し手と受け手の共体験の大きさによって異なる。共通する体験が多いほど情報は正確に伝わる。この共体験のエッセンスが文化でり、言語の特徴を構成している。
 第4レイヤに、記述能力・表現能力がある。同じことを、同じ共体験を持つ人に言っても、伝わり方は違う。双方の、表現能力と受容能力による。
 第5レイヤは、習慣、制度である。文化よりも文明に近い概念であり、人が集団で暮らす(国,家族など)上でのルールである。これは、記述能力・表現能力によって伝わった事項である。第四レイヤの上に成り立っている。
 第6レイヤは、その分野での経験、その分野に必要なスキルや知識であり、7番目はビジネスである。
 以上、縷々コミュニケーションレイヤ構造を述べたが、この構造が事象・原因の分析・分類に効果を発揮しそうなことは、容易に想像がつく。
 
板倉稔
「スーパーSE 板倉稔のホームページ」
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