P2Mを活用した価値創造の広がり(1)
―「P2Mを仕事に活かしている方々の声」から見える実践の構造―
PMAJ P2M普及・推進部会 藤澤 正則 : 12月号
1.はじめに
P2Mは、変化の構造化と価値の共有を通じて、定常と非定常をつなぐ実践型マネジメントです。2025年9月に更新された「P2Mを仕事に活かしている方々の声」は、32名の方から、31のP2Mの活用事例を掲載頂きました。この冊子の作成のために、執筆者の皆様には、ご協力いただけたこと御礼申し上げます。
本稿は、P2Mの実践者は「なぜ、現場で実践できたのか?」ということを整理整頓し事例研究としてまとめたものです。
2.P2Mの活用の事例
個々人の関わっている業種業態立場役割は様々であり、解決したい課題も様々である。おそらく、P2Mの知識を学んだから、それを活用して、何かを行うではなく、取り組むべき課題を解決することや実現したい物事のための考え方とP2Mの考え方が合致した結果であると考えられる。
経営ビジョン・中期経営計画の実現(ビジョン→ロードマップ→施策設計)
事業ポートフォリオ再設計・事業領域拡大(戦略型プログラムの構築)
統合報告/サステナビリティ経営のストーリー設計と実装
コーポレート/バックオフィスの価値創造(内部監査・横断最適の推進)
組織構造改革・大規模スキル転換(リスキリング/人員受け入れ)
人材育成スキーム刷新(オンライン/ベストミックス化、育成プログラム設計)
新規事業創出(探索→PoC→事業化の並行推進)
データ利活用・アナリティクス事業の立ち上げ(需要予測・在庫最適化 等)
製品/プロダクト開発の上流強化(顧客要求→仕様化、プロダクトはプログラム)
大規模・複雑システム開発の変革(車載/横断統合・UX起点)
DX推進の全体最適化(経営目線×現場目線をつなぐ、PoC駆動)
研究開発/アカデミア発イノベーションの実用化(希少疾患等、ミッション起点)
医薬品開発のスループット向上(PPI導入・プログラム運営)
金融・ITにおける複雑リスク評価/管理
国際協力・大型科学プロジェクト・エネルギー転換対応
地域・社会課題の解決(例:太陽光パネルリサイクル推進)
高等教育/大学でのPM教育導入・社会人基礎力育成
ステークホルダーマネジメント・信頼関係構築の実践
個人のキャリア開発・ライフプログラム(自己変革・転機対応)
3.P2Mの活用の構造
各事例を俯瞰すると、「変化を構造的に扱う力」、「価値を共有して協働する文化を醸成すること」、「定常業務の延長ではなく全体を見て、人・組織・しくみをつなぐ」といったことが見受けられ、プログラムマネジメントが成功の鍵となっていると考えられる。
- ① AS-IS → TO-BE の明確化と、それをつなぐロードマップの計画と実施
(未来志向の全体構想)
- ② プログラムミッションと価値定義の明確化
(「なぜやるか」「誰のために」「何を生み出すか」)
- ③ プロジェクト群を束ねてマネジメントする構造化思考
(単発活動の寄せ集めではなく、目的整合)
- ④ ミドルアップ&ダウンの実践
(現場と経営の橋渡し役として中間層が主導。関係性の構築と運用)
- ⑤ 組織運営・連携の特徴
(縦と横の連携。強いつながりと緩やかなつながり)
- ⑥ ステークホルダー間の共通目標・共通言語の設定
(経営層・業務部門・IT部門などの認識ギャップを埋める)
- ⑦ サイロ化・縦割りの是正
(複数部門をまたぐ課題をプログラムで統合管理)
- ⑧ 対話・共有・内省のプロセス重視
(報告や数値管理ではなく、相互理解・合意形成)
- ⑨ マネジメント・実践面での特徴として、価値創造を目的としたマネジメント
(効率化ではなく全体最適・価値最大化を志向)
- ⑩ 目的化した業務からの脱却
(手段が目的化する慣行業務を再定義)
- ⑪ リスクを俯瞰する全体統制力
(システム・人・環境変化を含めた複合的リスクの見える化)
- ⑫ 成果の測定ではなく「価値の実感」を評価軸とする
(関係者が納得できる進化の形を重視)
- ⑬ 人材・文化面での共通点として、共通言語・共通認識の形成
(研修・人材育成を通じて価値基準を共有)
- ⑭ スキルチェンジ・人の再配置への適用
(大規模な組織再編・人材転換にP2Mの枠組みを応用)
- ⑮ 個人の意識変革を含む文化的変化の促進
(仕組みだけでなく人の行動変容まで視野に入れる)
4.P2Mを活用している人の特徴
各事例を俯瞰すると、「守ることと変えることを理解する」、「変化を恐れず変化を楽しむ」、「価値を共に創り出す文化を育てる」といったP2M実践者像が浮かび上がってきます。
- ① AS-IS→TO-BEを起点に「道筋(ロードマップ)」まで自分で描く
(未来→現在の逆算”思考と現在→未来の両軸の思考)
- ② 単発のプロジェクトではなく「プロジェクト群」を束ねて計画し実施する
(プログラム志向)
- ③ 経営と現場の間で動ける“ミドルアップ&ダウン”の中間層の主導
(橋渡し役と推進役)
- ④ ステークホルダーの目標・役割・責任を揃え、継続対話で合意を作る
(協働設計力)
- ⑤ 目的化した慣行から離れ、「プログラム・ミッション」と“生み出す価値”に結び直す
(再定義力)
- ⑥ 部門横断の複雑課題を一つ上の視点で統合し、全体最適に寄せる
(構造化するスキル)
- ⑦ ミッションプロファイリングで戦略
(シナリオを素早く言語化し、合意形成に落とす実務力)
- ⑧ 事業環境が変化する中で“タイムリーにわかりやすく価値あるミッション”を提示と実行
(行動力と推進力)
- ⑨ リスクを多視点(業務×IT×組織)で捉え、実効的対策へつなぐ
(俯瞰力)
- ⑩ 学び続ける姿勢:資格取得やコミュニティ(PMAJ)で他流試合し実践知を更新
(相互研鑽とバージョンアップ)
5.最後に
P2M普及・推進部会では、「P2Mを仕事に活かしている方々の声」の資料を以下の事項で、俯瞰してみました。
- ① 活動領域
- ② 適用したP2Mの分野
- ③ 執筆者(または実践者)
来月以降、さらに詳しくP2M実践活用の広がりを探っていく予定です。
2026年1月:価値の視点
2026年2月:構造の視点
2026年3月:人の視点
(予定変更はご容赦ください)」
P2Mについて「もっと知ってみたい」「自分の仕事にも活かしてみたい」と感じていただけた方は、ぜひP2M普及・推進部会の活動にもご関心をお寄せください。
現場に根ざした実践知を共有し合う場として、皆様のご参加をお待ちしております。
備考
本稿で取り上げた内容は、統計的な検証や理論実証を目的としたものではなく、現場で実践してきた個々人の経験に基づく知見を整理したものです。
(出典:PMAJ「P2Mを仕事に活かしている方々の声」2025年9月改訂版)
以上
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