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『ザ・マインドマップ』
(トニー・ブザン、バリー・ブザン著、神田昌典訳、ダイヤモンド社、2005年12月20日発行、
3刷、318ページ、2,200円+税)

金子 雄二 ((有)フローラワールド):4月号

 この本が出る少し前に関連する図書が相次いで出版された。「マインドマップ読書術」(松山真之助著、2005年1月)、「マインドマップ図解術」(中野禎二著、2005年7月)、「マインドマップ・ノート術」(Wリード 著、2005年9月)等である。その中で「マインドマップ読書術」の出版記念会が昨年2年に開催された。著者は、現在人気メルマガWebブック編集長としても活躍中であるが、筆者が以前同じ会社で働いていた関係もあって出席した。それ以来マインドマップについて、一度ここで取り上げようと思っていた。それには幾つかの理由がある。先ず思考の可視化手法として合理的で使いやすいこと。更に、原理がシンプルなので多面的な活用方法が考えられる。更に、プロジェクトマネジメント(PM)への適用の可能性がある等々である。この本には、マインドマップの機能紹介から、個人、ビジネス、ファミリー向けの事例を含めて色々と紹介されているので、自分に合った活用方法が探せる。特に思考の可視化については、このオンラインジャーナルでも幾つか紹介している。前々回の「見える化」(遠藤功著、東洋経済新報社発行)や久恒啓一氏の図解術関連書(2003年1月号、2004年6月号掲載)であるが、PMでは、機能確認、進捗管理、品質管理等多くのフェーズでプロジェクトやプロダクトの可視化の必要性に迫られる。PMに可視化は不可欠である。そんな関係で、WBS がPMBOKやP2Mでのキーファクターとなっている。マインドマップが今後PMにも多く適用出来ればと思ってこの本を紹介したい。

 著者のトニー・ブザンについて紹介しなければならない点が幾つかある。先ず、このマインドマップの生みの親であると同時に、脳と学習の世界的権威者でもある。更に、政府機関や多くの多国籍企業の教育機構アドバイサーを務めている。また記憶力世界選手権や世界速読選手権を創設し、マインドスポーツオリンピアード(MSO)、知的オリンピックゲームを共同創設している。日本でも本物のマインドマップを伝えるためにブザン・ジャパンを設立し、マインドマップに代表される7つのブザンの脳力開発『ブザン式 全脳開発(左脳と右脳をバランスよく活用する)メソッド』を普及することを目的としているとホームページ(www.buzanjapan.com)に書いてある。もう一人のバリー・ブザンは、LSI(London School of Economics)の国際関係学の教授で、1970年以降マインドマップの開発に取り組んでいる。トニー・ブザンの兄でもある。

マインドマップとは?      ―― 脳の創造的思考術 ――
 マインドマップは、放射思考を表出化したもので、脳の自然な働きを表したものである。脳の潜在能力を解き放つ鍵となる強力な視覚的手法で、誰でも身に付けることができる。あらゆる用途に使用でき、学習能力を高め、考えを明らかにするのに役立ち、生産性向上が可能になると定義している。この定義を一口で言うと、放射思考を可視化した視覚的手法ということになるが、多少説明が必要である。特に右脳を活用して文字と数字を図式(丸や四角で囲ったものを線や矢印で図示)で表現するのだが、これだと久恒氏の図解術と何ら変わらない。マインドマップは放射思考(中心から外に広がる)がキーファクターで、作成中に脳が活性化され、ドンドン思考が広がり記憶が整理され構造化されるのが特徴であるという。その特徴を図示するためのルールがある。これを3A(Accept、Apply、Adapt)と呼んでいるが、要は題材と自分の実力に応じ、あまり形にこだわらないで(脳の自然な発想を妨げない)自由に描けということである。その描き方には、多少技術的なアドバイスと慣れが必要である。技術的なポイントは、(1)中心に題材【一般的にはタイトル、(例):書籍紹介の原稿作成】と作成日を枠で囲う。(2)構造化の大枝【書籍紹介の作業手順を思いついた言葉で書く(例):@本の購入】を伸ばす。この枝は作業手順【次の作業項目を書く(例):A本を読む】に従って何本も伸ばしていく。(3)構造化の小枝【作業項目が細分化されたものを書く(例):本はどこで購入するか、八重洲ブックセンター、近くの本屋、インターネット】を伸ばす。この場合、枝(線)でなく枠で囲うと見やすくなる。(4)その他として、強調すべき項目や枝は大きくしたり、図形化したり、色分けして書く工夫をすると美しいマインドマップが出来上がる。説明だけでなく実際に作成にチャレンジした。

 マインドマップ作成には、幾つかのソフトが販売されている。この本では、MindGenius(www.mindgenius.com、ゲール社、イギリス)を紹介しているが、日本語の使い勝手のいいMindManeger(www.nsgnet.co.jp/mm/、日本ユースウェア)を使って体験してみた。他に、MindMapper(www.mindmapperusa.com/features.htm)もある。こうした専用ソフトでなくても使い慣れたエクセルやワードやパワーポイントの描画機能で十分対応可能である。今回マインドマネジャーを使ったのは、20日間の無料試用が出来るのと、友人の経営コンサルタントのお勧めでもあった。プロフェッショナルの多くの人はこれを使っていると言っていた。それで作成したものが、別添の「書籍紹介の原稿作成(2006年3月20日)」である。
以下参照(下の絵をクリックすると大きい画像が見られます)。
マインドマップ
初めて作成した割には、まあまあの出来栄えかな。テンプレートがあるので、それに従って項目を順次入れていくのだが、それ程難しいものではない。先にも書いた画面中央に題材(書籍紹介の原稿作成)を入れる。後は頭にある作業手順に従って、本を読み、原稿を書き、提出するといった一連の流れを順次入力していけば出来上がる。これを作成していて気が付いたのだが、階層化をどこまでやるかを予め大まかに考えて置いて、更に詳細な項目まで細分化するかどうかは、全体の構造を考えながらバランスを考えて決める必要がある。この図を作成に要した時間は、僅か1時間(ソフトのダウンロードも入れ)であった。非常に簡単で使い易く便利なので、是非一度試されることをお勧めしたい。

マインドマップの活用(その1)      ―― ノート作成からプレゼンテーション術 ――
 マインドマップは、脳の創造性を高めるための視覚的手法である。そのルーツに記録や記憶を留めるメモやノート類がある。その大半が目的(試験や会議等)のためだけに作られて、新たな創造性や創作を全く生み出していなかったという経験を誰しもしている。即ち、ノート類の作成はつまらない退屈なものであった。所が、偉人や天才といわれた人のノート類の資料は、驚くほど自由で闊達である。この本の末尾付録にノートの記録類がクイズ形式で掲載されている。これらの共通点は、独自の図が描かれている。勿論、文字も書かれてあるが図解に大きな意味があることは確かだ。独創的なアイデアは、図示されてこそイメージを創造的に広げているようだ。そこで今までつまらなかったノート(議事録も含め)作成が、脳を活性化させるマインドマップで作成したらどうなるが考えて見よう。@「単なる書き写しや項目だけの列記は何の役にも立たない!」これを改めるには、全体的な構想を理解して項目の構造化や階層化をする。A「漫然とノート作りをしてはいけない!!」次は、目的を明確にして、それを列記していく。B「今、何が必要か考える!!!」メインテーマは何であるか理解し、目的に照らしてやるべきこと、メインテーマを把握する。Cメインテーマに付随する項目、その構造化と優先順位を決める。Dそれらの項目に対して、常に5W1Hを考えながらノートを作成する。以上のキー項目は、構造化と目的の理解と問題意識を持つことである。これらを先のマインドマネジャーに階層順、優先順位、項目別に入力していくとマインドマップが出来上がる。この項目の入力過程で、全体構造との階層、優先順位がバランスしているか、抜けはないか、間違っていないか等々の創造的思考を繰り返しながら作り上げる。マインドマップは、外部環境(講義、本、メディア、プロジュクト等)からとったノートを、内部環境で作ったノート(意思決定、分析、創造的思考)の資料やメモ類を合体させながらつくるといっている。

 マインドマップのプレゼンテーション術であるが、マインドマップは、先にも書いた通り可視化のツールである。従って、改めてプレゼンテーション術と言う必要もないのだが、人に見せる以上分かり易くて、美しいものでありたい。それは作る人だけでなく、見る人にとっても創造的思考を駆り立てるからだ。然らばどんなプレゼンテーションが創造性思考を高めるか考えてみよう。色・形・図等がバランス良く配置され全体として美しいもの。空間的広がりがあり、伸び伸びとしている。視覚、触覚、聴覚、味覚等に訴え反応するもの。斬新なアイデアがあって新鮮でユニークなもの。やはり結論的には、一目見て分かり易くて、美しいものであろうか。我々ビジネスマンは、芸術家ではない。だが、プロフェッショナルPMとしての専門的知識と技量と良識を持っている。芸術的にはアマチュアであるが、技術的専門分野においては先見性と斬新さから内容のあるプレゼンテーションが可能である。多少の訓練をして、見栄えのいいプレゼンテーションを心掛けたい。

マインドマップの活用(その2)   ―― マインドマップ作成による記憶術 ――
 マインドマップ定義に、創造的思考に加えて学習能力を高めるとある。この学習能力には、記憶術を高めるのに有効であるとも書いてある。創造力や学習能力を高めるのに、ある程度の記憶力というか記憶が必要である。この記憶は、覚える努力をいくらしても覚えたと思ってもある時間が過ぎると忘れてしまう。最近は、歳の関係で新しいものを覚えることは無理としても、昔覚えていたことまで忘れている。だが幼い時に自然に覚えたことは体が覚えているのか、結構覚えている。歳に関係なく記憶力がある程度向上すれば、もっと違った世界も見えてくる。昔、心理学でエビングハウスの忘却曲線というのを学んだことを思い出した。19世紀、ドイツのエビングハウス(Hermann Ebbinghaus、1850〜1909 )が、記憶と忘却の時間的関係を実験した結果をグラフに表したものが、忘却曲線である。この実験は、脳に記憶されたものは「反復」をしないと時間と共に忘れることを表している。驚くことに、記憶して20分で42%も忘れ、1時間で56%、1週間過ぎると70%も忘れるのだ。その後の忘却は、徐々に進むという。この実験は、意味のない3文字の記憶をどの程度保持できたかというものなので、普段の生活での記憶とは多少違うので単純に比較できないが、時間と共に忘れることと「反復」するので記憶が保持されることが分かった。そこでマインドマップでの記憶術であるが、脳の生理学的手法でアプローチする。具体的には、連想と記憶の関連付けで脳の放射状に広がる立体的イメージを形や色を利用して作り上げるという。マインドマップを作りながら脳を活性化して、出来上がった図から更に創造性を発揮して記憶をより鮮明にする。このプロセスを繰り返す過程で創造性を刺激して記憶力は一層向上される。先のマインドマップを作成した経験から、確かに構造化を考えて、形と線と色から今までの記憶を具体的にイメージアップされた感覚はある。

 先に紹介した松山氏の「マインドマップ読書術」出版記念会での話しである。マインドマップの経験もなく、今日はじめて出会った人がそれぞれのテーマでマインドマップを作成してお互いに発表者し合うワークショップをやった。全体で15分と時間を決め、それぞれが自分のテーマで図表化するのだが、予め松山氏が説明したことは@題目を真ん中に書く、Aそれに関係したキーワードを書き、枝を伸ばす、B枝や枝先のキーワードの枠は形と色を自由に書く、C上手く書くのではなく、思い付いたイメージを形にするといった簡単な説明であった。筆者も若者に混じって何とか、それらしいものを作ったが、いざ発表してみると納得した点、間違ったイメージであることに気が付いた点、質問されて気が付いた点等々、今までにない清々しい経験をした。この方式は、久恒氏の図解術でも同じであろうが、文章や考えていることの可視化、それに伴う理解の共通化、情報の共有による相互コミュニケーションの強化、更にマインドマップがいっている個人の創造的思考と記憶力の向上が図れれば、PMのツールとして有効な手段となる。この本にPMの事例が書かれているが、余り参考にならない。矢張りPM経験者が独自の手法でテンプレートを作成する必要があると痛感した。今度、機会があったらこれを使ってみよう。  (以上)