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  「グローバルPMへの窓」第2回
海外講演で思うこと
GPMF会長  田中 弘

 今シンガポールでこの原稿を書いている。
 昨日28日、当地シンガポールPM協会(Society of Project Managers)の2005年大会で、昨年に続いて、75分の基調講演を行った。"More Value for the Construction and Project Management Dollar"という演題で、時間もちょうどよく、また筆者自身が力を入れているテーマであるので力も入った。200名の会員の方々にも熱意が伝わったようで、好評のうちに終えることができた。
 このテーマは、グローバルエンジニアリング業所属の筆者が20年来、当初は社業として、現在は、加えてこの業界のPMスポークスマンとして取り組んでいるテーマで、プロジェクトのパフォーマンスを上げるための個別プロジェクトの競争力モデル、これを支える企業や業界の取り組みのあり方、産学連携などを説いたものであるが、世界でも珍しく政府省庁・公団や建設・社会インフラ関係者が多いシンガポールPM協会の会員諸氏の共感を得たのは幸いであった。今日は国務大臣を主賓としての年次晩餐会が予定されている。PM協会の年次大会に大臣や政府高官が出席するのであるから、PMに国としての力が入っている。
 筆者は、昨年6回、今年は5回(年末までに6回)の海外PM大会やセミナーで基調講演または招待講演を行う機会を得た。これは世界のPMリーダーでも5本の指に入る頻度であり、海外講演を行うことはいまや生活の一部になっている。
 海外大会での発表をターゲットしているPMAJ会員の方もおられるので、すこし、「受注」の背景をお話ししたい。
 筆者が日本のPM協会の会長であり、またグローバルPMフォーラムの会長であるという立場を割り引いても、なぜこのようにオーダーが入るかであるが、次のように考える。

1) 日本人スピーカーとしてのアドバンテージを生かしている
 筆者が英語国民であったら、これほどまでにお声はかからない。日本人は発信をあまりしないので、今でも希少価値なのである。海外の多くの友人達が、筆者のプレゼンテーションを評して、日本の話でもないし、かといって米欧流でもない、その中間であるという。つまり、日本のPMの強さをグローバルコンテキストのなかで語るから興味深いという。教訓:PM日本を語るには世界を知ろう。

2) 一発目で勝負
 リピートオーダーをとるには、「このスピーカーは外さない」という定評をとることである。世界の大会主催者は常にスピーカー情報を交換しているから、一度主催者の満足を得る講演を行えば、評判は世界を巡る。一度機会を得たら完璧に仕上げる努力をする。テーマの売りを考えて戦略的なプレゼンテーション構成を行い、メッセージ・英語を研ぎ澄ますことに時間を惜しまない。練習は徹底的に行う(原稿の丸読みでは2度とお声はかからない)。通勤・移動の途中はダミー・プレゼンの絶好の機会である。最後に論文・スライドファイルなどの納期はきちんと守ること(これは必ず出来ることであるが、これがばかにならない)。
 ちなみに、招待講演は別としても、PM国際大会のCall for Papers(発表論文公募)で、審査が通りやすいのは、ロシアPM大会、IPMA世界大会、PMIアジア大会、PMIヨーロッパ大会、PMI北米大会、オーストラリアAIPM年次大会、の順である。

3)テーマは複数持つこと
 筆者はここ2−3年で、上記のほかに、「イノベーションとPM」、「PM世代論」、「国際協力プロジェクトのPM」、「日本のPM整備の系譜と今後の展開」、「マルチプロジェクトマネジメント」、「世界PM界の台風:アジアのPM」などのレパートリーを用意し、これらのコンテンツを組み合わせると、ほぼどんな演題オーダーや大会テーマが来ても、スライドだけの講演であれば、数日で講演を構成できるようにしている。
 海外講演を志す方は、時間のあるときに、自分の実践分野や研究分野についてプレゼンテーションパッケージを作っておき、具体的なターゲットが決まったら、直ぐに磨きにかかれるようにしたらよい。

4) 面白い発表を
 PM大会は学会の発表ではない。中身の学術的な価値は評価されない。ほとんどの発表はレベル的に普通のところであると考えてよく、勝負はいかに面白くするかである。日本人の発表で、英語はかなり乱れているが、具体性がある、あるいは人を食っている、ということで受けが良かったという例がかなりある。日本人は真面目なので、盛り沢山になりがちであり、語りきれずに失敗することがあるが、訴求点を2−3に絞って勝負をかけてはいかがか。当然であるが、PMBOK® などの受け売りでは全く勝負にならない。

5) ジョークをかます余裕を
 米欧のプレゼンはジョークで始まる。普段からジョークを考えて初めにかませよう。それで受ければ大いにノルことができる。

 要は、プレゼンテーションでは、成功したときの拍手喝さいをイメージすることから始まり後退で内容構成をすることである(筆者の若き同僚のプロジェクトマネジャーが04年のPMシンポで語った、プロジェクトが完成し、顧客と熱い握手をしている場面から遡って計画を詰める、の転用でした)。

以上