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イン・ザ・メガチャーチ
(朝井 リョウ著、(株)日経BP、日本経済新聞出版、2026年2月16日発行、17刷、444ページ、2,200円+税)
デニマルさん : 8月号
今回紹介する本は、2026年4月に本屋大賞を受賞した作品です。今年で23回目となる本屋大賞ですが、この“話題の本”では14冊目のご紹介となります。本作品は諸々の話題性が高く、大賞受賞時点で50万部を超えるベストセラーとなり、現時点でも小説部門で上位にランクされている。(2026年上半期、総合ランキング3位、日販調べ)。その人気のポイントを探ってみましょう。先ず、著者の朝井氏の人気でしょうか。後でプロフィールをご紹介しますが、最近出された『正欲』(2021年、新潮社)や『生殖記』(2024年、小学館)が注目されていますが、特に『正欲』が映画化(2023年11月、監督:岸善幸、主演:稲垣吾郎)されヒットしたのも話題の一つです。そして2026年の本屋大賞受賞となるのですが、タイトルの『イン・ザ・メガチャーチ』から内容がイメージ出来ないのも魅力かも知れません。内容概略は後述しますが、本書のオビ文に「神のいないこの国で人を操るには、“物語”を使うのが一番いいんですよ」「最新作業原点のような作品です」と著者は書いています。
そしてタイトルの「メガチャーチ」から本書を紐解いてみましょう。メガチャーチとは、アメリカなどに実在する巨大教会を指しますが、本書では宗教関係ではなく「色々な目的で人を集め、感情を一方向に揃え時間とお金と忠誠を差し出させる巨大な場」を必要とする活動として使っている。日本では宗教上のメガチャーチは存在しないが、現在では人気アイドルのイベントや、プロミュージシャン等の演奏会場がそれに当たる。地域ホール(数千人規模)、日本武道館(1.5万人)や東京ドーム(5.5万人)がその類でしょうか。現代の日本における“神なき宗教”としてのファンダム(ファンが形成する共同体や文化圏)が、メガチャーチの役割を果たしている。人気アイドル等のファンは熱狂的で宗教的でもあり、主催団体もそれを意識したイベント企画や運営を継続的に実施している共通点を、著者は敢えてメガチャーチと称した。次に、前半の「イン・ザ」ですが、ラップの世界の「イン・ザ・ハウス」のフレーズで「俺はここにいる」と伝えている。本書では“ファンダム”の輝きを明確にして居場所を誇る意味で敢えて『イン・ザ・メガチャーチ』としたと著者は語っている。
さて、著者をご紹介しましょう。本名は朝井リョウ、1989(平成元)年岐阜県不破郡垂井町出身。早稲田大学文化構想学部卒業。小説家。2009年、大学在学中に『桐島、部活やめるってよ』で第22回小説すばる新人賞を受賞し作家デビュー。2011年『チア男子!』で第3回天童文学賞。2013年『何者』で第148回直木賞。2014年『世界地図の下書き』で第29回坪田譲治文学賞。2021年『正欲』で第34回柴田錬三郎賞。2023年『正欲』が映画化。2024年『生殖記』で「キノベ2025」で第1位獲得。2026年『イン・ザ・メガチャーチ』で第23回本屋大賞を受賞。他の著書に『どうしても生きてる』『スター』等。他に『時をかけるゆとり』『風と共にゆとりぬ』『そして誰もゆとらなくなった』のエッセイシリーズがある。
イン・ザ・メガチャーチ(その1) 「推し活」文化を探る
本書は日本経済新聞夕刊に連載(2023年4月~2024年6月)された作品である。著者は1年以上の長期期間を書き上げるには、テーマの設定と構成内容の骨子を明確に決定したという。当時、『推し、燃ゆ』(宇佐美りん著、河出書房新社)が芥川賞を受賞し、“推し活”がブーム化していた。そこで「推し活」をテーマにした構成で、そのストーリィの人間関係を描こうと構想を固めたという。それと長期の連載だから全体のボリュームは600枚以上の原稿を書く覚悟も決めて作品を書き出した。ここで改めて「推し活」を調べると『推し活とは、何かの一線を越えて好きになる。単なる応援や消費行動に留まらず、“推し”の存在を通じて自分自身の価値や行動の変化を含んだ考えで、現代の自己表現の一つと考えられている』と資料にあった。具体的には、当時でJ-POPの人気アイドルグループのAKB48、乃木坂46、欅坂46やK-POPのBTSやアメリカのマイケル・ジャクソンやマドンナ等々でしょうか。その類は、昔から歌舞伎や相撲や人気歌手やプロスポーツ選手であり、最近のメジャーリーグ大谷翔平選手もその範疇でしょうか。この「推し活」活動では、ライブやイベントへの参加、グッズ購入、SNSでの情報発信など、「人とお金と情報」イコール「経済活動」が中心となる。そして推し活を通じて生まれた共感や体験の共有が、ファンダムとしての結束力を強め、長期的な応援や文化の継続に繋がっている。そこで「推し活」物語を書き上げた。
イン・ザ・メガチャーチ(その2) 「ファンダム経済」を探る
この物語の「推し活」を構成する主要3人の概略をご紹介しましょう。先ず主人公(久保田慶彦、47歳で離婚歴あり)は、「推し活」となるアイドルをプロヂュースするレコード会社勤務。現在の仕事に意欲を感じていないが、アイドル(タレントグループのBloome)の売り出しプロジェクトに投入される。二人目は主人公の娘(武藤澄香、19歳大学生)で留学を考えている。バイト先の友人から新人アイドル(垣花道哉)の話を聞く。誕生日や性格も同じタイプで、ファンとなり自分の全てをつぎ込んでいく。三人目が契約社員(隅川順子、36歳)で、新進俳優・藤見倫太郎を推すファンダム(「リンファミ」グループ)のメンバーとなる。会社の仲間と共に少ない給与を遣り繰りして「推し活」を続ける。その活動中に倫太郎が自殺したとのニュースを知る。推しの死を受け入れないファンは自殺陰謀説を信じて暴走してしまう。この3人が夫々どんな状況になって、どこへ行き着くのかが問題である。そこでの人間模様とお金の流れ(ファンダム経済の一部)が明かされるのだが、詳しくは読んでのお楽しみである。因みに「ファンダム経済」とは、貨幣経済なのであるが、むしろ『評判経済』(レピュテーションエコノミー)ではないか。ビジネスの変化を考える重要な起点となる。本書が発売と同時にビジネスパーソンに人気があり順調に売れて、そのままランキングトップになっている。本書から「ファンダム文化」を感じられるかも知れません。
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