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『第316回月例講演会』報告
木村 勝 : 8月号
【データ】
| 開催日: |
2026年6月26日(金) |
| テーマ: |
「足から健康をデザインする」~靴を売る店から健康を促進する店へ~ |
| 講師: |
天笠 亜衣子 ( あまがさ あいこ )氏
株式会社アルカ 販売一部 部長 |
◆ はじめに
私は日ごろ「健康」というと、食事や運動、睡眠、あるいはメンタルヘルスといった切り口で考えることが多い一方で、「足」を出発点に健康を設計するという発想には、あまり馴染みがありませんでした。
しかし、よく考えてみますと、私たちは一日の大半を「立つ」「歩く」「座る」の繰り返しの中で過ごしています。その土台を支えているのが足であり、靴です。にもかかわらず、多くの人は靴を「サイズが合えばよい」「デザインで選ぶ」という基準で購入している。ここに、健康寿命という現代の大きなテーマを解くヒントが眠っているのではないか―そう感じました。
そこで、今回の月例講演会では、株式会社アルカ 販売一部 部長の天笠亜衣子氏を講師にお招きし、「足から健康をデザインする」~靴を売る店から健康を促進する店へ~と題し、体験談や事例などを交えながらご説明いただきました。
以下、要点を抜粋して紹介します。
◆ 講演内容
1. 講演概要
単に靴を販売するのではなく、足を起点として顧客の未来の健康をデザインするという同社の独自のアプローチについてご紹介いただきました。
日本ではまだ普及していなかった「カウンセリング販売」を早くから導入し、オートペディー・シューマイスターを常駐させた先駆けの店舗として、整形外科的インソール販売や、身体に障がいのある方、腰痛・膝痛・外反母趾など日常的な痛みを抱える方、事故後の後遺症を持つ方まで幅広く対応してきた実績を紹介いただきました。
そのプロサッカーの田中碧選手、山本悠樹選手、佐藤瑶大選手などトップアスリートのフィッティングを担う一方で、加齢に伴う関節変形に悩む一般の高齢者まで、同じ思想でサポートしているというのが印象的でした。
2. Yバランステストによる可視化
下肢の動的バランスを評価する「Yバランステスト」を紹介いただきました。
テスト内容は、ゴルジ腱器官のフィードバックを通じて、アキレス腱の伸長(下腿三頭筋の柔軟性)、足部背屈制限、足部アーチ形状、腸腰筋の伸展、後脛骨筋と長短腓骨筋の活動バランスを客観的に把握するものでした。
運動生理学博士オリバー・ルードヴィヒ氏のもとで講義と認定試験を受けた判定者が測定を担い、片脚立位で前方A、後方内側B、後方外側Cの距離と脚長から総合スコアを算出し、スコアが94%を下回ると下肢の傷害リスクが高まるとされ、感覚的に語られがちな「バランス感覚」を数値で可視化できる点が、参加者からも高い関心を集めていました。
3. 足と健康の関係 ― 立って歩くの基本は「骨格・可動域・筋力」
同社の哲学は「私たちが販売するのは、お客様の未来の健康」という言葉に集約されています。
老後も健康に働き続けたいというニーズが高まる中、立って歩く動作の基本は骨格・関節可動域・筋力の三要素で決まるとのことでした。
座位時間の長い現代人は、腸腰筋の短縮による股関節伸展の低下、殿筋群の筋力低下による骨盤後傾、腹筋・脊柱起立筋の低下による上肢姿勢の悪化が連鎖的に発生すると説明がありました。また、姿勢を支えるのは足元であり、踵骨の傾き、縦アーチ(土踏まず)の状態が全身のアライメントに影響を与え、「毎日運動していても土踏まずは落ちる、筋肉は必ずしも働かない」という指摘は、健康観の見直しを迫るものと感じました。
4. 老化とは何か ― 病気ではなく「予防」の対象
「膝が痛い」と病院に行けば「老化だね」と言われる一方で、腰痛患者の訴えの大半は原因不明である。しかし老化は病気ではなく、老化の本質を次の二点に整理いただきました。
- 筋肉の量と力の低下(随意筋は約400、うち歩行には約200を使用)
- 関節可動域の制限(足関節・膝・股関節・骨盤回旋・肩関節)
年齢に関係なく、使わなければ筋肉と筋力は減り、使えば増えます。加齢そのものではなく「使用頻度の低下」が本質だという指摘が印象的でした。
筋力低下は関節の歪みを招き、動きに痛みを伴い、さらに動きたくなくなり、骨格の歪みが進行するという悪循環に陥るという点には共感しました。
また、骨密度の観点でも、筋肉が骨に負荷をかけて「破骨」が生じなければ骨芽細胞は新しい骨を作らず、「老化に効く薬はない、すべては予防にかかっている」ということをご説明いただきました。
予防手段としては「筋トレ&ストレッチ」が基本と付け加えられました。
5. 固有受容器と靴の役割の再定義
健康への新しいアプローチとしての「固有受容器アインラーゲン(インソール)」、足裏の固有受容器からの復号信号が脳に伝わり、脳からの指令で筋肉が緊張・弛緩・動作・姿勢を作り、あるべき体の状態へと近づける、というループを設計する考えをご説明いただきました。
このインソールは、次の4つのポイントに作用するとのことです。
(1)長短腓骨筋腱に作用し筋の緊張を促す(踝の安定)
(2)後脛骨筋腱に作用し筋の緊張を促す(縦アーチの維持)
(3)足底筋腱に作用し緊張と弛緩を操作(足部内外旋)
(4)足底筋膜を伸長させアキレス腱を間接的に伸ばし、下腿三頭筋の過緊張を防ぐ
従来の「補正」という考え方から、未来型の「体質改善」へ。9カ月間のフットプリント比較では、荷重分布が明確に改善されており、インソールが単なる補助具ではなく能動的なトレーニング機器として機能することを示しされました。歩行アシストとして最も重要なのは靴底の硬さであり、足部関節の捻じれ防止、踵骨内外反防止、つま先形状による推進力増加が「靴のテクノロジー」の本質であるという説明も、これまでの靴選びの常識を覆すものだと感じました。
6. まとめ ― 「靴を売る店」から「健康を作る場所」へ
店舗の役割を「健康のための処方」と再定義し、インソール、足に合ったフォルムと機能を持つ靴、そして生活の中で実践できるセルフエクササイズの提案をいただきました。この三つを組み合わせ、顧客一人ひとりに個別最適化されたサポートを提供していると締めくくられました。
◆ 講演を聴き終えて
今回の講演をプロジェクトマネジメントの視点で見ると、「顧客の課題を要件として翻訳し、測定・診断・処方・実装・改善のサイクルを設計する」という一連のプロセスは、我々の仕事にも通じるものがあると感じました。
健康寿命の延伸というテーマを「個人の努力」ではなく「仕組みとしての予防」に落とし込む視点を得られました。
講師の天笠亜衣子氏のお話から、たくさんの貴重なヒントをいただけました。
月例講演会を通じて、貴重なお話しをしていただけたことに、心より感謝を申し上げます。
当日参加された皆さま、何かヒントになることはありましたか。
月例講演会では、今後も皆さまにとって有益な情報を提供してまいります。
引き続きご期待ください。
尚、我々と共に部会運営メンバーとなるKP(キーパーソン)を募集していますので、日本プロジェクトマネジメント協会までご連絡下さい。
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