P2Mを活用した価値創造の広がり(3)
―「やり抜く」の先へ。価値を現実にする「構造」―
PMAJ P2M普及・推進部会 藤澤 正則 : 2月号
P2Mと聞いてもご存じない方や、限られた業務に関わる人向けの考え方だと思っている方も多いと思います。実はP2Mには、企業活動における日々の業務にも適用できる「仕事の組み立て方・進め方」の考え方が含まれています。企業活動は、日々の業務(定常的な仕事)だけでなく、新しい取り組み(非定常の仕事)にも支えられています。新しい取り組みを進める場合、「なぜやるのか」「何のためにやるのか」を明確にしながら、関係者と協力し成果を出すための実践的な方法であり、その手法の一つとしてP2Mがあります。
(※定常=普段の仕事、非定常=新しい取り組み)
2025年9月に発行された「P2Mを仕事に活かしている方々の声」には、32名の方から、31のP2Mの活用事例を掲載頂きました。執筆された皆様には、この冊子の作成にご協力いただけたこと御礼申し上げます。
2025年12月より、実践されている方々の内容から、「P2Mを活用した価値創造の広がり」として、①活動領域②適用したP2Mの分野③執筆者(または実践者)の視点、価値の視点、構造の視点、人の視点について、事例分析を行い、連載を進めています。今回は、構造の視点から事例を分析していきます。
1.はじめに「課題解決型プロジェクト」から「価値創造型」へ
今、問われているのは「終わらせる力」だけでなく、「価値が出る状態をつくる力」です。計画どおりに完了し、品質やコストの面でも問題のないプロジェクトであっても、期待した価値が生まれないケースは少なくありません。
その背景には、個々のプロジェクトではなく、プログラム全体の構造に問題があると考えられます。これは「失敗」ではなく、価値が出る前提(関係者の合意・役割・意思決定)が未設計なだけです。P2Mはこの“見えない構造”を整え、価値が出る状態をつくります。
本稿でいうプログラムの構造とは、価値を実現する「あるべき姿(To Be)」を達成するために、課題を整理し、それを実行する個々のプロジェクトと実行シナリオを配置したプログラム全体の設計図を指します。なお、構造という考え方を、実務者が具体的に考えやすい形に落とした表現として「しくみ」という言葉を用いています。
2. 構造を捉える3つの視点
P2Mでは、価値を生み出すために「全体のロードマップ・仕事のつながり・組織と人」という3つの層で構造を捉え、結果として有効なしくみを設計します。
2-1. 全体の流れ(ロードマップ等の未来への道筋)
「今の姿(AS-IS)」と「理想の姿(TO-BE)」を描き、そのギャップをどう埋めるかの道筋を設計します。
- ① 未来像(TO-BE)を描く。
- ② 現状(AS-IS)を構造として捉え、しくみとして整理する。
- ③ ギャップを埋めるロードマップを設計する。
2-2. 仕事のつながり(プロジェクト間の関係)
バラバラのプロジェクトが互いにどう影響し合っているかを整理し、全体の成果を最大化するための優先順位を決めます。
- ① 各プロジェクトの目的階層
- ② 相互依存と優先順位
- ③ 価値を最大化するための統合管理
2-3. 人と組織の役割(だれがどう動くか)
現場と経営層、あるいは他部門との「橋渡し」の役割を明確にし、スムーズに意思決定ができる関係性を整えます。
- ① ミドル層の橋渡し構造
- ② 関係性の再設計(縦×横)
- ③ ステークホルダー配置と共通言語
3. 事例から学ぶ「しくみづくり」の実践
ここでは、個別事例の詳細ではなく、“なぜうまくいったのか”という共通点に注目します。31の事例を分析すると、成功しているケースには共通する「しくみづくりのパターン」があることがわかりました。
- ① 目的から逆算する
「何のためにやるのか(ミッション)」から逆算して、必要なプロジェクトを組み立てています。
- ② 全体を最適化する
個別のプロジェクトが成功するだけでなく、全体として一本の道筋になるよう調整しています。
- ③ 関係性をつなぐ
経営・現場・IT担当者の間で、対話や合意形成ができる「場」を設計しています。
- ④ 学びを活かす
一度作って終わりではなく、振り返りを通じてしくみを常に改善し続けています。
4. しくみを「見える化」する道具
しくみは頭の中で考えているだけでは伝わりません。特にお客様(ユーザー)とITベンダーが協力する場面では、共通の図(道具)を使って「見える化」することが不可欠です。
- ① ロードマップ: 「いつ、何が達成されるか」を時間軸で示す図。
- ② ミッションプロファイリング: 「なぜやるのか」を整理し、価値を定義するツール。
- ③ ステークホルダー構造図: 「だれが関わり、どうつながるか」を示す関係図。
5. 「しくみ」が変われば「成果」が変わる
システムは稼働し、スケジュールも守った。それなのに、現場の業務は変わらず価値が出ない――。
そんな時、関係者の役割分担や意思決定の流れ(しくみ)を整えることで、成果が表れはじめることがあります。
- ① DXの成功事例: 現場と経営のやり取りを「窓口一本化」し、現場の裁量を広げるという「しくみの変更」によって、DXが加速しました。
- ② 新規事業の成功事例: 「今」と「未来」の図(AS-IS/TO-BE)を共有したことで、全員の進むべき方向が揃いました。
- ③ 成果(価値)は、適切なしくみが整うほど現れやすくなります。
6. ミドル層(リーダー)の役割:価値・しくみ・人をつなぐ
この「しくみ」を描き、人を動かす役割を最も担っているのが、現場のプロジェクトマネジャー(PM)やリーダーといった「ミドル層」の皆さんです。
ミドル層は、経営層の想い(価値:What)を現場の具体的な動き(しくみ:How)へ翻訳し、実際の人(人:Who)を動かしていく重要なポジションです。単に「予定通りにプロジェクトを終わらせる人」から、「価値を創り出すしくみを整える実践者」へと役割を広げていくことが期待されています。
7. 課題に合わせてアプローチを選ぶ
仕事の性質によって、最適な進め方は変わります。
前提が安定し成果物が明確な領域では、従来の手法で十分な成果が得られます。一方で、変化が大きく利害関係者が多い課題では、プログラム全体の構造を吟味するP2Mが効果を発揮します。
- ① 定常・安定領域の手法
ゴールが明確で前提条件が安定している業務・プロジェクトに向いています。
- ② プログラムマネジメント(P2M)
変化が激しく、多くの関係者が関わり、解決策が一つではない複雑な課題に向いています。
8. まとめ:しくみは「価値を盛る器」
「構造(しくみ)」は、価値を実現するための設計図であり、いわば「価値を盛るための器」です。
- ① しくみは、価値を現実にするための「設計図」。
- ② 価値は、適切な「しくみ」を通して実現される。
- ③ しくみとは、プロジェクト、人間関係、学習の場をまとめてデザインすること。
「やり切ったのに価値が出ない」と感じたら、振り返りの場で、プログラム全体の構造(設計図)を見直すことが重要です。構造が整えば、関係者の動きと意思決定が変わり、成果(価値)は現実のものになっていきます。まずは、自部門の取組みを「AS-IS/TO-BE/プロジェクト群/関係者」の4点で棚卸ししてみてください。構造のズレが見えると、改善の打ち手が一気に具体化します。
次号(3月号)では、このしくみを動かす原動力となる「人の視点」について詳しく考えていきます。
【ひと言募集】 実務者からの声を募集します
本稿で紹介した内容は、あくまで一例です。本稿を読んで感じたことや、現場での違和感、「ここが腑に落ちた」といった感想を、200字程度でお寄せください。正解はありません。皆様の実践知をぜひ共有してください。頂いた声は、P2M普及・推進部会の活動に反映させていきたいと考えております。
【メンバー】
P2Mについて「もっと知ってみたい」「自分の仕事にも活かしてみたい」と感じていただけた方は、ぜひP2M普及・推進部会の活動にもご関心をお寄せください。
現場に根ざした実践知を共有し合う場として、皆様のご参加をお待ちしております。
【備考】
本稿で取り上げた内容は、統計的な検証や理論実証を目的としたものではなく、現場で実践してきた個々人の経験に基づく知見を整理したものです。
(出典:PMAJ「P2Mを仕事に活かしている方々の声」2025年9月改訂版)
以上
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