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相手目線に立つ力

井上 多恵子 [プロフィール] :3月号

 人間関係をより良くするコミュニケーションの秘訣は、相手目線に立つこと。何かを伝えるときは、相手の理解度や関心度合いなどを考慮すると効果的だということをコミュニケーションの研修で、いつも私は伝えている。有言実行ということで、私自身、相手目線に立ったコミュニケーションを心掛けている。例えば、研修中は、私の話すスピードや音量などについて、早い時点で受講生からフィードバックをもらうようにしている。
 「相手目線に立つ」というアンテナを立てているからこそ、相手目線に立っていないサービスや仕組みに接すると、いらだちを覚えてしまう。例えば、最近導入された東京都アプリ。たまたまアプリが導入されたことをニュースで知った夫が教えてくれたので、活用してみることにした。アプリに関する新聞記事は概要の説明だけで、やり方は書かれていなかった。そこで、既にポイント交換を済ませた夫に聞いて、東京都アプリをインストールしてみることにした。しかし、最初から難航した。
 まず、グルグル回るサインがずっとスマホの画面上に表示されただけで、インストールが進まなかった。時間をおいて何度もトライしたものの、結果は同じ。そうこうするうちに、「アクセスが集中しています」というメッセージを画面上に発見した。しかし、いつ、再度アクセスすればいいのかの目安は示されていなかった。結局、その日は何度アクセスを繰り返してもインストールできず、不安を感じながら翌日トライして、ようやくアクセスできた。アクセスが集中して繋がらないことは、他のアプリでもよくある。そういった経験を踏まえて、アプリを開発した人は、なぜ事前に手を打てなかったのだろうか。少なくとも、グルグル回るサインを見せるだけでなく、「アクセスが集中しています」と言うメッセージをわかりやすい形で、すぐ表示できなかったのだろうか。
 ポイントを付与されるためにパスワードの設定を求められるのも、解せなかった。「また、パスワードが必要なの???」複数のアプリやログインで、違うパスワードを設定することが求められる。銀行口座など、本当の意味でパスワードが必要なサービスがあることは理解できる。でも、東京都アプリにも、本当に必要なのか?東京都は、アプリをどんどん活用してもらいたいのだろうが、私は、今回1万1千円分のポイントさえもらえたらいいのだ。結局他に方法がないので、パスワードを設定し登録したが、それで終わりではなかった。1万1千円分のポイントの付与にも時間がかかった。ポイントが付与されたから、すぐ使えるのかと思ったら、東京都の施設または別のポイントに交換する必要があった。提示されていた施設には興味が無かったので、ポイントに交換しようと思ったが、すぐにはできなかった。私が普段使っているPayPayが交換対象になっていなかったからだ。結局、カードで持っていたVポイントのアプリを新たにダウンロードしたのだが、カードと紐づける作業に苦労した。カードで登録していた電話番号が携帯の番号と異なっていたからだ。ハードルをわざと高くすることで、申請をする人の数を減らしたいのではないかと勘繰ってしまうぐらい、私にとっては、今回のハードルは高かった。さらに、私の母のように、スマホを持たない高齢者は、誰かに頼まないと申請すらできない。住民への還元なら、もっとシンプルな代替手段が提供されても良かったと思う。
 詐欺電話対策の「デジポリス」アプリも、本来守りたいユーザーの目線に立っていないと思わざるを得ない。詐欺電話が怖いので、私も「デジポリス」をインストールしてみることにした。QRコードを読み取ってインストールするところまではスムーズに進んだが、その後、設定画面で次々と質問されて、Yes/Noを選ばないといけないところで、つまずいた。例えば、「デフォルトの通話転送アプリとして設定しますか?」と聞かれても、意味がわからない。「必要な権限がありません」というメッセージが出たが、それに対して何か対処しないといけないのかどうかもわからない。わからないまま設定するのは恐いので、警察に電話してみたが、要領を得ない回答が続いた。ユーザーがこのアプリをインストールしようとする際に遭遇する画面の遷移を理解していないことが明らかだった。高齢者を詐欺電話から守りたいのなら、高齢者が一人でも楽に設定できるアプリや仕組みが必要だ。
 「勉強して慣れればいい」という人もいるが、それはデジタルに強い人の論理だと思う。できない人の立場に立って考えてほしい。高齢者や障害のある人の体験を実際にシミュレーションし、どれほどの負担があるのかを理解してほしい。そういう意味で、企業の間で、多様な人々がウエブにアクセスしやすくする動きがあるのは歓迎だ。税金で成り立っている公的機関も、相手目線に立つ力を磨いて欲しいと切に願っている。

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