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先の見えない時代を乗り切るためのP2M入門

PMAJ 理事長 加藤 亨 [プロフィール] :2月号

 PMAJの発行するP2M(プログラム&プロジェクトマネジメント)標準ガイドブックは、先の見えない時代のマネジメント手法として有効だと言われています。それはなぜなのでしょうか。その理由は、P2Mの生い立ちにあります。
 日本における「先の見えない状況」は、1990年に端を発した、いわゆる「失われた30年」と呼ばれる長期にわたる経済停滞の時代と重なります。1990年代初頭の不動産バブル崩壊以降、日本経済は長期にわたって低成長が続き、この期間は当初「失われた10年」「失われた20年」と呼ばれていましたが、停滞がさらに長期化した結果、現在では「失われた30年」と総称されています。
 なぜ日本経済は、これほど長期にわたって停滞したのでしょうか。不良債権処理の遅れや少子高齢化など、さまざまな要因が指摘されています。しかし、それらの要因だけで30年以上にわたる停滞を十分に説明できるのでしょうか。私は、そこにより大きな構造変化があったのではないかと考えています。
 一つの見方として、「アメリカが仕掛けたゲームチェンジに、日本が十分に対応できなかった」という仮説が考えられます。1980年代、「モノづくり品質」での競争において優位に立っていた日本に対し、アメリカは競争の軸そのものを転換しようとしました。その象徴が、クリントン政権下でゴア副大統領が中心的役割を担った、NII(National Information Infrastructure:全米情報基盤)構想です。
 この構想は、全米のコンピュータを光ネットワークで結ぶ構想として知られていますが、その本質は、製品を売るビジネスから、デジタル技術を基盤としたサービス提供型ビジネスへの転換にあったと考えられます。東西冷戦終結後に民間へと開放されたネットワーク技術を基盤に、デジタルサービス市場の主導権を握るという戦略です。
 この競争軸の転換については、『モノ造りでもインターネットでも勝てない日本が、再び世界を驚かせる方法 ― センサーネット構想 ―』(三品和広 著)においても、「日本が追いついたと思った瞬間に、アメリカが巧みに競争の焦点をシフトさせるため、日本企業は誰もいない競技場で技術力を誇示することになる」と指摘されています。
 その結果、インターネットを基盤としたプラットフォーム企業が急成長し、Google、Amazon、Facebook などに代表される巨大企業群が誕生しました。GAFAMと呼ばれるこれらの企業の時価総額は、日本の主要上場企業全体を上回る規模に達したと報じられています。(2020年5月8日付けの日本経済新聞電子版)
 しかし、失われた30年の真っただ中であった2001年の段階で、すでにこの変化を認識し、「今後、日本企業は『ものづくり』中心の発想から転換し、『仕組みづくり』による再生に注力すべきである」と警鐘を鳴らしていた組織がありました。それが、当時のエンジニアリング振興協会(現在のエンジニアリング協会)のPM導入開発委員会であり、その考え方を体系化したものがP2M標準ガイドブックです。
 P2Mでは、「ミッションプロファイリング」を中核に据え、価値創出を目的としたプログラムマネジメント体系を提示するとともに、使命達成型の職業人を育成するための資格制度を整備しました。
 しかし、その後の日本の国際競争力は、1990年の世界1位から、2025年には35位へと長期的に低下を続けています。残念ながら、P2Mが鳴らした警鐘は、当時十分に受け止められたとは言えない状況です。
 いま改めて、2001年にP2Mが示した問題意識を振り返り、先の見えない時代を生き抜くためのマネジメントの考え方を学び直すことには、大きな意味があるのではないでしょうか。こうした問題意識のもと、エンジニアリング協会と共同して、「先の見えない時代を乗り切るためのP2M入門」という講座を企画しました。(← こちらを参照)
 本講座では、変化の激しい時代において、組織や事業がどのように価値を創出し続けるべきか、そのための思考の枠組みとしてのP2Mを、歴史的背景とともに分かりやすく解説します。
 ぜひ、ご参加ください。

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