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「第310回月例講演会」報告
例会部会長 枝窪 肇 : 2月号
【データ】
| 開催日時: |
2025年12月19日(金) 19:00~20:30 |
| テーマ: |
マグロ超音波AI検査装置の実用化 |
| 講 師: |
酒井 彬 氏/
富士通株式会社 人工知能研究所 シニアリサーチマネージャー
東海大学 海洋研究所 特任准教授 |
日頃、プロジェクトマネジメントの実践、研究、検証などに携わっておられる皆様、いかがお過ごしでしょうか。今回は、12月に開催された第310回月例講演会についてレポートいたします。
~はじめに~
今回ご講演をいただく酒井様は、企業の研究所内での研究にとどまらず、外部と協業して、研究成果を実用化・商品化にまで進めていらっしゃいます。
今回の月例講演会では、酒井様のこれまでの経験から得られた知見と、マグロ超音波AI検査装置を中心としたプロジェクトの推移と成果についてご講演いただきました。
~講演概要~
・ 企業研究とは
企業研究は19世紀後半から20世紀前半にかけて、北米にて誕生し、電気・化学・情報にいたるまで、分野によらず幅広くイノベーションの中核を担ってきた。
日本では、日立の中央研究所が先駆けとなり、多くの企業で研究所が設立された。日本の企業研究所からはノーベル賞受賞者を4名(青色発光ダイオード、リチウムイオン電池、タンパク質質量分析、ダイオード)輩出している。富士通研究所でも、プラズマディスプレイをはじめ、多くの技術を開発した。
その後、1993年の「中央研究所の時代の終焉」や、2011年の「リーンスタートアップ」といった書籍の出版を契機に、企業研究所の潮流は逆風が吹く時代となっている。
・ 胎児心臓超音波スクリーニング支援AI
先天性心疾患という胎児の心臓の病気がある。100人に一人程度の割合で発症する病気である。胎児が妊婦のお腹の中にいる間に発見され綿密な治療計画を立案するなどの対処をすれば高確率で治癒する病気である。胎児にこうした心臓異常があることを自動的に発見するシステムを開発し、実用化に成功した。
このプロジェクトが成功した背景には、研究者だけが取り組むのではなく、産婦人科超音波領域における、日本で5本の指に入るほどの名医と協業することができたことがある。研究のプロとビジネスのプロが手を組むことによりイノベーションが生まれたということである。
研究とビジネスの両方を共に極めたという人はまれである。だからこそ、研究を極めた人とビジネスを極めた人とが手を結ぶことが重要で、それが実現できたときに事が成せるのだと考える。
研究が成功することとビジネスとして成功することは異なる。研究成果はシーズになる。しかし、ビジネスの成功のためには広報・マーケティングが重要であり、そのシーズが人々のニーズに見合う必要がある。場合によってはエジソンのように、トースター普及のために一日三食が必要とするような、既存の常識を覆すマーケティングを行うことが重要である。
・ マグロ超音波検査装置開発
肉、野菜、果物では。品質は定義された規格に従った評価がされ価格などに反映されている。これは産業社会の基本だと言える。
一方で、魚介類ではこうした規格による品質評価が実現していない。マグロの場合、劣化が早く解体して検査することができないことや、X線を用いた非破壊検査を行おうとしても骨しか映らずタンパク質の評価ができないといったことが理由である。また、日本では専門の仲買人の経験と勘といった属人的な評価が行われていることにも起因する。
マグロは日本国内で広く食されている魚であり世界的にも漁獲量が高い。マグロの品質評価(目利き)を高精度で行うことにより、マグロの末端価格を推定で約5兆円から約10兆円に向上させることができるという試算もある。
マグロの目利きの主流は専門家による尾切り選別であるが、破壊的であり、また、専門知識が必要な属人的手法である。
こうした背景を踏まえ、「国内で多く流通する冷凍マグロを、非破壊的、かつ非属人的に評価したい」という大目標を掲げてプロジェクトを遂行した。
技術開発においては、気泡を含む氷に超音波診断を適用したときの減衰係数の課題の解決、機械学習活用、波形診断の精度向上のためのプローブの使用方法などを研究し、精度向上を図った。これにより、世界初の非破壊検査方式の、脂乗りの判定において尾切り選別を上回る精度を実現する仕組みを開発することができた。
・ 事業創出
富士通株式会社の事業提案に対して株式会社イシダテックが協業を申し出てくださり、株式会社イシダテックがカーブアウトして作ったソノファイ株式会社にて事業を推進する事となった。ソノファイ株式会社は、デジタル技術で匠の技を継承するパートナーを目指す、静岡県発のものづくり/エンジニアリング分野のスタートアップ企業であり、富士通株式会社の超音波解析AI技術と株式会社イシダテックの装置(商用試作機)を継承している。
ソノファイ株式会社が製作した実用機を用いることで、従来の方法と比較して検査時間を80%短縮することに成功した。具体的には、マグロ1本あたりの検査時間が従来は60秒だったものが12秒に、検査実施に必要な人数が従来は5名程度だったのが1名に減らすことができた。
今後のビジネス展望として、対応魚種および新機能の順次追加と国内外への展開について下表のように進めていく予定である。
~筆者所感~
企業の研究所における研究と、企業外部との協業による研究成果の事業化について理解するとともに、実際に研究成果を実用化した事例をご説明いただき、その過程における課題や、事業化を成功させた秘訣などを知ることができました。
講師の酒井様におかれましては、月例講演会という機会を通じて貴重なお話をわかりやすくお聞かせいただけたことに、心より感謝を申し上げます。
ご講演の資料は協会ホームページの「ジャーナルPMAJライブラリ」の月例会開催資料にアップロードしていますので、個人会員の方はダウンロードして閲覧いただければと思います。
なお、我われと共に部会運営メンバーとなるKP(キーパーソン)を絶賛募集しています。ご興味をお持ちの方は、日本プロジェクトマネジメント協会までご連絡下さい。
以上
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