グローバルフォーラム
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「グローバルPMへの窓」(第196回)
プロジェクトマネジメントにおけるAI・・・雑感

グローバルPMアナリスト  田中 弘 [プロフィール] :6月号

 AI全盛の時代になり、プロジェクトマネジメントでも、AIがかなりのことをこなしてくれるという考えが強くなっているようだ。

 筆者が恩恵をうけているのは、研修を行ううえでのリサーチの時間の大幅な短縮と最新情報の質・量の拡大である。石油・天然ガス産業向けの研修をしているが、業界の知識については、業界を離れて20年くらい経っており、持っている情報量が細ってきている、最新の情報にキャッチアップできていない、という問題があったが、生成AIで上手な質問をすると95%以上正確かつアップデートされた回答が即時に得られる。しかも、自分でもAIに業界知識について学習をさせようと問答をしながらエージェント側の認識を更新しているので、AIとの対話はまさに、プロを相手にしているようだ。これは役にたつだけではなく、時間つぶしにもなり面白い。

 ちなみにWBS作成とプロジェクトサマリースケジュールの作成はプロジェクトマネジメントの基本中の基本であるが、先日、ある業種の生産プラント・プロジェクトのレベルIIIのWBSとレベルIIのサマリースケジュール及び概算コストを生成するようにAIに依頼をしたら、大変正確な結果が瞬時に得られた。ただし、AIの回答が正確か正確でないかは、質問者にそれ相応のPM知識と業界知識が必要なことは確かだ。ツールは汎用の生成AIツールである。

 筆者はPMIの北米世界大会に1980年代中盤にデビューし、90年代と2000年代前半は毎年通っていたが、本格プロジェクトの例として建設プロジェクトでプロジェクトマネジャーの判断をAI化するリサーチはカーネギーメロン大学やニューヨーク市立大学(シティカレッジ)で1990年頃から行われていた。しかし、使い物になる成果はいまだに出ていないと理解している。当時大会で研究者にきいたところ、AIの推論エンジンはあるのだが、超多忙な有能プロジェクトマネジャーの判断ロジックを解明するには有意数のプロマネを最低半年は拘束する必要があり、これは不可能であるとのことであった。

 しかし、プロジェクトマネジメント・ツールのAI化や、無からプロジェクト概要を構築するプロセスについてはかなり進歩している。最近リリースされた記事では、日本の総合エンジニアリング企業(EPC企業)と英国のAIテクノロジー企業が業務提携し、EPC企業がもつ膨大なデータとノウハウを英国企業の提供するツールで、要素知識化(モジュール化)し、案件ごとに要素知識を選択し、その組み合わせ(コンフィギュレーション)を総合評価する、取り組みを行うとのこと。

 これは、かつてのナレッジマネジメントのエッセンスをAIの時代に応用するように筆者には感じられた。部長時代、前任者がプロジェクトチームを組んでOracleのSQLデータベースを利用した、素晴らしいナレッジマネジメントシステムを作ったのであるが、筆者がシステムのお守をする段になると、肝心のポスト・プロジェクトのナレッジを所定のフォームで出してくれるプロジェクトマネジャーがほとんどいなくて、なかなかうまくいかなかった記憶がある。AIの時代になってデータマイニングと層別はうまくできるのであろうか。

 5月22日に、今年も、ウクライナプロジェクトマネジメント協会(学会)とキイウ国立建設・建築大学主催のPM Kyiv2026大会が開催された。ロシアの執拗な爆撃が続くなかを搔い潜ってのオンライン開催で、ウクライナ、トルコ、アゼルバイジャン、ラトビア、カザフスタンから60名ほど参加した(戦時中であり、正常時の300名はとても無理)。

 筆者はこの大学の名誉教授第1号でもあり、常に基調講演を行っているが、今年は短めの15分で、”P2M Once Again in the Uncharted World - Looking for Phronetic Project Leadership”と題して講話をした。「海図無きこの世界で、再びP2Mを、そして、真善美を作る、実践知(Phronesis) に基づくプロジェクト創成を」と訴えた。P2Mに格別の評価をいただくウクライナでこそ通用する内容であり、Phronetic Leadershipは、昨年逝去されたJPMF時代の初代名誉会長である故野中郁次郎先生への追悼の辞でもある。

 ゲストスピーチを行ったラトビアPM協会長は、奇しくも筆者がフランスの大学院博士課程で最初に指導教授(First Supervisor)を務めた縁があり、博論の内容はP2Mのフレームワークに基づくものであった。十数年経ってのこのめぐり合わせは実にうれしかった。

 ウクライナやロシアは、プロジェクト関係者にはP2Mがそのまま通用する世界である。

Agentic AI in Project Management

 さて、同じくゲストのトルコ代表セティン・エルマ教授は、由緒あるPM学者であるが、今はAIのPMへの活用を研究領域としている。教授からは、Agentic AI in Project Management (写真)という新たな教えを得た。

 プロジェクトマネジメントにおけるエージェンティックAI(Agentic AI:自律型AI)とは、単に情報を「追跡」したり「生成」したりするツールから、最小限の人間の監視下で自ら行動し、適応し、複数ステップのワークフローを実行できる「自律性(Agency)」を持ったシステムへの大きな転換を意味する。下図は、伝統的なPMツール、生成AI、自立型AIの比較表である。

機能・特徴 従来のPMツール 生成AI(コパイロット) エージェンティックAI
システム
 本質 受動的: データの静的な保存と表示。 応答的: 即座の指示(プロンプト)に基づくコンテンツ作成。 主体的(プロアクティブ): 自律的な目標追求と、複数ステップのアクション。
 アクション 手動入力、クリック、手動での追跡を待つ。 要求に応じてレポート、メール、スケジュールの下書きを作成する。 計画を実行し、外部ツールやAPIを呼び出し、リソースを自律的に再配分する。
 振る舞い 厳格なルールベース。 パターンベースのテキストやコードの生成。 文脈(コンテキスト)を理解し、自己修正し、変化する環境に適応する。

例示的には次のようなことができる。

  1. 1. 動的なスケジューリングとガントチャートの自律更新
  2. 2. 予測的なリスク検知と対策(ミティゲーション)
  3. 3. スキルベースのタスク割り当てと負荷の平準化
  4. 4. 複数階層のステークホルダー向けコミュニケーションの自動化
  5. 5. バーチャル・スクラムマスターと会議管理(アジャイルPMにおいて)

 こうしてみると、自立型AIはあくまで実施段階のPM・AIツールのようだ。自立型AIツールはプロジェクトマネジャーを置換するのではなく、これまでのAIツールの延長で、事務的な「定型業務」(データの追跡、手動のスケジュール調整、ルーティン管理)を最小化するのに効果がある。大会後検索したら自立型AIを組み込んだ市販PMツールは5つくらいあった(もっとあるかもしれない)。

 世界との交流はいつも有益である ♡♡♡

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