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プロジェクト・コミュニケーション・文化(第八回)


 2005年の9月27日から30日まで、ミュンヘンのミュンヘン工科大学で「第三回ソフトウェア世界品質会議」が開かれた。ISQI(http://www.isqi.org/isqi/eng/conf/wcsq/3/)が主催。下記の組織が協賛。
EOQ  :  http://www.isqi.org//eoq-sg/eng/
ASQ  :  http://www.asq.org/perl/index.pl?g=softwareforum
日科技連  :  http://www.juse.or.jp/
 私は、「第三回ソフトウェア世界品質会議」でパネルディスカッションをした。テーマは、「People-Centered Project Management – Japanese View」。司会は、飯塚悦功東大教授、パネラーは、全て日本人。登場順に、大場充広島市大教授、産業側から、香村求、野木秀子、板倉稔の4名。
パネルの会場は、150人位入れる大きな階段教室。しかし、聴衆は、20名程度でちょっと寂しい状況だった。全体の参加者は700名程度とのことだったので、20名は少ない。残念だが、これは、今の日本のソフトウェア産業のプレゼンスを表していると思った。1980〜1990年にかけて、このテーマであれば、満席になったと思う。そのくらい、日本のソフトウェア産業のプレゼンスが落ちたと言うことだろう。
 パネルでの私の主張は、本稿での主張と同じ。「日本は、世界のトップになれる素材を持っているので、世界は、学んでほしい」と言うこと。もう少し詳しく言うと、「日本のソフトウェア産業は、強かった。その理由は、自ら考えることと概念や方法論などを輸入することがバランスしていた。しかし、情報爆発以来、日本は、自ら考えることを放棄してしまった。日本人にとっては、これを取り戻すこと。海外にとっては、日本の強さを見て、マネージメントでカバーすること」だ。
 ソフトウェア道具でなく、大工道具を引き合いにだそう。ドイツの鋸は押す時に切れる。つまり、刃が向こう向きについている。日本の鋸は引く時に切れる。刃が引く方向についている。鋸と言う道具を、ドイツから輸入して、日本の大工工事に使えるだろうか。相当訓練しないと、使いこなせないだろう。しかも、新たに技術開発をしなければ、寺院や神殿を作ることはできないだろう。ソフトウェアでも、同じあやまりをしていないだろうか。
 また、世界品質会議での話と同じ話を、オランダのデルフト工科大学でも話した。その時、ドイツもチーム作りに強いと言う意見がだされた。そう言われると、日本もドイツも自動車作りに強い。国民的強みの原点があるのかもしれない。

 「第三回ソフトウェア世界品質会議」では、日本のIさんが「ベストスピーカー賞」を受賞した。各セッションの参加者の評価が最も良かったからだ。平均、1.5で最高点をとった。
 私も彼女の発表を聞いたが、発表は堂々としていて、ジェスチャー付きでゆっくりと話していたので、実に立派であった。また、内容も、大きなフレームとそれを如何に実践したかの両面をとらえていたので、欧米の間口方向に考えることと、日本式の奥行き方向に考えることの両方が入っていた様に思う。
 他にいくつか海外の発表を聞いたが、CMM, COCOMOなど、米国産のキーワードが入っている発表が多くあった。勿論、上手くいかないので改良した類の発表もあったが、米国産のキーワードが、世界中どこでもでて来ることは良いことなのだろうか。疑問が残った。米国の方向と大きくずれた解がでにくい構造だ。
第三回ソフトウェア世界品質会議での発表評価点の付け方は、1が良く、5が悪い。日本では、大抵、1が悪く、5が良い。(欧米式でも、フィギュアスケートでも、CMMでも、多い方が良いので、もう少し考える必要があるので)考え切ってはいないが、次の仮説がたてられる。日本では、良いレベルよりさらに良いレベルか追加できるのに対し、欧州では、最高レベルを固定して考えるのではないだろうか。日本で、品質をエンドレスに追求していくのもこの思考から来ているかもしれない。また、日本式は、段々と良い方に近づいて行く感覚がある。一方、欧州方式は、レベル1を固定して、以下悪いレベルを層別している感覚がある。どうだろうか。

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板倉稔
「スーパーSE 板倉稔のホームページ」 http://homepage3.nifty.com/super_se_itakura/