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「PMのリース業への挑戦(2)」

向後忠明:3月号

 前月号で今月から「何をどうしてきたか」の話しをすることになっていましたが、その前に、「プラント産業やIT関連のPM経験者が何故リース業で働くことになったか?」のについての話をします。

 その理由は、入社した会社の社長が昔勤めていたの会社の上司であり、私の経験でのPM手法や考え方を利用して、将来のリース業に必要な新たなビジネスモデルを作れることを期待していたようです。
 しかし、社長の発言からは具体的な要求内容も無く、ただ一言「PFIビジネスのようなものをやりたいんだよな−!!!!」でした。
 まさにIT関係のプロジェクトでの“曖昧な顧客要求またはRFP”を地で行くような期待ものでした。
 その一方、私自身の理由としてはリースには産業分野に関係なく各種の分野の仕事に関わる案件が発生すること、そして意外と最先端の仕事に接触することができると思ったからです。後は、「新分野への挑戦との思い」とこれまでの未経験分野における活動体験から感じるものがあったからです。

 その頃の金融に関する私の知識はプロジェクトファイナンス程度の金融知識であり、リースのようなノンバンクに関する知識は皆無でした。
 もちろん、レンタルやリースと言った通常よく聞く言葉の意味ぐらいは知っていました。確かに、この年になってからの新分野への挑戦には厳しいものがあります。
 これまでの短い経験からですが、リース業の業務内容から察すると資金が潤沢であればどのような企業でもリース業に参入しやすいものになっています。そのため案件受注のための激しい競争が各社間で行われています。
 一方、金融マンはすでに述べたようにリスクに対してはすごく敏感ですので、私のような技術屋が常識的に技術的に問題無いことを説いても納得することはしません。一例ですが工場建設に関する融資案件の際でも「建設中に火事になったらどうするのか?地震がきたらどうするのか?」などとくだらない質問ばかりがあり、「空から試行機が落ちてきたらどうするのか?」と言った意見もでるような雰囲気でした。
 また、前例の無い案件、分からない(理解できない)案件、一度不良案件となった関連案件などは全て審査で却下されることになります。
 営業が何とかいくつかの案件を発掘し、顧客との合意を得てリース案件として成約できると張り切って社内に持ってきて審査部の審査を受けます。しかし、上記に述べたような理由で(極端な言い方をすると彼らの独断と偏見で)審査部がその案件を却下します。
 そこで私はリース業全般に大いなる疑問を抱くことになりました。「何故、お客がこれでやってください」と言ったのに社内で却下され、営業の努力が無に帰してしまうのか?それも「理屈の通った理由なら納得もするのですが!!!!」
 このように社外的に競争、社内的に厳しい審査の環境の中で営業担当は苦しい思いをして活動しているのが現状です。

 このような現象は、多分、多くのリース業で起きていることと想像します。私のように各種の分野で実際のプロジェクトをやってきて、多くのリスクに遭遇し解決してきた人間から見ると、なんとも不可思議な世界に感じました。
 新聞や雑誌などでも日本の金融業は外国の金融業に比較するとダイナミックな活動や新たなビジネスモデルの開発には消極的でありかつ決断が遅いと言われています。
 その理由はリース業界でのリース案件の業務処理での保守性と案件判断のためのビジネスセンスや目利き能力の欠落に有ると感じました。
 このような事情の上にリース業界の現状にも大きな問題があり、その現状を見聞きし、分析した結果以下のような事がわかりました。
  1. リース業は与信をベースとした固定資産の流動化事業であり、顧客にとっては資産圧縮効果ができ、ROA(総資産利益率)改善に大きな効果がある。
  2. しかし、リース業の立ち位置は最終ユーザとサプライヤー及び請負企業の意向次第(競争の競争)
  3. そして、最終ユーザとの長期の契約期間(請負業者は建設期間だがリース業は法的耐用年数期間)の責任、その上、サプライヤーや請負企業の下流業務。
  4. 競争は金利勝負、そしてストックの積み上げがリース業の飯の種。おまけに金利は銀行よりの借り入れを前提としているので高い。
  5. よって、必然的に注文,数の積み上げ勝負(あまねく広く数多く)であり、規模のビジネスである。(これは銀行も同じ)
  6. リース各社付加価値をつけるための金融技術を駆使しての差別化を模索しているが新しいビジネスモデルはあくまでも金融手法の域から抜け出ていない。
  7. そして、多くの金融体力のある企業がリース業として雨後のたけのこのように設立されている。結果として、棒グラフによる短期的売上至上主義による長期(大型)検討案件の検討機会の喪失とそれによる案件の小型化または競争市場での戦い。(明日の飯より今日の飯)
  8. そして駄目押し的に国際会計基準に従ったリース会計の「例外」事項の廃止となり、賃貸借が売買扱いとなりROAや株主資本比率の低下につながってしまうことになる。

 このような現象が起きている中、各関係企業も何らかの対策を打たなければならないと思っているようです。
 このような問題整理が出た所で前月号で話をしたP2Mのガイドにも示されている変革のマネジメントによる仕組みつくりが始まることになります。