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「アジャイルのプロジェクト憲章」

小原 由紀夫 [プロフィール] : 2月号

アジャイルは、短期でリリースして得たフィードバックにより新たな要件を発見から俊敏(アジャイル)に価値を高めていく。アジャイルでは最初に定義した要件が変化していくことを前提としているため、プロジェクトの軸となる価値を定義したプロジェクト憲章が重要になる。アジャイルにおけるプロジェクト憲章であるインセプションデッキについて述べる。

1.プロジェクト憲章
PMBOK第6版 に記載されているプロジェクト憲章を確認する。
「プロジェクト憲章は、プロジェクトの存在を許可する文書であり、プロジェクトのイニシエーターまたはスポンサーが発行する。」
「プロジェクト憲章は、プロジェクトが満たすことを意図しているプロジェクト、およびプロダクト、サービスまたは所産についてのハイレベルの情報を文書化する」
「プロジェクト憲章は、ハイレベルな記述で、主要成果物、マイルストーン、およびプロジェクトに関わる全員の役割と責任へのステークホルダーの共通理解を確実にする。」
ウォータフォールでは、プロジェクト憲章に設定されたハイレベルの情報を段階的に詳細化していき、変更も少ないのでプロジェクト憲章との一貫性が維持されている。
アジャイルでは要件が変化することを前提とし、アジャイルは時間とコストが制約されるため価値に基づき優先順位をつける。この時、プロジェクトの存在を許可する文書であり、ステークホルダーの共通理解を確実にするプロジェクト憲章によりプロジェクトの軸となる価値を確認する。従って、アジャイルではプロジェクト憲章が重要になる。

2.インセプションデッキ
アジャイルでは、初めにインセプションデッキを作成する。インセプション(inception) は初めを表す英単語であるが、大学院以上の水準の英単語なので特別感がある。インセプションは混沌として五里霧中のようなプロジェクトにおいて灯台のように価値を照らしてくれる。プロジェクトの最初にインセプションデッキはメンバー全員とできるだけ多くのステークホルダーが参加して、10の質問に答えながら核心まで煮詰めて共通理解を抽出する。インセプションデッキは、この共通理解をステークホルダーに伝えるツールでもある。インセプションデッキの10の質問を2つの視点に分けて、PMBOK第6版に提示されているプロジェクト憲章の情報と対応させて説明する。
「アジャイルサムライ」Jonathan Rasmusson著参照)
1) 全体像をとらえる5つの質問
  1. ① 我々はなぜここにいるのか?:チームの目的と存在理由および顧客を再確認する。
    ←プロジェクトの目的@PMBOK
  2. ② エレベーターピッチを作る:30秒内に2センテンスでアピールする。
    ←プロジェクト承認要求事項、ハイレベルのプロジェクト記述@PMBOK
  3. ③ パッケージデザインを作る:自分達のプロダクトやサービスの魅力をアピールする。
    ←ハイレベルの要求事項@PMBOK
  4. ④ やらないことリストを作る:やらないことをはっきりさせて一覧にする。
    ←ハイレベルの境界@PMBOK
  5. ⑤ 「ご近所さん」を探せ:「プロジェクト関係者」をはっきりさせて招待する。
    ←主要ステークホルダー・リスト、任命されたプロジェクト・マネジャー、その責任と権限レベル、プロジェクト憲章を認可するスポンサーあるいは他の人物の名前と地位@PMBOK
2) 具現化させる5つの質問
  1. ⑥ 解決策を描く:概要レベルのアーキテクチャー設計図を描こう
    ←主要成果物@PMBOK
  2. ⑦ 夜も眠れなくなる問題は何だろう?:心配事を話し合い、知恵を絞ろう
    ←プロジェクトの全体リスク@PMBOK
  3. ⑧ 期間を見極める:プロジェクトの必要期間を設定しよう
    ←要約マイルストーン・スケジュール@PMBOK
  4. ⑨ 何を諦めるかはっきりさせる:譲ることもやむ得ない要素はどれだろう
    ←測定可能なプロジェクト目標と関連する成功基準、終了基準@PMBOK
  5. ⑩ 何がどのくらい必要なのか?:期間とコスト、体制を決めよう
    ←事前承認された財源@PMBOK
インセプションデッキはPMBOKで示されるプロジェクト憲章の情報を網羅している。

3. インセプションデッキの活用
 プロジェクトにおいてプロジェクト憲章が成功のために必須であるように、アジャイルを適用するプロジェクトにおいてインセプションデッキが必須である。実際、アジャイルが上手くいっていないプロジェクトの多くは灯台であるインセプションデッキが存在しないため、新たな発見に振り回されて五里霧中を迷走している。「混沌としているので、時間が掛かるのではないか?完成しないのではないか?」と心配する必要はない。まず、限定した時間で実施して、「わからない」、「統一できない」などの現状を共通理解し、次回の開催を設定してチームの成長と伴に更新していく。
インセプションデッキは名前の通り最初に作成すべきなのである。

PMAJ組織アジリティSIGでは、組織として変化への俊敏性である「組織アジリティ」とDX推進に必須な風土・組織への重要な取り組みを研究しています。ご興味のある方は、お声掛けください。

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