2月号のクイズ
多忙のため今月はお休みします。
価値をつくるPM(5)「価値創出の輪(3)
渡辺 貢成:2月号
前回は企業における価値創出は8つの軸(「価値創出のための俯瞰図」参照)によって構成される話をし、軸T.U.V.W.X.まで説明した。順番からするとY.Z.[.を説明することになるが、T.〜X.までは簡単な概要の説明にとどめたためどんな価値が生まれるのかという質問があったので、T.〜X.までの価値創出の詳細説明を先にする。
何故価値創出にこだわりかというと、モノつくりが中国中心に推移し、日本は従来と違った発想で新しい価値つくりをすることが求められているからである。「モノつくり」、「技術力」を標榜しても、新しい価値はなかなか生まれないからである。
最近「ブルーオーシャン戦略」という本が出版された。多くの企業はレッドオーシャン(競争激化の海)で戦っている。それは皆従来からの価値観の中での戦いである。ここには利益増大や、輝かしい未来も見えない。これをブルーオーシャンにするには価値観をかえる必要がる。その価値観つくりの方法を書いた本である。いずれオンライン書評で取り上げられるから詳細は省略する。ここでは新しい価値観が何処に潜んでいるかを示した俯瞰図を利用する。
下記に示す俯瞰図は8つの軸ごとに生み出される価値のレベルを示した図である。
図は日本語で「価値創出強化のための俯瞰図」
英語ではP2M VWM(Value Wheel Method)OW(小原・渡辺) Model
T.顧客関係性構築力
顧客関係性構築力の強さのレベルでその要素を展示した
@ 信頼性の絆の確立
A 顧客業務習熟度
B 顧客満足度向上
C 顧客との共同開発
D 顧客代行業務
これらは業種によって種々考えられるから、そのつど追加して行けばいい。
多くの技術者は品質のよい製品をつくれば売れると勘違いしている。ベンチャーの失敗の多くは顧客関係性構築の難しさを実感していないことに起因する。商品提供とは別に関係性構築を独自に進めるのがトップマネジメントの役割である。このことはドラッカーの書の最初に書かれている。「社長がまず実施することは顧客関係性の構築である」と。
日本では新しい顧客開拓に3年間かかる。この間は損をしてでもお付き合いする。次第に顧客の要求を熟知することになり、「顧客が安心して任せる」という関係がつくり上げられ関係性が構築される。
U.マーケット開発力
@ 上得意の顧客を優先して繋ぎとめる戦略
A 顧客層を選別して、その潜在ニーズを掘り当てる戦略
B 従来からの習慣で行われていた「メーカーサイド」の発想から生まれる商品に顧客は不満があったが、仕方なく買っていたものがある。新しい潜在ニーズはこの中にあることもわかってきた。例えばレコードである。聞きたい曲は1,2しかなくとも不要な曲まで含めて購入することになり迷惑であるが仕方がないと思っていた。しかしそのためCDの売り上げが伸びないという問題があった。これを1,2曲だけダウンロードできれば安価に曲を入手できる。一方作曲者は人気曲のダウンロードが増えると数が売れるので、結果として収益が増えるという現象が現れている。これはブリューオシャン戦略である
V.販売開発力
現在でも営業の原則は「足で稼げ」と、訪問や販売の電話が多く、われわれはかなり迷惑している。最近はインターネット販売やオークションが盛んになってきた。楽天は情報を流すだけで、多くの収益を得ている。売り方に価値が出てきた事例である。
W.商品提供力
企業は通常商品かサービスの提供によって顧客との関係性を構築している。関係性の構築は顧客が商品やサービスを認め、これを購入することで始まる。競争力のレベルで整理すると
@ 機能の提供で優位性を発揮する
A QCD(品質、コスト、納期)で優位性を発揮する
B アーキテクチャ(設計思想)
C デザイン力
D ブランド力
E オンリーワン製品の提供
商品提供の第一歩は商品やサービスのもつ機能を売ることであるが、顧客の求める価値が次第に上昇する傾向がある。その傾向は機能から品質、価格、納期(QCD)へとシフトする。ところが、機能、QCDだけでは他社との競争が激化し(レッドオーシャン)、利益確保が困難となるため、新製品開発を進めるが、他方設計思想(アーキテクチャ)、デザイン、ブランドを強化するとブルーオーシャンへと進むことができる。
日本はモノつくり大国である。商品開発力において未だに世界一である。残念ながら日本では大量生産商品の需要がへり、大量製品の製造が中国にシフト(含む日本企業が中国で生産している)してしまった。今後どのような形で日本の顧客、或いは海外の顧客との関係性を構築するかが現時点の最大の関心事である。
そこで現代は「モノつくり」という発想から、お客が喜ぶ「新しい価値」を提供することが大切になる。方向は特殊機能、高級品志向、組み合わせイノベーション商品の提供へとシフトすることになる。モノつくりというと形のある製品を想像するが、大型のパッケージソフトや、金融商品もモノつくりの範疇に入れると必要がある。日本人はきめ細かい対応によって世界に認められている。これが日本文化である。日本企業で成功したパッケージソフトは少し工夫をすれば世界に役立つに相違ない。ただ、IT業界や金融業界にその発想がないだけである。発想がないということは価値創出という発想を持っていないからである。顧客が認める価値であればどのような商品でもかまわない。
X.サービス提供力
サービス提供力も商品提供と同じで、顧客が買うのはその機能であり、QCDであり、ブランド化に向かって競争力が増すことは同じである。ただ、二つの点でサービスは商品とことなる。その一として商品はモノの提供によってビジネスが成立し、サービスは人間の行為によってビジネスが成立すること。その二として商品は何時までも存在するがサービスは提供すると即座に消滅してしまい、蓄積できない点である。モノの納入は継続して存在するから需要は一時とまるが、逆にサービスは消滅し、在庫がきかないから、ビジネスとしては継続的に存在するという利点がある。
これまでの説明は「企業が創り出す価値」についてであったが、8つの軸の個別で価値を創るという発想もあるが、何種類かの軸の組み合わせで、新しい価値をつくることができる。
これを新しいビジネスモデルと呼んでいる。「モノつくり」、「技術力」も結構であるが、価値創出という大きな目標に向かって新しいビジネスモデルを創り上げて行きたいものだ。
次回は企業が「提供する価値」をつくり出すために要求される「価値を創出する能力」について話を進める。
以上
1月号のクイズ
クイズ「自在氏の経験則」
PMP資格試験やPMS資格試験は知識ベースの試験です。通常4択問題といいます。設問に対し解答が4つあります。その中から正しくないものを選びます
設問1.「責任転嫁」で下記の回答から最も正しくないものを選びなさい
a.プロジェクトマネジャーはいかなる理由があろうともプロジェクト内の責任を部下に転嫁してはならない
b.上司は条件を付けて権限を与えたことに対してはその範囲で部下に責任を転嫁させてよい
c. プロジェクトマネジャーは自分か責任を負えない事柄に対し、上司に責任を転嫁することが出来る
d. プロジェクトマネジャーはプロジェクトに関する部下の責任も逃れることは出来ないので権限は委譲すべきでない
回答:最も正しくないのはb.
これは引っ掛け問題である。b.かd.か迷う。
b.はプロマネと部下との関係で言えば部下に転嫁できる。部下は与えられた権限に対し責任を持って実 行して貰わなければならない。この関係においては正しい。
しかし、プロジェクトの外に対しては部下の責任を逃れることはできない。
d.は「権限の委譲」は「プロマネの権限」であって委譲すべきでないと考えるプロマネがいても非難するこ とはできない。プロマネが委譲できる人間にしか委譲できないからである。
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