PMプロの知恵コーナー
先号   次号

「エンタテイメント論」(211)

川勝 良昭 Yoshiaki Kawakatsu [プロフィール] :12月号

エンタテイメント論


第 3 部 エンタテイメント論の応用

1 序
●「エンタテイメント論」の応用に依る優れた価値創造と関与する「数多くの業界」
 前号で以下の事を解説した。極めて重要であるので敢えて繰り返す。
その 1 本論は、多くの人々が取り組む経営活動、業務活動、プロジェクト活動等の「経営分野」の諸活動に応用される事に依って世の中に役立つ「優れた価値(機能性、新規性、永続性、低コスト性等)」を創造(創=発想、造=行動)する事が可能となる。
その 2 本論は、「経営分野」だけでなく、「政治分野」、「行政分野」、「大学分野」、「社会福祉分野」などの諸活動に応用される事に依っても世の中に役立つ「優れた価値」を創造する事が可能となる。

 本稿の読者は、政治家、官僚、学者などより企業人(社長、役員、社員)が圧倒的に多いと思う。そのため先ず「経営分野」の諸活動に重点を置いた解説をしたい。次に此の解説の過程で折に触れて「政治、行政、大学などの分野」の諸活動に当て嵌めた解説をしたい。

 さて過去の号で本論は、エンタメ専門業界、プロ・スポーツ業界、飲食業界、物販業界などの所謂「エンタテイメント分野」を中心に議論され、展開された。しかし本論は、それ以外の分野である機械、電機、造船、製鐵などの「ハードウエア業界」や通信、コンピューター、システムなどの「ソフト・ウエア―業界」などの所謂「非エンタテイメント分野」でも議論され、展開された。思い返せば、本論を随分と「数多くの業界」で扱ったものだ。其の結果、「或る発見」に繋がった(下記)。

 此の「数多くの業界」の夫々を構成する「各種事業」は、夫々全く異なる独自の目的、目標、機能、文化などを持つ。しかし「エンタテイメント」と云う切り口で各種事業を展望且つ観察した結果、「或る発見」をした。

 此の発見とは①当該事業は夫々異なる特質を持つが、或る共通する特質も持っている事、②此の特質とは「エンタテイメントの本質」を形成する「人々を楽しませる事」である事、③此の本質が当該事業の「成功根源要因」になっており、此の要因の存否が当該事業の成否を決定付ける事であった。大変驚いた。そして大変参考になった。

出典:人々を楽しませること
出典:人々を楽しませること
bing.com/images/detailV2&ccid
=blogspot&&selectedindex

 エンタテイメント分野だけでなく、非エンタテイメント分野でも、「人々を楽しませる事(感動、感激、ウキウキ等)」を見失った企業人(社長、役員、社員)は、当該事業の輝きを失わせ、将来への夢や希望を打ち消し、衰退の道を辿ると云う事である。最悪の場合、全てを失う。

 筆者は、今後、「第3部・応用編」を解説する事に正直、荷が重くシンドイ思いをしている。何故なら「物凄く数多くの業界」、「物凄く数多くの企業」、「物凄く数多くの企業人」の諸活動に焦点を当て本論をより深く検討せねばならないからだ。しかし敢えて自分を追い込み、「挑戦」する事にした。

出典:シンドイ挑戦
出典:シンドイ挑戦
bing.com/images=detailV2&ccid=
N3j3eAHr&id=illust&selectedindex

 しかし読者に愚痴を述べるだけの結果になった。申し訳ない。許して欲しい。そして今後の解説内容を読み、不適切、不十分、不満足な箇所があれば、遠慮なくビシビシと指摘して欲しい。

●日本の飲食店の倒産の激増!
 先ずは本論の解説対象として「数多くの業界」の中から我々が最も身近に接している「飲食店」を採り上げた。

 日経新聞、2025年11月11日の夕刊記事は、東京商工リサーチに依る飲食店の倒産調査の内容を伝えた。

出典:日経新聞、2025年11月11日の夕刊記事

 本調査では、2025年10月の全国倒産件数(負債額1000万円以上)は、965件と前年同月比6%増。しかし負債総額は5割減の1275億円。即ち小規模倒産が多いと云う事であった。

 特に飲食店の倒産が目立った。2025年1月~10月の倒産件数は、前年同期比1%増の734件で過去最多。特に大きい影響を受けたのが「焼き肉店」。その倒産は46件、前年同期比20%増。過去最多の45件を上回った。また「お好み焼き店」、「焼きそば店」、「たこ焼き店」も過去最多の30%増で倒産した。本新聞記事(東京商工リサーチ調査)は、円安に依る「輸入肉の高騰(2020年から80%増)」、「コメ価格の値上がり(前年同期比50%~70%増)」、従業員不足に依る「賃上げ圧力」などが経営を圧迫したと報じた。

●飲食店の倒産原因とは?
 飲食店の経営は、上記の様な「食料品の価格高騰」や「労務費上昇」の原因の他に、下記の倒産原因がある。

出典:閉店
出典:閉店
bing.com/images/detailV2&ccid
=p8DkQicq&id=&selectedIndex

その1 飲食店オーナー社長の独断専行
 日本で飲食店を手掛けるオーナ社長に「自説最優先」、「思い込み」、「過去の成功体験」などを基に当該店を独断専行的に経営する一方、「経営の基本」を軽視する人物が何故か極めて多い。その結果、友人、知人、経営コンサル等の「助言」に一切耳を貸さない。それでも成功するケースは勿論ある。しかし多くのケースでは結局、失敗している。

 特に「思い込み」で最も多いケースは、「美味しい料理」さえ出し続ければ、客は必ず来て、成功すると云う事がある。そもそも美味しいか否か? この判断には個人差がある。客が「美味しい」と言っても「本当か?」と疑うべきである。「味」ばかり追求しても客は来ない。

その2 顧客ターゲットの不明確とPRの不完全さ
 そもそも誰を対象とした店か? 誰にでも合う店を作るのか? これ等が定まらないと顧客へのアッピールや宣伝(PR)の軸が定まらない。

 大規模飲食店の経営の場合、顧客ターゲットの年齢層、職業層などの幅を広げ過ぎると問題を起こす。まして小規模飲食店の経営の場合、顧客ターゲットの年齢層、職業層などの幅は狭めて重点的、焦点的に顧客を絞り、狙い打ちすべきである。何故なら下記の問題を起こすからだ。

その3 顧客視点の欠如で方向性の見誤り
 顧客ターゲットの幅が広いと、店で提供する食べ物のメニューの種類を増やし、多くの種類が食べられる様にせねばならず、曖昧な食事提供姿勢となる。此の様になると資本力がある大規模飲食店の場合でも、資本力がない小規模飲食店なら猶更、①食事提供コストが嵩む。②食べ物の品質が不均一になる。③調理効率を悪化させる。④しかも食物廃棄ロスが増大させる。従って顧客視点と適正方法をキチンと見定めないと経営はいずれの場合でも成り立たなくなる。

その4 店舗立地の悪さ、リピーター客の未確保、店主や店員のサービスの悪さなど
 飲食店の立地の悪さ、開店後のリピーター客の未確保、店主や店員のサービスの悪さなどは、飲食店の資本力や規模を問わず、経営を失敗に追い込む。

 しかし立地が良いと土地や建物の賃借料が高くなり、経営を圧迫する。リピーター客の確保は一朝一夕に実現できない。店主や店員のサービス向上は時間と費用が掛かる。失敗しない様に実践しなければ成功はしない。と同時に成功させる様に実践しなければ成功もしない。

その5 自店で「流行」を作り出すこと。他店や世の中の「流行」に乗ると失敗の可能性大
 流行っている食べ物を提供すると成功するか? 実は流行っている食べ物を提供する他店との競争が激しくなり、それ程儲からない。ブームが去ると一気に客足が減少する。

 タピオカ、チーズティー、韓国風スイーツなどを最初に流行らせた飲食店や最も早い時期に真似し、導入した飲食店は成功した。後から流行にタダ乗りした飲食店は儲けられず、全て失敗した。

その6 飲食店が倒産する時のパターン
 飲食店の投資額が多額になると、その投資回収に時間が掛かる一方、運転資金の管理も困難になり、現金管理が重要となる。飲食店に限らず、どの会社も、倒産する時のパターンは酷似している。飲食店オーナー社長で日頃から銀行員との交流をキチンとしない人物や無借金経営を自慢する人物が何故か極めて多い。ヤバイ経営である。運転資金不足を多発させる。しかし銀行は直ぐに融資してくれない。どうにもならなくなる。或る日、支払い不能が発生。此の瞬間、倒産する。

●エンタテイメント論が説く「飲食店の倒産原因」
 飲食店の倒産原因は数多くある。紙面の関係で紙面が許す範囲で色々解説した。失敗原因は書き切れないので此処で終了する。

 さてエンタテイメント論が説く「飲食店の失敗原因」は何か? その答えは極めて明確。其れは「エンタテイメントの本質」である「人々を楽しくさせる事」を忘れ、その実践を怠る事である。

 「人々を楽しくさせる事」の意味は、飲食店オーナー社長でなくても、誰でも知っている。だからこそ店を任された店長や店員は、来客に声を掛け、楽しい気分に導くと云うサービスをする。更に飲食店オーナー社長は良いサービスをする為の社員教育を実施している。

 しかしエンタテイメント論は客への上記の様なサービスをするだけでは十分でないと説く。「人々を楽しくさせる事」の「人々」とは、「来店客」だけではない。「飲食店オーナー社長」の自身、店を任された「店主」、「店員」、「料理人」、「店に食材を運び込んでくれる人」などの人物まで意味する。

 言い替えれば、飲食店オーナー社長自身が楽しく店を経営する。店主や店員は自ら楽しく働きながら来客を楽しくさせる。料理人は自ら楽しく料理を作り、客席に来て料理方法を説明し、客を喜ばせ、楽しくさせる。店主や店員は食材配達人が楽しくなる様に接し、時にもてなす。

出典:店長と店員、来客、料理人、配達人
出典 店長と店員 bing.com/images/detailV2&ccid=88%2FvCge3&id=tenin_man
出典:来客 bing.com/images/detailV2&ccid=j%2bwAOHYH&id&selectedIndex
出典:料理人bing.com/images/detailV2&ccid=YiBrsrJ6&id=blogspot&selectedindex
出典;配達人bing.com/images/detailV2&ccid=CA51F7D&selectedindex

 飲食店オーナー社長は、以上の様に「人々を楽しくさせる場と空気」を創り出すため「あらゆる知恵」を絞り出し、実践する。でないと店は確実に潰れる。此の事を肝に命じる事である。

●エンタテイメント論の体得と心得
 エンタテイメントの本質は、先ずは自分自身が楽しくなり、次に相手を楽しくさせる。相手が楽しくなると益々自分自身が楽しくなる。此の双方向性の特質を持つ。なお「おもてなし」で代表される「ホスピタリィーの本質」は、相手を楽しくさせる一方向性の特質のみを持つ。

 飲食店に来訪する客は、自分達が最も好むモノを食べる。その時、店主や店員が自らも楽しく生き生きと活動しながら客である自分達を楽しくさせてくれる事を目撃する。この表裏がない店の「場」と「空気」を実感した時、当該来店客は間違いなく、その店を再来する様になり、自然にそのリピーター客になる。その結果、当該店は自然に確実に成功への道へを進む。

 エンタテイメント論を「体得」し、「心得」し、「実践」し、事業経営の極意を獲得し、事業に失敗せず、成功のチャンスを掴んで欲しい。

出典:一輪車(体得の方法)
bing.com/images/
detailV2&ccid=Bma9Vv%2by&id
=bicycle_ichirinsya
出典:一輪車(体得の方法)、悟り(心得の方法)
出典:悟り(心得の方法)
bing.com/images/detail
V2&ccid=6wZpvTTv&id=
mediaurlblogspot

つづく

ページトップに戻る